「玫瑰的故事」と『ストーリー・ローズ~恋を追いかけて~』
リウ・イーフェイ(刘亦菲)の主演ドラマ「玫瑰的故事」が話題になっている今、にわかに脳裏によみがえった映画が『ストーリー・ローズ~恋を追いかけて~』。この2作について語り合う中国の視聴者の皆さんの反応を見ておおっとなりました。
「玫瑰的故事」は香港の女流作家・亦舒による1981年の小説。
近年、中国では女性文学の一時代を築いたと言える亦舒の小説のドラマ化が盛んで、2017年に「我的前半生」、2020年に「流金歳月」、今年は「玫瑰的故事」の他にも「承歓記」が放送されています。
ただし、いずれも30〜40年前の小説のため、ドラマ化にあたっては現代に合わせて舞台や時代設定などが変えられていて、それぞれのドラマの出来については原作ファンの間で賛否が分かれているようです。
そして、映画『ストーリー・ローズ~恋を追いかけて~』ですが……
これは小説出版から間もない1986年に「玫瑰的故事」を映画化した香港作品。
出会う男性を次々と魅了していくヒロイン・黃玫瑰を演じたのはマギー・チャン(張曼玉)、監督はヨン・ファン(楊凡)。
ヨン・ファンは『美少年の恋』『桃色』からも分かるように、語られるストーリーは私小説的でもあり寓話的でもあり、全体的に耽美な香りが漂う作風。本作もそんな監督の美学が色濃く出ていて、複数の男性との恋を体験するヒロイン・黃玫瑰のスイート&ビターな物語が静かな語り口で綴られる映画でした。
つまり、リウ・イーフェイのドラマ版とは全くベクトルの違う演出。
しかも、ドラマ版でトン・ダーウェイ(佟大为)が演じる兄役に扮したのは全盛期のチョウ・ユンファ(周潤發)。
当時の彼には独特な色気があって、パリのセーヌ川を下る船の甲板に立つ姿がとても素敵だったのを覚えています。
そして、彼が黃玫瑰を溺愛した兄と、黃玫瑰が最後に愛した兄の面影の宿る男性を一人二役で演じていたので、ヒロインのラブストーリーにはどこか背徳的なものを感じずにはいられませんでした。
物語のラストは再び愛する人を失ってしまった黃玫瑰のアップの長回しで終わったという記憶があります。
その時のマギー・チャンの表情に何とも言えない悲しみ、憂い、諦念が表現されていて、結局どんな物語なのかと問われると何だか返答に困るけれど、心情的にはガツンと来るすごい映画を観たという衝撃がありました。
なお、ヨン・ファン監督は亦舒の小説がお気に入りだったようで、リウ・シーシー主演でドラマ化された「流金歳月」も1988年に映画化しています。
ヒロインは同じくマギー・チャン、その親友役にチェリー・チェン(鍾楚紅)、さらに2人から愛される日中ハーフの男性役に鶴見辰吾。
鶴見辰吾はこの2年前にアルバムのジャケット写真を見たヨン・ファン監督からオファーを受けたことがきっかけで『海上花』に出演したそうで、ヨン・ファン作品はこれが2作目。
当時まだ20歳過ぎで爽やかな少年っぽさを残す彼がチェリー・チェンと大人なラブシーンを演じていました。
こちらも男女3人の間に流れる情感を切り取ったコラージュのような作品で、一言で言えば「Don't think, FEEL!」といった感じ。
なぜだか分からないけど目が離せなくなる吸引力がありました。
ちなみにこの作品も、ドラマ版の「流金歳月」と同じ原作だということは言われないと気づかないかもしれません。
80年代の香港映画と言えば、最近スタンリー・クワン(關錦鵬)監督、アニタ・ムイ(梅艶芳)、レスリー・チャン(張國榮)主演の『ルージュ(胭脂扣)』を観返して、これまたひとしきり感慨にふけったり……。
リアルタイムを生きて当時のことはある程度覚えているはずなのに、今振り返ると何だか不思議な異世界感すら覚える……そんな80年代の映画をもう一度いろいろと観てみたくなりました。