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建築漫歩 vol.1 日立駅

「日立駅」  妹島和世建築設計事務所/茨城県日立市

茨城県北部に位置する日立市は、日立製作所の創業地として栄えた工業城下町である。現在では工場のみが残る。南北に長い平野で街が広がり、西側の神峰山等の山々、東側に広がる太平洋と、非常に自然豊かな町である。この地区を走るのがJR常磐線であり、日立駅はその駅の一つである。

妹島和世氏は茨城県日立市出身の建築家であり、現在はSANAAにおいて西沢立衛氏とともに活動をしている。ガラスを多用する建築を多くデザインされており、金沢21世紀美術館やトレド美術館ガラスパヴィリオン(アメリカ・オハイオ)などからも見て取れる。

日立駅も例外ではなくガラスを多用している。壁面はガラスのカーテンウォールとし、上下2枠2辺支持により、サッシュレスとしている。全面ガラス張りであるため、太平洋を望むことができ、利用者があたかも海に浮いているかのような感覚に陥る。

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日立駅のベンチは特徴的だ。と子供のころから感じていた。形状は何か錨のようなものをモチーフにしているのかと考えてしまっていた時期もあるが、全くの誤解であった。建築を学び始めて最近知ったことで非常に恥ずかしいことではあるが、これはSANAAがデザインしたFlowerというベンチである。独特の有機的な曲線を描く「Flower」は、3方向の面に座った時に各々が干渉しあうことなくリラックスでき、また2人で向き合って座る際には、会話がしやすいように快適に感じるデザインとなっているそうだ。SANAAがデザインした建築にはいたるところにこのベンチが設置されており、非常にマッチしていると感じる。

日立駅は壁面がガラスのカーテンウォールとなっているが、床はコンクリート仕上げ、天井はアルミパンチング仕上げとなっている。これら3つの要素がもたらす結果として、海や町からの景色が柔らかく取り込まれ、ゆるくつながるように反射する。実際、太平洋の海面の乱反射の光と日立駅構内に差し込む光の反射具合は酷似しているように感じる。

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周囲の景色が柔らかく取り込まれることと同時に、天気や時刻を感じやすい構造になってるため、人々の生活に親身になっているといえるだろう。毎日通勤や通学で利用する駅であるから、効率的な導線を導くとともに、先に述べた天気や時刻の変化などの自然がもたらす些細な変化を感じられることが大変気に入っている。例えば、仕事終わりの夕刻に、山に沈みゆく夕陽がガラスのカーテンウォールやコンクリートに反射品が駅という空間に取り込まれるとしたら、利用者の心の中に感じる何かがあるだろう。

日立駅には駅としての機能以外に、カフェが一軒入っている。ちょうど駅舎の東端に位置しており、太平洋を望むことができる構造となっている。駅舎から少し飛び出したデザインとなっていて、三方向が外に囲まれる空間である。駅のホームの騒がしさから少し遠ざけつつ、駅舎との一体感を持つという中間的な位置に配置されているように感じる。

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ただ、ここで少し懐疑的な見方ができよう。あくまで一つの考えであり、決して批判しているわけではない。まだ1年間しか建築を勉強していない自分での意見であることをご了承いただきたい。このカフェが入っているボリュームであるが、完全なるカンチレバーにはならなかったのだろうか。仮にこのボリュームを支えている柱がなかったとしたら、突き出している様子がより伝わり、さらには、駅舎側から見たときの眺めとして邪魔するものが減るのではないだろうか。ここで注意しておかなければいけないこととして、L字型のボリュームから一つ飛び出したエレベータ部分のボリュームをこのカンチレバーを支える構造体の一部として導入することである。L字型のすっきりしたボリュームと完全に太平洋に浮いているかのようなイメージを持たせることができるカフェのボリュームの両者が実現できるのではないか。

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日立の中央広場から日立駅を東西に結ぶこの通路は水平線を強調し、太平洋の地平線の広がりと何か通ずるものがあるように感じる。360度日立市の風景を楽しむことができるデザインであることは間違いないが、それに加えて、この建築自体も周囲の自然を感じさせるデザインであるように解釈できよう。

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