オークスと日本ダービーのタイム差比較
1995年の牡馬クラシック3戦目菊花賞。
結果的には3歳春には条件馬だったものの、後に有馬記念や天皇賞春などを勝つ歴史的名馬マヤノトップガンが勝利しましたが、オークスを制した世代最強牝馬・ダンスパートナーが挑戦し、1番人気に支持されていました(5着)。
ダンスパートナーを管理していた白井壽昭調教師は「ダービーの勝ち時計がオークスの勝ち時計より遅かったから挑戦した」と語っていました。
そこで、牡馬・牝馬三冠路線各3戦の中で唯一同コース(東京競馬場・芝2400m)で行われるオークスとダービーのタイム比較で各世代の牡馬・牝馬の実力差はある程度推測がつくのかどうか、調べてみました。
もちろん実際には当日の馬場状態やペース展開などが同じではないため、単なる参考記録にしかなりません。
また、馬場状態が大きく異なる場合(例:オークス重、ダービー良)はさらに参考になりませんが、馬場状態が悪かったのに片方の時計を上回っていた場合は特筆記録と考えます。
ただオークスの方が基本的には距離延長の度合いが激しく距離不安のある馬が多いため、スローペースになりやすく、時計は遅くなりがちです。
1.馬場状態同条件でオークスがダービーの勝ち時計を上回った年 ※1980年以降
1980年以降、馬場状態が同条件の時にオークスの勝ち時計がダービーの勝ち時計を上回った年は3回しかありません。
なお2007年は本来は基本的にオークスに出る牝馬のウオッカがダービーを勝っている特殊な年です。
1995年オークス:ダンスパートナー、ダービー:タヤスツヨシ
冒頭に書いた年です。サンデーサイレンス産駒のクラシック参戦初年度で、オークス馬もダービー馬もサンデーサイレンス産駒の制覇となりました。
結果的にタヤスツヨシはダービー後は活躍できず、菊花賞もオークス馬ダンスパートナーに負けて6着。ダービー2着の皐月賞馬ジェニュインはマイルCS制覇など活躍しました。3歳秋は菊花賞ではなく3歳で天皇賞秋に挑戦し2着と好走しています。
後に菊花賞馬マヤノトップガンや、故障で出遅れるも古馬でマヤノトップガンのライバルとして活躍したマーベラスサンデーが台頭してくるなど、結果的には十分強い世代でしたがダービー時点では牝馬ダンスパートナーに地位を脅かされる程度のレベルだったことは否めない気もします。
2012年オークス:ジェンティルドンナ、ダービー:ディープブリランテ
牝馬は牝馬三冠を含むG1を7勝した歴史的名牝・ジェンティルドンナがいた世代で、牝馬のレベルが高かった世代だというのはダービーとオークスの時計を比較しても納得できる結果になっていますが、牡馬もG1を6勝するダービー5着馬ゴールドシップがいるかなり強い世代で、牡馬牝馬ともにレベルが高かったからこそ近い時計が出たといえるかもしれません。
2017年オークス:ソウルスターリング、ダービー:レイデオロ
これはダービーがスローペースになった影響が大きいですがオークスの勝ち時計がダービーを3秒近く突き放して速いという珍しい年でした。
これだけ見ると牡馬のレベルが低い世代のように思えなくもないですが、実際にはダービー馬レイデオロが天皇賞秋を古馬で制覇、ダービー2着スワーヴリチャードがジャパンカップを制覇するなど牡馬も決して弱くない世代でした。
なお牝馬路線もオークス馬ソウルスターリングこそその後活躍できなかったものの、オークス5着リスグラシューが古馬で春秋グランプリ制覇し年度代表馬になるなど、レベルが高い時代でした。
※参考2007年オークス:ローブデコルテ、ダービー:ウオッカ、ダービー2着:アサクサキングス
牝馬のウオッカがオークスではなくダービーに挑戦して牝馬のダービー馬になった年です。
この年の牝馬路線にはダービー馬ウオッカと同等の強さを誇ったライバル・
ダイワスカーレットがいましたが、熱発でオークスを回避。そのためオークスは世代最強の2頭が不在となりました。
その割にはダービー牡馬最先着のアサクサキングスとオークス馬ローブデコルテのタイム差は0.3秒で小さいです。
ダービー時点では牝馬のレベルが高かった、または牡馬のレベルが低かった年だといえるかもしれません。
ダービー5着ドリームジャーニーが後に春秋グランプリ制覇しているので最終的には印象ほど牡馬が弱い世代ではありませんが、第一次最強牝馬時代の幕開けを許した世代となっています。
2.馬場状態同条件でダービー馬とオークス馬の勝ち時計のタイム差が0.3秒以内の年 ※1980年以降(オークス馬が勝ってる場合除く)
1989年オークス:ライトカラー、ダービー:ウィナーズサークル
1989年クラシック世代といえばオグリキャップらの1988年世代とメジロマックイーンらの1990年世代に挟まれ地味な世代ですが、良馬場のダービーの勝ち時計と稍重のオークスの勝ち時計の時計差が0.2秒しかなく、実質オークスに負けたといっても過言じゃない結果です。
実際1989年世代の牡馬は活躍馬が少なく、後に有馬記念3着があるダービー9着サクラホクトオー、後にステイヤーズSをレコード勝ちするダービー14着の皐月賞馬ドクタースパートが目立つくらいです。
2018年オークス:アーモンドアイ、ダービー:ワグネリアン
2018年は第二次牝馬最強時代の始まりといえる年で、後に牝馬三冠を含むG1を9勝する歴史的名牝アーモンドアイが台頭。
牡馬もクラシック路線で活躍できなかったダービー5着のブラストワンピースが3歳時に有馬記念を制したり、ダービー未出走の菊花賞馬フィエールマンが天皇賞春を連覇し、5歳時も天皇賞秋でアーモンドアイに僅差と好走するなど弱いわけではなかったのですが同世代含む同時代の牝馬の圧倒的な強さの前には地味だった印象は否めません。
結果的には牝馬のレベルが高いためにオークスとダービーのタイム差が少なかった世代と言える成績です。
2019年オークス:ラヴズオンリーユー、ダービー:ロジャーバローズ
オークス馬ラヴズオンリーユーは国内ではこの後あまり活躍できませんでしたが海外G1を3勝。
一方でオークス3着馬のクロノジェネシスがこの後秋華賞を制覇しグランプリ3連覇など活躍し、アーモンドアイ、リスグラシューからの牝馬最強時代のバトンを受け継いで活躍。マイル以下ではオークス未出走ですが桜花賞馬グランアレグリアが圧倒的な強さを見せるなど、総じて牝馬のレベルが高い時代でした。
牡馬も当初はダービー4着の皐月賞馬サートゥルナーリアの素質が注目されるなど久々に大物が生まれる世代と期待されたものの、ダービー馬ロジャーバローズもダービー後に故障引退、サートゥルナーリアも古馬ではG1勝利ないまま引退しました。
2018年世代に続いて結果的に牝馬のレベルが高い世代だったのでオークスとダービーのタイム差が少ない世代だったといえる成績です。
2020年オークス:デアリングタクト、ダービー:コントレイル
2018年から3年続けてオークスとダービーのタイム差が0.3秒差以内となりましたが、2020年は牡馬牝馬ともに無敗の三冠馬が生まれた歴史的な世代です。
結果的にはコントレイルは安定して活躍したものの三冠達成後のG1勝利はラストランのジャパンカップのみとなり、デアリングタクトも三冠達成後、故障もあって復帰後健闘はしていますが戦績は伸びていません。
同世代の牡馬・牝馬でいうと牡馬はダービー5着ディープボンドがG1勝利こそないもののG1戦線の主役格として活躍し続けており、オークス2着ウインマリリンに海外G1勝利があります。
その他だと牡馬はパンサラッサが海外G1制覇、ポタジェが大阪杯制覇、牝馬は桜花賞馬レシステンシアがマイル以下で何度もG1好走、レイパパレがグランアレグリア、コントレイルら2強を抑えて大阪杯圧勝など世代全体でみると牡馬牝馬ともに活躍馬はいるものの、これらはダービー・オークス未出走の馬であり、ダービーとオークスのタイム差から世代の牡馬牝馬の差を比較するのは難しい結果となっています。
3.馬場状態が悪い方が勝ち時計で上回った年 ※1980年以降
基本的にはペースの問題もありダービーの時計の方がオークスより大きく上回ることが珍しくないものの、ダービーの馬場状態が悪かった年はダービーよりオークスの勝ち時計が速くなることが多く、馬場状態が悪かった方が勝ち時計で上回った例は2回しかありません。
1992年オークス:アドラーブル、ダービー:ミホノブルボン
この年のダービーの馬場状態は稍重でしたが良馬場で行われたオークスの時計を0.9秒上回っています。
ミホノブルボンは朝日杯を含めると無敗でG1を3勝した歴史的名馬ですが、ダービー2着のライスシャワーも後に菊花賞、天皇賞春をそれぞれレコードで制覇する歴史的名馬です。
後のライスシャワーの活躍から考えてもライスシャワーがいなければ菊花賞をレコード勝利とともに無敗三冠馬となっていたミホノブルボン含め、牡馬のレベルがかなり高い世代でした。
1998年オークス:エリモエクセル、ダービー:スペシャルウィーク
1998年クラシック世代(牡馬)は史上最強世代との呼び声も高い世代で、それを証明するかのように稍重で行われたダービーの勝ち時計がオークスの勝ち時計を2.3秒上回っています。
スペシャルウィークは後に春秋天皇賞、ジャパンカップなどを制覇する歴史的名馬で天皇賞秋をレコードで勝利。ダービー4着の皐月賞馬セイウンスカイは後に菊花賞を当時の世界レコードで制覇。ダービー14着のキングヘイローも後に高松宮記念を勝っています。
このダービーの時計が稍重でありながらコース改修前当時のレコード2:25.3に迫る時計だったこともこの世代のレベルの高さを証明してるかもしれません。
この世代の代表牝馬にはオークス3着の桜花賞馬ファレノプシスがいて、彼女もその後にも秋華賞とエリザベス女王杯を制するなど当時の牝馬としては弱い訳ではありませんでしたが、2年上に牡馬と対等以上に戦った歴史的名牝エアグルーヴ、1年上にエアグルーヴをも下すほど牝馬限定戦で強かった名牝メジロドーベル、1年下にドバイWC2着、有馬記念3着と海外や古馬牡馬相手でG1好走がある名牝トゥザヴィクトリーがいたことと比較すると残念ながら地味な印象があります。
4.馬場状態同条件で勝ち時計が3秒以上も上回った年 ※1980年以降
1996年オークス:エアグルーヴ、ダービー:フサイチコンコルド
ダービーとオークスのタイム差が3秒以上も離れた年というのを見て相関性を考えるとすれば牝馬のレベルが低かったか、牡馬のレベルが高いかのどちらかを考えてしまいますが、オークス馬エアグルーヴは牡馬と台頭以上に活躍した歴史的名牝の1頭でした。
この年の牡馬はダービー馬フサイチコンコルド、ダービー2着の菊花賞馬ダンスインザダークら世代トップクラスの2頭が3歳で故障引退して牝馬や古馬と対戦する前に引退してしまいましたが、2歳王者バブルガムフェローが3歳で天皇賞秋を制覇と活躍。
ただ翌年の天皇賞秋では同世代の牝馬エアグルーヴに競り負けており、牡馬も強かったものの牝馬エアグルーヴの強さが際立つ世代だったともいえます。
2005年オークス:シーザリオ、ダービー:ディープインパクト
無敗三冠馬ディープインパクトがオークスの勝ち時計に5.5秒もの大差をつけてダービーを勝っています。
オークス馬シーザリオは残念ながら故障で古馬や牡馬と戦わないまま引退してしまいましたが、アメリカンオークスを勝って父内国産馬初の海外G1制覇、日本調教馬初のアメリカG1勝利を達成し、繁殖牝馬としてもG1馬を多数生み出すなどポテンシャルの高さを感じさせ、強い牝馬が多数出てきた後の今でも史上最強牝馬候補に挙げる人もいる名牝で、無事だったら同世代のディープインパクトとどう勝負していたのか気になります。
結果的にはこの世代は牡馬牝馬ともにこの後ディープインパクトと対等に勝負できた馬がおらず、ディープの能力がかなり飛び抜けていた世代だったといえるかもしれません。
5.結論と2021~2023年オークス、ダービー
結論(総合的感想)
基本的には相手や展開、馬場状態で左右され、同じレースじゃないので一概には言えないものの、同年のオークスとダービーのタイム差でなんとなくの傾向は見えるように思える部分もあるように感じました。
最近でいえば調教や体調管理などの進化で牝馬と牡馬の実力差はほぼ無くなったかむしろ斤量が軽い分牝馬が強いくらいの時代になってきているため、ダービーとオークスのタイム差が少ない年は牝馬のレベルが高いか、レベル差が小さいことが多い傾向があるように思います。
2021~2022年オークス、ダービー
アーモンドアイ、クロノジェネシスらが混合G1で活躍し牝馬が強い時代だった2018~2020年は3年連続でオークスとダービーのタイム差が0.3秒以内でしたが、2021~2022年は2年連続でオークスよりダービーが2秒速い結果になっています。
2000年代以前はダービーの時計がオークスより2秒前後速いのは日常茶飯事でしたが近年は珍しく、エフフォーリアやタイトルホルダー、イクイノックスらが活躍したように久々に牡馬が強い時代が来ているのと連動してる感じがあります。
2023年オークスとダービーの展望?
2021~2022年に続いて2023年も3年連続でダービーが高速決着となり、2023年のダービーのタイムもオークスより2秒前後速くなるとしたら、2分21秒前半のタイムが出るという予想ができるかもしれません。
ただ、今年の3歳牝馬世代は早くからリバティアイランドが怪物だと噂され、実際にそれを証明するように圧巻のパフォーマンスを見せながら牝馬二冠を達成したのに対し、牡馬クラシック路線は主役不在の混戦と噂されていてレベルが低いとすると、リバティアイランドを中心とした牝馬最強時代が再び来る可能性があります。
そう考えると、アーモンドアイやクロノジェネシスらがいた2018~2019年同様にオークスと0.3秒差以内の決着になるか、オークスの勝ち時計の方がダービーより早い年になる可能性が高い気がしてきます。
ただ、皐月賞で高いパフォーマンスを見せて評価を上げたソールオリエンスを筆頭に実は牡馬もレベルが高い世代だったとしたら、2022年のドウデュース(イクイノックス)や2021年のシャフリヤール(エフフォーリア)同様にダービーの勝ち時計はオークスよりかなり速い時計になるかもしれません。