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【写真が導いてくれた私の人生】 カメラとの距離が遠くなった社会人生活


デザイン会社での日々

デザイン会社での仕事は、毎日が目まぐるしいスピードで進んでいきました。複数のプロジェクトが同時に進行し、それぞれが厳しい締め切りを抱えていました。デザインの仕事は、美しいビジュアルを作るだけではありません。クライアントの意図を正確に汲み取り、それを具体的な形に落とし込むスキルが求められます。

「どのように情報を整理するべきか」「どんなフォントを選ぶべきか」「どの色を使えばメッセージが効果的に伝わるか」「写真をどの位置に、どんな大きさで配置すれば視線を引き付けるか」といった、細かな要素が全体の印象を大きく左右します。

私は、これまでの写真撮影とは異なる形で「伝える力」を学びました。プロジェクトごとに異なるテーマに合わせ、短期間で最適なアウトプットを作り上げる必要があります。その過程で、クライアントや同僚とのコミュニケーションを通じて、写真やデザインの本質的な役割を考える機会が増えました。

「何を伝えたいのか」「どのように伝えるべきなのか」という問いが、私の日常の中で繰り返されるようになりました。この時期に培った視点は、後に写真家としての道を再び歩み始める際の指針となりました。

撮影現場での気付き

スタジオやロケ撮影の現場では、カメラマンがどのように光を操り、構図を作り上げ、理想のイメージに近づけるのかを間近で学ぶ貴重な経験がありました。特にロケ撮影では、自然光の微妙な変化が写真にどれだけ大きな影響を与えるのかを実感しました。時間帯や天候によって異なる光の特性を活かし、一瞬の判断でシャッターを切るプロフェッショナルな技術には、毎回新たな発見がありました。

また、一枚の写真が完成するまでに必要な準備や裏側の作業にも触れることができました。セットの準備、スタッフの役割分担、予算内で可能な演出の選択。これらの要素がどれも重要であり、全体が調和して初めて写真が完成することを知りました。それは、これまで「カメラ一つで完結する」と考えていた写真の世界観を大きく変えるきっかけでした。

何よりも印象的だったのは、カメラマンとの関係性です。メインで一緒に仕事をしていたカメラマンとは、この時期から深い信頼関係を築きました。私が描くイメージを彼が瞬時に理解し、それを形にする力。その連携は、撮影の成功に欠かせないものでした。時にはクライアントからの抽象的な要望に戸惑うこともありましたが、彼と意見を出し合いながら最適なアプローチを見つけ出すプロセスは、私にとって大きな学びとなりました。

東京で揉まれて、疲れた時によくみていた景色

ディレクションの力

この頃、私は「ディレクター」として、チームで作品を作り上げる醍醐味を知りました。写真撮影は単独で完結するものではなく、カメラマン、スタッフ、そしてクライアントが一体となることで完成するもの。その中で、イメージを言葉で正確に伝え、チーム全体をまとめる力がどれほど重要かを実感しました。

また、写真を撮るだけではなく、感性や美意識を磨き続けることの価値にも気付きました。「自分がカメラを持たなくても、写真に関わることで新たな表現を追求できる」という事実は、私に新しい自信を与えてくれました。さらに、デザイン会社での経験は、写真とデザインの融合が生み出す可能性を目の当たりにさせてくれました。それは、言葉や視覚表現を通じて人々に深いメッセージを届けるための新たな手段を示してくれるものでした。

今振り返ると、この時期は私にとって「写真家」としてだけでなく、「クリエイター」としての幅を広げるための重要なステップでした。そして、20年以上にわたり続いているカメラマンとのパートナーシップは、この時期に培った信頼関係が土台となっています。彼がかけてくれた「一緒に考えれば、もっと良いものが作れる」という言葉は、私にとってこれからも大切な指針となる言葉です。この経験を通じ、写真とデザインが交差する未来に向けて、私は新たな挑戦へと進んでいきます。

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木下大輔
プラチナプリントの魅力を伝える為の活動に使用させていただきます。