
富士山に登って下りてコロナに罹った話
2023年、私はひとつの夢を叶えた。タイトルがすべてだが、そう、あの山に登頂したのである。そしてコロナになって家族を全滅させたという忌まわしい記録である。
一生に一度は登りたい、それがあの山。
人生の折り返し地点に差し掛かっている私はコロナによる諸々の制限が緩和された2023年春に「登るか!」とぼっちでツアーに申し込み、モンベルに駆け込み、地元の山に登り、ジムで体力づくりに励んだ。
運動神経は死んでいるが、筋トレ歴5年、同年代の中でもまあまあ体力がある方なのではないかとこの時は思っていたのだ。
Xデー前日。
一度東京に出ないとツアーに参加できない地方民の私はあの山に挑む前にしっかり睡眠をとるため都内某所のビジホを予約した。
さあ、しっかり眠って明日に備えよう!待ってろよあの山!!!!と布団に入った。
…………眠れねえ………
目を閉じても遠足前日モードが発動しどうしたって脳が眠らせてくれない。どうしたって眠れず、行きのバスで眠ることにすれば良いのだとNHKの「トラムの旅(ドイツ)」を見ながら夜明けを迎えた。
そしてあの山に登るツアー当日。
バス乗り場にて添乗員さんに案内された席は隣に誰もいない二人掛け。これは僥倖!ここで昨日の睡眠を取り戻すぜ!!!!
………眠れなかった……
フェンスで遮られた中央道の車窓(つまりほぼフェンス)を見ながら、ここで眠れない今、山小屋で仮眠するからそん時バッチリ睡眠をキメることをぼんやりした頭で考えた。
そしてバスは五合目・富士吉田口に到着。
ここで登山の最終確認をしていざ出発。ガイドさんには「まあまあ不安だよ、寝不足の中年だしね!!」とバカ正直に伝えた。
五合目から八合目まで、晴れたり霧が出たり小雨が降ったりと天候が変わりゆく中、黙々と岩場を登ってっく。
酸素が薄くなっていくからか息があがるのが分かった。


そして8合目の山小屋に到着。
ここで夕食のカレーを食べて仮眠をとることになっていた。1秒でも長く眠るためどの参加者よりも早くカレーをいに収め「お腹もいっぱいだしー、身体もクタクタだしー、睡眠不足だしー、起きれなかったらどうしよっかなー」なんて思いながら寝袋に入った。
……だめだ!!寝れやしねえ!!!!!!!
もう登るだけだし、いよいよ睡眠を諦めた私は、メンタルケアのためスマホで推しの写真を眺めながらウトウトした。
5時間が経過し深夜11時30分、いよいよ山頂アタックのときが来た。
個人的にこだわりはなかったが、あの山の頂きでご来光を見るのがこのツアーのメインテーマである。
だがこの時、ちょっと体調がおかしいなと感じていた。
まず膨満感が凄まじく、休憩時に行動食で体力を回復したいのに脳が固形物は絶対に無理と言っている。
リュックにゼリー飲料を2つ入れていたが、8合目までにすでに2つとも飲んでいて、己の計画性のなさを悔やむ事となる。
加えて呼吸が辛く、少し足を上げただけでもバテるような感覚があった。
ヘッドライトを付けた登山者で渋滞する登山道。ゆっくり登らざるをえなくなるので、こうなるとむしろ渋滞がありがたかった。

倒れて迷惑をかけるよりは正直に弱音を吐いて、リタイアならリタイアでいいからプロの判断を仰ごうとガイドさんに「山小屋で全然寝れなくてヤバいかも」と告白したら驚くほど意外な言葉が帰ってきた。
「そうなんですか!?元気そうに見えますけど」
……え、元気? 私…元気に見えるのか………うん、そうかも…
オデ……元気ーーーーッッ!!!
思考能力が決定的に欠如していたからか、なんだか行けそうな気がするー!と謎の底力がわき、うっかりあの山の頂に辿り着いてしまったのだ。

山頂の山小屋で休憩するのにワンドリンク的なシステムがあるので、豚汁を発注しめちゃくちゃ無理して胃に収めた。
そこから下山ルートを使い、何度か尻もちをつきながら下山。
ぼっちババアをケアしてくれて、なんだかんだ山頂まで連れて行ってくれた2名のガイドさんには感謝しかない。彼らが居なかったら絶対無理だった。
それからツアーバスで温泉に寄ったあと東京に着き、新幹線に乗り換えておらほの町に帰った。
そしてその日はもう、ぐっすり眠った。
翌朝、喉が……痛い。加えて寒気がするのに発汗が止まらない。
これは……と思い、体温を計ってみる。

この時期のこの症状…どう考えてもコロナだと普通は考えるはずである。
だが私は昔から疲労が溜まると発熱するし、風邪はいつも喉から来るし、睡眠不足だったし、ひょっとすると高山病になっていたのかもと、何を思ったか初期症状のうちに葛根湯で治しそうという判断を下した。
数日後、家族が次々発熱(その間に私の症状は軽くなっていた)。
あまりのしんどさに両親が内科に駆け込みコロナ陽性と診断された。
…っつーことはですよ、私、コロナを持ち帰ってました!!! こええな、恒常性バイアスってやつは!
本当にただの風邪だと信じてたから、医療機関を頼らず、葛根湯で治すという、ナイフでバイオハザードクリアみたいなことをしていた。
てか、いつどこでもらったんだ?? 前泊した時に行った夜パフェか? 山小屋か? こうなることが怖くて、登山中以外は常にマスクをしていたし、消毒も携帯したのだがこれに関しては未だに謎である。
その後、家族はあの山の名称を出すだけで「その名前を口にするな!」と立腹する始末で(当たり前だ)、タイトルの山はあの山と呼ばれるようになったとさ。
ー完ー
というわけでほろ苦い思い出となった人生初の富士登山。
目標が達成できたからよかったじゃん!…………と思うと思ったか?
今年も登ります!!!!
まず、体調が悪かったことが心残り。体力づくり及び装備については改善の余地が大いにあると思う。
それと具合が悪すぎて山頂で推しのアクスタ撮るのを忘れていた。持っていったのにワイのどあほー!!!
そして何より心に残った美しい景色をもう一度見たい。

というわけで家族には超呆れられているが(当たり前だ)、コロナを持ち帰っても移さないよう帰宅後に体調の異変を感じたら自主的に隔離するようスケジュールを組み、なんとか説得できたのでやります!
富士山リベンジ ~2024は富士宮ルートで~
今回もぼっちで8月のツアーに申し込み済。ガイドさんは絶対に居てほしいのでツアー一択でございます。
今年こそは悔いが残らないようにしたい次第。