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建築漫歩 vol.2 日立市役所新庁舎

「日立市役所新庁舎」 妹島和世+西沢立衛/SANAA /茨城県日立市

茨城県北部に位置する日立市。老朽化や東日本大震災による被災により、建て替えが行われており、2019年3月に完了した。vol.1の日立駅からは徒歩およそ30分の場所にあり、国道6号線沿いに建つ。地理的には、海と山に挟まれた場所といえる。

この建築はコンペで勝ったものであった。ちなみに、SANAA事務所が最優秀賞を受賞したわけだが、優秀賞には、日本設計・日立建設設計が選ばれ、地元日立出身の建築家と企業の争いのような構図となっていたことも興味深い。先に述べたように、東日本大震災の教訓から、地震に対して強い庁舎を求められたコンペであり、要望に「質実剛健な」という言葉まで記載されていたくらいであったという。また、既存の庁舎の建て替えであったことから、敷地全体に建物を計画することが難しいという条件もあった。

SANAAとしては非常に珍しく、二部構成で計画された。オフィス棟と「みんなの広場」の大屋根の部分である。かつてのSANAAの建築では、「みんなの広場」のようなオープンな空間と業務空間を共存させる新しい空間を多く計画してきた印象がある。その一体的な建築とは相反した今回の計画は、空間構成としても、ファサードとしても両者が対比されているような印象を受ける。

写真からもわかるように対比が強調されている。左側(東側)が「みんなの広場」に当たるオープンなスペースであり、有機的な大屋根、ガラスを多用したファサードである。一方で右側(西側)はオフィス棟で役所の業務を行う空間であり、無機質な箱をイメージさせ、窓も最小限でかいh情感という言葉とは正反対である。北側から撮影した写真であるが、二部構成がくっきりと表れていて非常に面白い。

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オフィス棟の内部は入っていないが、私が読んだ書籍によると、南北にコアを置き、真ん中をフレキシブルにするゾーニングをとられているそうだ。廊下は海側(東側)に配置されており、地理的な条件を生かして、どの階でも山と海が見えるようなプランとなっているそうだ。1,2階が窓口業務のための空間で3階以上がオフィスとして用いられるそうだ。窓口業務と「みんなの広場」は導線としてつながっていて、市民が主として利用することを考慮している。

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「みんなの広場」は有機的な波打った曲線が特徴的な大屋根がかかっている。当初、SANAAがコンペで提案したものは、半円形の大屋根であったように思われるが、実際にはいくつかに分割された波打つ形式で完成された。それぞれのRも各々違っているように感じた。オフィス棟との対比をくっきりと表す点では波打つ大屋根のほうが良いと感じたが、何を象徴しているのかが気になる。18年間日立市で生活したものとしては、勝手に太平洋をモチーフにしているのかと考えてしまった。質実剛健な、堅苦しい業務を行うヴォリュームを山とするならば、非常にオープンで日の光も差し込む市民でにぎわう空間は海なのかと。
あるいは構造的なことなのか。大屋根を一面でかけることを考えると構造的に支えるものは大きくなるように感じる。分割することで、その分分割された箇所に荷重が集中するわけだから、ファサードとしてもまとまって見れる。レストランや多目的室のヴォリュームが「みんなの広場」のちょうど北東方向に配置されているが、これも構造的な兼ね合いだとしたら、個人的には面白いと感じた。

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ところで、「みんなの広場」はすべての場所が屋根でおおわれているわけではなく、写真のように、ところどころに穴が開いている。これで完全な外部空間と半外部空間が共存する。外部空間には芝生が植えられており、日の光も差し込むことから、晴れている日には非常に心地の良い空間になるように感じる。非常に有機的な形状の屋根に、機械的に穴をあけたような構図になっているが、この効果はどのようなものなのか非常に気になる。有機的なものは有機的とまとめると若干くどく感じるが、これほどまでに対局な形状はどういった意図なのだろうか。

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役所は市民からしてみればめったに行く場所ではないうえ、堅苦しい業務を行っているという偏見から、敬遠されがちな空間であったが、この建築では、より市民が利用できるようにと計画されているように感じた。「みんなの広場」がこれを象徴している。ランニング・ウォーキングコースも兼ね備えられており、少子高齢化が進む地方の街としては非常に良い空間が見て取れる。偏見をなくすような建築こそが魅力的なのだろう。

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