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ディープインパクトのドーピング問題を改めて考える

※2024/9/26 加筆、修正

※2024/6/22 加筆、誤字修正


アンチは過激に捉えすぎ、ファンは盲目・楽観的に捉えすぎているこの事件、この問題を改めてニュートラルめに考えてみたいと思います。



◆ディープインパクト禁止薬物検出事件とは

フランスのロンシャン競馬場にて2006年に行われた競馬の第85回凱旋門賞において、日本の池江泰郎調教師の管理馬・ディープインパクトの馬体から禁止薬物であるイプラトロピウムが検出され、失格となった事件。

イプラトロピウムという薬物

・呼吸器疾患に使われる薬物。

・競走馬に対する治療目的での使用自体はフランスでも日本でも認められている。

フランスではイプラトロピウムが体内に残留した状態で競走に参加することは禁じられている

イギリス、オーストラリア、アメリカ合衆国でも禁止(当時)

・日本では動物用のイプラトロピウムがあまり市場に流通していないため、当時JRAは禁止薬物に指定していなかった

・日本でもディープインパクト引退後に禁止薬物に追加された

ディープインパクト陣営の弁明

池江泰郎調教師がフランスギャロに提出した弁明書は「ディープインパクトは9月13日からせき込むようになり、21~25日フランス人獣医師の処方によりイプラトロピウムによる吸入治療を行った。その間2度、吸入中にディープインパクトが暴れ、外れたマスクから薬剤が飛散し馬房内の敷料(寝ワラなど)、干し草に付着。それをレース前日から当日の間に同馬が摂取し、レース後まで残留した可能性が高い」という内容 
(凱旋門賞は10月1日開催)


ディープインパクト(陣営)擁護側の意見

・日本では当時まで禁止薬物ではない、故にディープ批判するならディープ以前全ての日本馬を疑問視する必要がある

風邪治療で使用した薬物であり、治療用の使用は認められている以上、意図的ではないなら悪質性はない

・イプラトロピウムは日本国内で流通してないのだから国内では使用してるわけがない

・所詮は風邪薬で、万が一意図的に使用してたとしても大した影響はない。

・その後の優秀な種牡馬成績ドーピングなしでの能力と血統の優秀さを証明している。

現地フランス人獣医師の処方した薬物であり、日本馬に凱旋門賞を勝たせたくないフランスの陰謀の可能性がある。


ディープインパクト(陣営)批判側の意見

ディープインパクトは日本でも薬物使用のおかげで強かっただけで薬物がなければ弱い馬。

・日本でも意図的、恒常的に薬物使用していて、そのおかげで競走成績が良かっただけ。

・所詮は曰く付きの成績を持つ馬であり、(歴代)最強馬などといった高い評価は禁物

・風邪をひいて吸入治療した際に馬が暴れて薬が寝藁等に飛散し、それをレース直前に食べたというのは苦しい言い訳で怪しい。


◆擁護側の意見を元に考察

【肯定的◎←○←△→※→×否定的】

1.日本では当時まで禁止薬物ではない、故にディープ批判するならディープ以前全ての日本馬を疑問視する必要がある。→【△】

一理あるとも言えます。
しかし、凱旋門賞に出走馬の禁止薬物による失格は当時でも史上初であり、2023年現在でも日本馬その他含め唯一の例となっています。
つまり、ディープインパクト以前の馬でも少なくとも過去に凱旋門賞に出走した日本馬は少なくともディープインパクトよりはシロの可能性が高いといえるのが実情でもあります。

その他、当時(2006年)時点でもフランス以外、アメリカ、イギリス、オーストラリアでも禁止薬物指定されていましたが、凱旋門賞のフランス以外の日本馬の遠征においても禁止薬物検出により失格になった日本馬は分かる限りディープインパクトのみ、やはり以前の馬でも海外遠征をした日本馬はディープインパクトよりはシロの可能性が高いといえます。
2000年代以前は現代ほど海外遠征が盛んではないとはいえ、過去の日本馬の中にも似たような使用があった可能性は完全に否定できないものの、海外遠征経験のない馬を含めても日本競馬史におけるディープインパクトの事件の唯一無二の特殊性は否定できません。
つまり、十分参考に留意する必要のある考え方ではあるものの、ディープインパクトの問題について強力に擁護できる理論ではなく、逆にディープインパクト事件の特殊性を際立たせてしまう部分もあります。

2.治療用の使用は認められている以上、意図的でないなら悪質性はない。→【◎】

風邪の治療用での使用は今でも各国で認められている以上、意図的で無ければ悪質性は高くないと見るのが妥当です。


3.イプラトロピウムは日本国内で流通してないのだから国内では使用してるわけがない。→【△】

詳細は不明ですが当時の見解、説明でも動物用のイプラトロピウムは日本でも「(あまり)市場に流通していない」ということです。
また、スポーツ紙取材(スポーツニッポン 2006年10月22日)によれば帰国後の池江調教師は

遠征前から国内で行っていたとされる吸入薬による治療について、同師は「せきをしたり、のどが荒れた場合に時々行っていた。これはディープ インパクトに限らず、他の馬も一緒」

スポーツニッポン 2006年10月22日

と語っており、この吸入薬による治療がイプラトロピウムを意味するかどうかは確実なことが言えませんが、遠征前から同様の薬物を国内でも使っていたと示唆するコメントを出しています。

ただ、一応公式見解、発表?では

国内で使っていた薬物はイプラトロピウムではない」
「イプラトロピウムは当時のJRA獣医師や調教師の個人輸入薬リストにない」

とする情報もあります。(一部新聞記事)
それを信じれば、国内では少なくともイプラトロピウムは使ってない可能性が限りなく高いといえます。

しかし、この情報は当時の一部のスポーツ紙の記事において補足情報として付記されているのみであり、その記事の著者の情報が確かであるのかも分かりません。
当時の記事の転載をしてるブログがあり、現状その記述はそこでしか見たことがありません。
そもそも(スポーツ)新聞の記事は嘘の知識でも公然の事実のように知ったかぶりで書いてることがしばしばあるので、完全に信じるのは微妙な所です。

また、人間用のイプラトロピウムは国内に流通していたわけで、そもそも当時禁止ではなかったのですから、当時JRAが禁止していないイプラトロピウムの輸入・購入・使用を隠れて行うのは容易だったでしょう。

たとえば、JRA獣医師や調教師は正規の経路から直接輸入・購入してなくとも、別の知人の医師や獣医師等を介して入手するなどはできたかもしれません。
どちらにしても信憑性ははっきりと分かりませんが、当時すでに主要な競馬開催国の大半で禁止になっているほどの薬を禁止し忘れているJRAですから、そのあたりの管理が杜撰だったり、対応が遅れていても不思議ではありません。

4.所詮は風邪薬で、万が一意図的に使用してたとしても大した影響はない。→【×】

事件後、2007年1月に行われた全国の競馬主催者で構成される「禁止薬物に関する連絡協議会」で、JRA馬事部の伊藤幹副長

「イプラトロピウムは競走能力に影響を及ぼす明らかな禁止薬物である」

日刊スポーツ 2007年1月18日付

という見解を述べています。

しかし、日本競馬の国際地位を下げられないために急いで他国の基準に迎合しただけかもしれず、その判断、考察の確かさも100%と言えるかはこの発表からだけでは分かりません。
ただ、万が一意図的に恒常的に使用していたとすれば競走能力に影響を及ぼす可能性があると捉えるのが自然でしょう。

一方、「イプラトロピウムで競走能力は向上しない」というデータを出している研究もあります。(健康な馬に投与した場合)

ただ、その研究で用いた薬物の量が少なすぎて参考にならない(下の研究に比べ1/10以下の投与量)という指摘もあり、「一定以上の量を投与すると競走能力が向上し、投与量に応じて効果も上がる」というデータを出してる研究が出ています。(ただし再発性気道閉塞の症状がある馬の場合の研究であり、健康な馬については分からない)

また、恐らくディープインパクトアンチの人が調べて書いていたデータなので正確性は分かりませんが、他国にてイプラトロピウムの不正使用が発覚した馬の使用前後の成績を見ると明らかに使用時のみ成績が劇的に向上していたようです。

1.フランスの競走馬PASCALO(障害馬) イプラトロピウム使用発覚馬(?)
https://www.racingpost.com/profile/horse/554281/pascalo/form (こちらでは3着のまま)(失格発表2ヶ月後なので更新忘れ?)
https://www.france-galop.com/en/horse/MHZtRXJoQ1FIZUtTUHJ2NStieWhPdz09 (France-Galop公式ではDI:失格)
2007年の成績:
 4月10日 PRIX HYERES (3700m) 16頭立て着外(8着以下)
 6月5日 PRIX JEAN VICTOR (4300m) 17頭立て3着入線失格 (イプラ使用)★
 11月4日 PRIX CACAO(4300m) 15等立て競走中止
 12月2日 PRIX JEAN LAUMAIN (4300m) 17頭立て着外

2.オーストラリアの競走馬How Discreet イプラトロピウム使用発覚馬(?)
https://www.racing.com/horses/how-discreet-2005
2008年の成績:
 2月4日  Two-Years-Old Trial (800m)7頭立て5着
 2月27日 The Risdon Hotel / Sabis 2YO Maiden Plate (1050m) 10頭立て6着
 3月8日 Zobel Handicap (1100m)9頭以上立て1位入線失格 (イプラ使用)★
 3月22日 Malaysia Air Line Handicap (1000m) 出走辞退
2009年の成績:
 4月20日 Three-Year-Old Maiden Trial (1000m) 7頭立て4着
 5月4日 Three-Year-Old Maiden Trial (1000m) 8頭立て8着
(その後、数十戦勝利なしの後初勝利、通算41戦2勝 2着3回、3着4回)

イプラトロピウムは一般的なドーピングでイメージされる筋力増強効果はないですが、心肺機能の増強、補強効果がある可能性は高いので、ディープインパクトの本領は驚異的な最高速度の持続力やスタミナであり、凱旋門賞含め主な出走レースも2000m以上の中長距離レースばかりで持久力、心肺機能が十分問われるため、薬物使用の影響がないとは言いがたいでしょう。

とはいえ、数少ないデータながら上記のHow Discreetという馬のデータによれば、1000m前後という短距離のレースでもイプラトロピウム使用時にのみ成績が上がっており、薬の効果ではなくその時偶然調子が良かったり相手が弱かっただけかもしれませんが、もし薬の効果だったとしたら短距離レースにすら競走能力向上効果を発揮させることを示唆します。

実際、競馬における短距離レースである1000m前後という距離も、人間でいうと中距離走にあたり、馬は短距離レースでもしっかり呼吸をしながら走っており、持久力心肺機能は重要という研究があり、そこから考えると短距離レースであろうと心肺機能を強化するだけで競走成績が向上するというのは辻褄が合うことになります。
https://company.jra.jp/equinst/magazine/paddock.html

まあ、短距離のレースで効果が出るかを考えないとしても、競馬の世界では全力で走る後半3Fの速さが重視されたりしますが、極端な話が最初から最後まで上がり3Fのスピードを維持して走り続けられるとしたら、現代日本のスピード競馬では並以下のスピードである3F35秒0程度のスピードを持つ馬がそれを常に維持し続けて12F(2400m)を走破できるなら、2分20秒0でアーモンドアイの世界レコード(2分20秒6)をも楽に超えてしまいます。
仮にイプラトロピウムを使いまくった所でそこまで極端な心肺能力向上効果はありませんが、心肺能力が上がって数秒でもその馬の最高速度で走れる時間が長くなるならば、トップスピード自体は上がらなくても競走能力が向上し、着順が大きく変わる可能性が十分あるというのはイメージできると思います。
筋力増強効果がない競走能力向上効果がないと考えてイプラトロピウムはドーピングではないとする極端すぎる擁護の論調も散見しますが、その理論は論外ということです。


5.その後の優秀な種牡馬成績がドーピングなしでの能力と血統の優秀さを証明している。→【※】

ディープインパクトは競走実績も素晴らしい馬でなおかつ繁殖実績も素晴らしい馬でしたが、そもそも極論を言うと基本的に競走馬としてデビューするような馬には生涯未勝利馬含め絶望的なほど血統の悪い馬はいません。

「良血、血統が悪い、零細血統」などと血統が良くも悪くも評価されますが、俯瞰すると些細な差であり、現役当時は「血統が悪いのに強い」みたいな評価をされていたオグリキャップサンデーサイレンス(ディープインパクト父)などは父や母系が他と比較して良血と言うには程遠いといった程度であり、彼ら含めほぼ全てに近い馬が多少遡るだけで簡単に歴史的名馬、歴史的良血馬何頭かにたどり着いていきます。
ただ一方で(その時代、その国の競馬で)走る馬を出しやすい血、そうでない血があるのは事実であり、単純に名馬を祖先に持ってるかということより国やコース形態などへの適性含めて、適合しやすいかどうかか重要です。

その点で考えても、特にサンデーサイレンス系はディープインパクトに限らず競走成績も繁殖成績も良い馬が多く、日本だけでなく海外に輸出された比較的実績的に劣る馬(ディヴァインライトやアグネスゴールドら)の仔からも海外競馬の活躍馬が出ています。
彼らはディープインパクトやゼンノロブロイ、スペシャルウィーク、ハーツクライ、ダイワメジャー(それぞれサンデーサイレンス産駒)などというような馬に比べると競走実績や競走能力の評価は高くない馬ですが、そこからも活躍馬が出る以上、ディープインパクトが仮に薬物を使わなければ弱い馬だったとしても、サンデーの直仔という時点で繁殖に上がれば名馬を生む可能性は十分高い馬だったといえます。

また、ディープインパクトは久々の日本競馬の牡馬クラシック三冠馬であり、父サンデーを輸入した競馬界最大手の社台グループの生産で、最強種牡馬である父サンデーサイレンス死後というタイミングの良さもあり、種牡馬として大きな期待を集めて有望な繁殖牝馬も手厚く用意されたので、種牡馬として失敗しにくい条件が揃ってもいました。

つまり、繁殖成績が凄いことが、ドーピングしなくても強かった証拠とは言い切れません
特に海外では競走成績が歴代トップクラスではなくても大種牡馬になった例は散見し、種牡馬としてトップクラスだから、競走能力もトップになれた馬だとは証明しきれません。

2023年の最強馬イクイノックスの父キタサンブラックの父ブラックタイドはディープインパクトの全兄(父も母も同じ)ですが、競走成績は弟ほど振るいませんでした。(G1未勝利)
それでもキタサンブラックやイクイノックスといった一発の大きさという意味では直仔でも孫でも弟以上に名馬を残しているので、ディープインパクトが超良血だったというのは間違いないでしょう。
万が一、ディープインパクトの成績がドーピングで作られていたとして、ドーピングしなければブラックタイド程度またはそれ以下の成績になってたと悪く考えた場合でも、競走成績が高くない同血ブラックタイドが良い仔を残した以上、繁殖にさえ上がれたら競走成績に関係なく名馬を残せる可能性が低くない血だったと言えます。

ただ、同時にキタサンブラックやイクイノックスが出てくるほどのポテンシャルを秘めた血統ということを考えれば、それと同血のディープインパクト自身がドーピング関係なく彼らと同等の能力を持つ馬であった可能性を十分想定できるともいえるので、どちらの意味でも繁殖実績はドーピングの有無の証拠としては弱いでしょう。

6.現地フランス人獣医師の処方した薬物であり、日本馬に凱旋門賞を勝たせたくないフランスの陰謀の可能性が高い→【×】

当初はそういう説もありましたが、調査結果を信用するとしたら、

1.ディープインパクトの診療のためにフランスに出張していた日本人獣医師は、ディープインパクトの担当厩務員から「ディープインパクトが9月13日(水)ロンシャン競馬場での調教後に咳をし始めた」と聞いたため、フランスでの滞在きゅう舎担当のフランス人獣医師に相談をし、吸入治療を推奨された
2.日本人獣医師の要望で9月21日(木)からディープインパクトに吸入治療を行うこととなり、日本人獣医師はフランス人獣医師の処方により吸入治療に必要な薬品「イプラトロピウム」を薬局で購入した
3.日本人獣医師は、9月21日(木)~9月25日(月)の5日間、フランス人獣医師から借りた吸入器を用い、担当厩務員の手を借りてディープインパクトに吸入治療を行った

https://p.keibabook.co.jp/news/detail/40287

と書いてあるように、最終的に薬物の吸入治療の決定、実行に直接的に関わったのは日本人獣医師と担当厩務員とあります。
まあ、フランス人獣医師の(意図的)指導不足、助言不足という可能性は確かにありますが、それでも責任の度合いとしては初歩的すぎますから、フランス人獣医師よりも日本人獣医師と担当厩務員および調教師の責任の方が大きいでしょう。

また、池江調教師は薬物が散布されたかもしれない寝藁、敷料を取り替えなかった理由について、

「敷料は遠征先のパリアス厩舎からほぼ無料で提供してもらっており、なるべく大事に使っていた」

と説明したそうで、基本的にはかなりよく対応してもらったということになっています。

つまり、今でも人種差別、国差別が横行する欧米、特にフランスのことですから全くありえなくはないですが、この件に関してはフランスの陰謀説を信じるのはなかなか難しいと思われます。

この調査結果(説明)が何らかの忖度に塗れて間違っていて全く信用できない、という可能性も当然あるとは思いますが、そこでこの調査結果を否定する方向で考えると、同じく調査結果に記載されてあるディープインパクト陣営のいわゆる「薬物が寝藁に混ざった」説の信憑性も含めて否定されて全てが振り出しに戻り、ディープインパクト陣営による意図的ドーピング説の可能性も同時に復活することになります。


◆批判側の意見を元に考察

1.ディープインパクトは日本でも薬物使用のおかげで強かっただけで薬物がなければ弱い馬。→【※】

2で後述しますが、日本ではもしイプラトロピウムを使用していたとしても、ルールの抜け道的なグレーの判断にせよアウトではないので、そもそも仮定が成り立ちません。

一方、仮に日本でも薬物を恒常使用していた場合、薬物がなければ弱かったのかと考えてみると、薬物がなければ圧倒的な成績や評価を残せるほど強くなかった可能性は高いといえます。
ただ、弱くはなかったでしょう。

イプラトロピウムが持つ効果は心肺能力向上持久力強化なので、大きな効果が期待できるとしたら特に中長距離レースであるのと、ディープインパクトは国内ほとんどのレースを余裕で圧勝しているため、勝ったレースで取りこぼした可能性が高いレース(凱旋門賞以前)は僅差だった弥生賞と長距離の菊花賞、天皇賞春くらいと思われます。

つまり、少なくとも重賞馬やG1馬にはなれてる可能性が高く、薬物がなければ完全にどうしようもないほど弱かったという可能性は低いです。

野球のバリー・ボンズもそうですがドーピングなしでも超一流だからこそ薬物の効果が常人の何倍も上がります。
ディープインパクトも仮に薬物を使用していたからこその強さだったとしても、薬物がなければ完全に弱い馬ということはなかったと思われます。

一方で、イプラトロピウムら呼吸器系の薬は長距離だけでなく短距離レースにおいても十分効果が大きい可能性があります。(擁護側考察4参照)
ただ、使用発覚馬の例を見てもあくまで未勝利馬を勝たせたり重賞や条件戦で下位入線の馬を上位入線~勝利させるくらいの効果が主だと思われます。

つまり、重賞で下位の馬を好走~勝たせるとか、G1で下位の馬を好走~勝たせるという効果が想定されるため、そもそも重賞には出られるほどの素の実力がなければイプラトロピウムを使っても重賞で好走できませんし、G1には出られるほどの素の実力がなければG1でも好走できない可能性が高いと思われます。

仮にディープインパクトがイプラトロピウムを使用しながらダービー(ディープのG1での最高着差勝利)を圧勝していた場合に、イプラトロピウムを使用しなければどんなパフォーマンス内容になっていたかを想像・推測すると、5馬身差で圧勝しているので、薬で5~10馬身程度違うと想定すれば、薬無しの場合でも良く考えれば勝ち負け、悪く考えても掲示板争いくらいはできた可能性が高いように思われます。
仮にディープインパクトの戦績が国内でもイプラトロピウムを使っていたからこそだったとしても、使っていない場合でも各勝利G1レースの5着~10着程度には入れたくらいの能力があったと思われ、ダービーで5馬身差つけられている2着インティライミは重賞を勝っていますし、ディープがいなければダービー馬になっています。ダービーで約10馬身差以上つけられている10着アドマイヤジャパンや11着コンゴウリキシオーは重賞馬ですし、アドマイヤジャパンはディープがいなければ菊花賞馬です。
皐月賞で約5馬身差以上つけられているアドマイヤフジペールギュントも重賞馬です。
つまり、ディープインパクトのパフォーマンス(薬使用想定)から逆算すると薬を使っていなかった場合の素の実力はそのあたりの馬と同等と想定できるので、重賞馬になってた可能性はかなり高く、G1を勝ってた可能性も十分想定されるため、薬を使わなければどうしようもなく弱かった可能性は著しく低いと思います。

そもそも、薬を使わなければ全く活躍できない馬に薬を使うリスクやコスト・暇を考えるより、薬を使わなくても十分強い馬に使って確実に最強馬にしたいという目的で考える方が現実的です。

2.日本でも意図的、恒常的に薬物使用していて、そのおかげで競走成績が良かっただけ。→【×】

イプラトロピウムは日本では当時の日本では禁止薬物ではなかったので、仮に恒常的、意図的に使用していたとしてもシロに近いグレーで、他の馬も使用するチャンスがあったので、日本での成績に関してはそれによって競走能力で有利だったという考え方はできないでしょう。

仮に、他がそのルールの抜け道を知らない中で、ディープインパクト陣営だけがイプラトロピウムの競走能力向上効果が高いと知って治療目的以外での薬物使用をやっていたとしたら、むしろルールの抜け道として気付き利用していたディープインパクト陣営が研究に長けており、狡猾だったと肯定的に評価できる可能性もあります。

3.所詮は曰く付きの成績を持つ馬であり、(歴代)最強馬などといった高い評価は禁物。→【△】

前述したように、他の日本馬が凱旋門賞遠征した際には禁止薬物が検出されたことがない以上、当時の日本では禁止でなかったにせよ、ディープインパクト陣営の怪しさが相対的には突出してることを否定できません。

しかし、G1競走7勝という通算成績にしても、その中身のパフォーマンス内容にしても歴代最強候補に入るに相応しい素晴らしいものなので、間違いなく歴代最強馬だなんて言うと(他のどの馬でも)嘘になりますが、個人が勝手に歴代最強だと思う分には特に問題ないと思います。
同時に、そういう意見に対して薬物問題の件を含めて疑問を呈するのも問題ないと思います。
薬物問題にしてもその他問題にしても結局は白か黒かも確定的なことは言えないため、絶対におかしいとも、絶対に問題ないとも言えないので。

4.風邪をひいて吸入治療した際に馬が暴れて薬が寝藁等に飛散し、それをレース直前に食べたというのは苦しい言い訳で怪しい。→【○】

この件は項目を分けて考えた方がいいと思います。

① ディープインパクトはフランス遠征で風邪をひいた 
② イプラトロピウムを用いて吸入治療を行った
③ 治療の際にディープインパクトが暴れた
④ 薬が寝藁や干し草などに飛散
⑤ それをディープインパクトが食べた

① ディープインパクトはフランス遠征で風邪をひいた →【△】
状況証拠から考えると一般的な意味での風邪はひかなかった可能性もあると思います。
ディープインパクト陣営は自信溢れる故のリップサービスもあったかもしれませんが、凱旋門賞前は調子が良いことをアピールしていたようですし、メディアの盛り上がり具合、報道にも体調不安などのネガティブな可能性を含ませる要素はなかったです。
まあ期待が大きいだけに敢えてネガティブな情報を伏せていたという可能性ももちろんありますが。

② イプラトロピウムを用いて吸入治療を行った →【○】
どういう形かはともかく、陣営説明を信じ事故説で考えるにせよ、逆に意図的ドーピングを行った悪意説で考えるにせよ、イプラトロピウムの吸入行為を行った可能性は限りなく高いと思われます。

そして、もし①が否定され風邪をひいてなかった場合はそれでも吸入をさせていたということになるわけで、恒常的に競走能力向上のためのイプラトロピウム吸入を行っていて、それをフランスでも行ったという悪意説の可能性が高くなります。

③ 治療の際にディープインパクトが暴れた →【△】
調査報告によればディープインパクトは吸入治療の際に「2度暴れた」とあります。まあ言い訳をもっともらしくするための偽装の可能性もありますが、暴れたことを説明するだけでいいのに、わざわざ回数を「2度」と書くあたり、それが吸入治療の際だったかはともかく、ディープインパクトが暴れた件が本当に起こった可能性があると考えてもいいように思います。
暴れようと暴れなかろうと不正なら不正ですし、不正でなければ不正でありません。(後述)

④ 薬が寝藁や干し草などに飛散 →【△】

7.以上の状況から、ディープインパクトの検体からイプラトロピウムが検出された原因は明確には特定されなかったが、池江泰郎調教師は、9月21日から9月25日までにディープインパクトに対して行われた吸入治療において、ディープインパクトが暴れた際に馬房内に飛散したイプラトロピウムが敷料や乾草に付着したにも拘わらず、それら敷料、乾草を入れ替えずに放置し、競走前日から当日の間にディープインパクトがそれを摂取したことにより尿検体が陽性となった可能性があり、その不注意の全ての責任は自身にあると申立を行った。

ディープインパクト、薬物に関する調査結果

吸入治療中に馬が暴れて、薬が飛散したかどうかは調査結果、陣営説明でも大部分が推測で確定事項ではなく、信憑性が著しく高いとまでは言えません

そもそも、仮に本当だとした場合はドーピング問題に抵触する可能性を考えて寝藁や干し草などの入れ替えを行うべきだったでしょう。
特にディープインパクトの挑戦は日本競馬史上でも最高級の期待を集め、自信を持って行われていたのですから、万に一つもこのような初歩的ミスを起こさない覚悟で行われていたはずで、万が一1着になった上でこの程度のミスでドーピング発覚となっていたら、関係者がその後ホースマン人生を続けていけたかどうかに影響が出るくらいのとんでもない事件になっていてもおかしくありません。

また、池江泰郎調教師は治療や咳をした件についても、ドーピングについても寝耳に水というか、知らなかったようなコメントばかりで、まさに不注意というか、最大責任者の立場でありながらあまりにも馬との関わりが薄い&情報を知らなすぎていて不自然です。
仮に実行に関して部下のスタッフが10割悪いとしても責任者である以上は責任を認めざるを得ません。
この最大責任者の調教師がこの事件やディープインパクトの当時の状態に関して理解度が低すぎる点や陣営内で情報共有がされてなさすぎた点怪しさの最大の証拠で、仮にドーピングが完全なる悪意0であったとしても、このような当時のディープインパクトを取り巻く周囲の怪しさや違和感だけは残り続けます。

⑤ それをディープインパクトが食べた →【※】
④と合わせてこれも大部分が推測による説明であり、不正なく起こったとしたという場合に「そうとしか考えられない」といった体の理論です。
つまり、作った言い訳のように感じられる部分は大いにあり、④と合わせて信憑性が高いとは言いがたいです。

また、仮に④の出来事が起こり、それを食べた場合に、その程度のイプラトロピウムでドーピングに引っ掛かるかどうかも怪しい所です。

掲示板書き込みやブログなどからの引用ですが、

・イプラトロピウムは揮発性が低いので付着した際は一週間程度では消失しない
・イプラトロピウムの血中半減期は約100分。

16時間で血中濃度が約1/1000になる計算。
・イプラトロピウムの体内残留期間は約1日
寝藁に付いた微量のイプラトロピウムいつどれだけ食べたらレース後に検出される?

一応、寝藁や干し草等に薬が付着していた場合、それを食べれば効果を発揮&検出される可能性はかなり高いでしょうが、たまたまレース前日や当日にイプラトロピウムが飛散した寝藁、それも濃度の高い寝藁を食べたとする仮説になりますし、また吸入治療(9月25日が最後)からレース当日(10月1日)まで5日以上経っているので、無理があります。ただ逆に良く捉えたら、自然に考えれば経口摂取により、ギリギリ検出されるかどうか程度のイプラトロピウムしか摂取していなかった、つまり限りなく効果が0に近い量のイプラトロピウムしか摂取していなかった可能性が高いとも言えます。
前述(擁護側考察4)のように、イプラトロピウムの競走能力向上効果が発揮されるにはそれなりの投与、摂取量が必要なので、ただ検出されるだけでは著しい効果があったと考えるには足りません。

一方で、

ラビットでのデータだが、経口摂取の場合、経静脈投与(吸入はこっちに近い)に比べて、 イプラトロピウムの尿中代謝産物が明らかに異なる
本当に経口摂取したのなら、Sch1315という物質の組成割合が高い筈。
関係者の弁明と異なり、イプラトロピウムをレース直前にも吸入していたのならば、尿中の代謝産物は、SSch1000が多い筈。

掲示板(2ch)の書き込みより

という指摘もあり、これが本当だとしたら、検査結果の開示をすればディープインパクト陣営のドーピングが限りなくシロに近いのかクロに近付くのかははっきりします。
少なくとも、経口摂取説(寝藁などに飛散したものを摂取した)という説明の信憑性が高くなるのか、低くなるのかは分かるように思われますが、臭いものに蓋をするようにディープインパクトのドーピングの問題はすぐに報道が沈静化していきましたから真相は分かりません。

まあ、元にしてるのもラビット、ウサギのデータなので馬でも同様か分かりませんが、どちらにせよ専門家には経口摂取と経静脈投与による検出結果の違いが分かるでしょうし、データがあれば分かるはずですが、この件は結構未だに色んな所で賛否両論が起こる話題でありながら、確かな開示や説明が出ることがありません。

もしシロに近いと分かる検査結果が出てるのであれば、ディープインパクトの名誉のためには、それを開示して説明するべきだったと思います。
それさえあれば未だにディープインパクトを褒めた際にアンチからドーピングが~と言われなかったでしょうし、仮に言われたとしても「検査結果を見ても陣営説明の信憑性が高いと出ている」と明快に説明できるはずでした。
しかしそれが無い以上は怪しいことを否定するのは難しく、どちらかといえば怪しい可能性が高いことを補強する情報の方が多い状況です。

また、なぜ寝藁、敷料の入れ替えを行わなかったのかについて一応調教師の話によると、

「敷料は遠征先のパリアス厩舎からほぼ無料で提供してもらっており、なるべく大事に使っていた

須田鷹雄氏の過去ブログに掲載されていたらしいが現在閲覧不能

と説明しています。
通常であれば競走馬の馬房内の敷料は毎日、少なくとも数日に1回は入れ替えるものだと思われますので、当日、前日の経口摂取ということなら説明通りなら吸入治療後、4日~5日入れ替えが行われなかったことになるわけで、いくら大事に使うにしても不自然に思われます。
それにほぼ無料で提供してもらっていたなら尚更、いくら厚意を大事にするにしても何度かは入れ替えても良かったはずなのに、一週間近く入れ替えないのは不自然です。
海外と日本での過ごし方、考え方で勝手も違うかもしれませんが、ディープインパクトほどの馬、それも世界最高峰の大一番に向けて、万が一が起こらないようにするべきで、その程度の心持ちでいいのかという違和感もあります。

そして、そもそも池江調教師は咳の件も治療の件も知らなかったわけで(それが本当なら)、敷料を大事に使っていたために入れ替えを最小限にしていたということすら本当に知っていたのかも怪しく、急遽言い訳を作った(作らされたor作ってもらった?)のでは?と邪推したくなってきます。

したがって、この調査報告に関しては仮に全てが陣営説明・推測通りの事実だったとしても何らかの不自然な点、怪しさは結局残ってしまうというのが結論です。


◆実際のディープインパクト陣営と周囲の状況の考察

1.当時のディープインパクト周囲の雰囲気

ディープインパクトの前評判の凄さで有名なのがダービーを勝つ前からダービー前日・当日に等身大のディープインパクト像(模型)が展示されていたという話です。
ダービーを勝つ前にダービーを勝って歴史的名馬になるのが決まってるかのような扱いです。

当時は所詮ただの皐月賞馬ですから毎年必ず現れる珍しくない存在です。無敗とはいえ、その時点でそこまでの扱いにするのは異例中の異例です。
違和感が全く無いとは到底言いがたい話で、絶対的地位を築く前からとてつもない期待を背負って現役を送っていた馬&陣営だったといえるでしょう。
そして、その活躍のために仮に薬物使用など含め何らかの意図を持っての大きな組織的協力、特別扱いがあったとしても、全くの意外とは驚けません。

JRA、日本競馬界は良くも悪くも柔軟(?)な対応もできる組織で、それこそディープインパクト引退レース有馬記念の前、主戦騎手の武豊騎手が香港で危険騎乗の制裁を食らってまさかのラストラン乗り替わりになりかけましたが、ディープインパクトの有馬記念の翌日から騎乗停止という裁定になって騎乗可能になったり、短期免許外国人騎手の規定にしても2003年ミルコ・デムーロ騎手とネオユニヴァースの三冠がかかった菊花賞の際や、2019年ダミアン・レーン騎手とリスグラシューの引退レースの有馬記念の際も特例でルールを作り騎乗許可を与えていました。

最近では2021年、持続化給付金不正受給の不祥事の際も、関係者への処分は軽微または実質お咎めなしに終わっていて賛否がありました。
その主犯的存在とされる馬主についても「現行法規での対応は難しいとして、処分なし」という対応になりました。

現行法規での対応は難しい」ので問題ない、「現行法規では問題ない」どこかで聞いたような話です。

その他にも、ディープインパクトの当時の扱われ方の特殊さを想像させるところがあります。まあ以下は単なる行きすぎた邪推、偶然だとは思いますが。

①若駒ステークス実況 (5馬身差圧勝)

「あっと言う間にリード7馬身8馬身広げていった!」

確かに大差圧勝ですが、最終的にも5馬身差ですし、この実況が出た時点では5馬身差未満で3馬身差前後だったはずですが、7馬身8馬身とやたら大げさに褒め称えています。

②神戸新聞杯実況 (2馬身半差楽勝)

「ゴール前、リードを4馬身、5馬身!6連勝でゴールイン!」

4馬身5馬身どころか、最終的には流したとはいえ2馬身半差で、どう見ても4馬身5馬身はあるように見えませんが、実況が大げさに褒め称えています。

視覚障害者にも音声だけでディープインパクトの素晴らしい強さの印象を教えるための誇張表現かもしれませんが、私が知る限り実際の着差よりも誤差の範囲を明らかに超えて2馬身3馬身も大げさに表現してる実況はこの2つ、ディープ以外ではあまり聞いたことがなく、ディープインパクトが勝つ場合には大げさに褒め称えて国民的スターと認知されるよう演出してくれという通達でもあったのかなんて少し思ったりします。
しかも神戸新聞杯に関しては、別の放送局の実況(馬場鉄志アナ)も

3馬身4馬身5馬身、三冠に向けて楽勝!

と同じように誇張表現しており、若駒ステークスは他馬とのレベル差も大きく、走る勢いも凄いので誇張表現したくなる気持ちも分からなくもないですが、神戸新聞杯は安全に流して楽勝していてそこまで着差が広がっていく気配はないのですが、異なるアナウンサーでも同じように誇張表現して実況してるのは、全メディアに同じ通達があったりしたのだろうかなんて考えてしまうくらい変な印象を覚えます。

また、凱旋門賞のドーピング事件についても、本来であればスタッフや獣医師が勝手にやったのだとして、知らなかったとしても最大責任者といえる池江泰郎調教師が最大の処分を受けるべきであり、フランスギャロからは池江泰郎調教師に対して処分が行われたところを、JRAから最も大きい処分を受けたのはディープインパクトのフランス遠征に同行した牛屋重人・開業獣医師で、池江泰郎調教師らには追加処分はありませんでした。

JRAは29日、凱旋門賞でディープインパクト(牡4=池江郎)から禁止薬物イプラトロピウムが検出され失格となった問題で、仏国に同行した牛屋重人・開業獣医師に対し、JRA診療施設の貸し付けを12月4日から07年6月3日まで6カ月間停止とすると発表した。処分は同獣医師が栗東トレセン内に開設している診療所の使用を禁じると同時に、すべての診療行為も禁止するもので、事実上中央競馬への関与を半年間停止する厳罰となった。

2006年11月30日(木)  スポーツニッポン

これも、池江泰郎調教師厩舎が吸入治療などディープインパクトの様子の詳細を知らなかったことを含め、JRAや生産者ノーザンファームなどの意向を踏まえ、ディープインパクトの扱いや待遇が単なる一厩舎や一馬主だけのものでなく日本競馬界全体の大プロジェクトとして行われていたとすれば、辻褄が合ってくるかもしれません。

池江泰郎調教師はJRAや社台系などのもっと大きな組織の都合に付き合わされた、巻き込まれた側ともいえるので直接処分がしにくいとか。
また、そこに処分を加えるとディープインパクトのその後の出走などにも差し支える可能性があるので処分できず、トカゲの尻尾切りのように獣医師のみ処分するのが最も効率的に茶を濁せる対応となります。
…というと陰謀論的な話になってきますし、極端な仮説ですが。

プロジェクトと言えば言い過ぎですが、ディープインパクトの頃はまだそこまでノーザンファーム筆頭とする社台系の天下ではありませんでしたが、2010年代以降は完全にノーザンファーム生産馬の天下となり、ノーザンファーム天栄・しがらきを筆頭とした外厩が発達・定着した結果、今ではノーザンファーム生産の素質馬の調教師は「餌やり師」などと一部のファンに揶揄され、馬の詳しい体調やその後の処遇の情報も決定権もほとんど調教師でなくノーザンファームが握っているような時代になっています。

外厩といえば日本競馬初のクラシック無敗三冠馬シンボリルドルフも、1980年代当時に外厩を駆使した先鋭的な育成・管理の元に活躍し、結局は馬の素質だけでなくそれを最大限引き出すための環境も大事ということの表れと言えます。

2.薬物の恒常的使用の可能性

ディープインパクトは2005年、満を持して無敗の三冠馬として有馬記念に3歳で出走しますがG1初制覇ハーツクライの2着に敗れ、初敗北を喫します。

このレースを振り返って、鞍上の武豊騎手はレース回顧で

「初めてゴール後に息苦しそうになって自分から止まり、疲れていた
「力を出さず走らなかったのではなく、一生懸命走ったが動けなかった

武豊TV!より

と語っています。

これは凱旋門賞挑戦前のことであり、後にして思えば、伏線だったかもしれません。

このレースに勝ったハーツクライも翌年後半喘鳴症(喉鳴り)の影響で衰えてしまいますし、ハーツと同期のダイワメジャーも喉鳴りの治療を経てから復活しており、他にもゴールドアリュールなど、サンデーサイレンス産駒は喉鳴りの症状が出る馬が多かったという説があります。

ディープインパクトもこの有馬記念くらいから喉鳴りや気管、心肺能力の問題が出たのだとしたら、凱旋門賞挑戦含む今後のことを含めて恒常的に心肺能力を補強し始めた可能性があります。
翌年の天皇賞春の鮮やかな勝ち方もそう考えると辻褄が合うと感じられます。

ただ、その場合であっても、この点から考えれば競走能力向上のための薬物使用を始めたとしたら、2005年有馬記念の後からだったと思われるため、2005年の有馬記念までは薬物使用無しで戦ってた可能性が高く、デビュー直後からの恒常的使用ではなかったと思われます。

または、有馬記念以前は3000m以上の長距離レースでのみ使用していて、菊花賞が初使用で、1周目に引っ掛かって体力を消耗しても余裕で勝てたのは心肺能力を補強してたおかげだったという可能性はあります。
そして2500mの有馬記念は3000m以上ではないので薬なしでも問題ないと思われたものの、ハーツクライの覚醒などもありレースレベルが高くなったのもあるのか本来の伸びを欠いて勝てなかったことで、ディープインパクト本来の体力・持久力の限界を感じて、日本近代競馬の最高傑作にする予定の馬がこのままでは駄目だ、と翌年からレース出走時は2000m台の距離でも念のため恒常的に吸入治療を行うことになったとも考えられます。

また、恒常的使用に効果があるか、そういう策略に信憑性があるかどうかについてですが、人間の世界で同様の行為が行われているようです。
そちらは合法というか脱法的にですが、トライアスロン選手の98%がパフォーマンス向上を目的として喘息薬を用いる許可を得るため喘息患者として登録を行っていたという話があります。

 国際トライアスロン連盟会長であるLes McDonald氏によると、トップクラスのトライアスロン選手のおよそ98%が喘息患者であるとの登録をしていると言う。全世界の喘息患者の割合が12~15%であることを考えると、98%というのは非常に高い数値である。しかし、実際に喘息の症状がみられる選手は3~11%程度であると言われている(10~50%であるという調べもある)。いずれにしてもトライアスロンに限って選手の98%もが喘息患者であるというのは謎である。
 この原因として、トライアスロンは呼吸システムに大きなストレスを与えるため、この競技を行う多くの選手が喘息になってしまうことが考えられる。しかし、McDonald氏が指摘するように多くの選手が嘘をついており、実は喘息患者ではないと考えるほうが道理に合っているようだ。
 選手は喘息患者であると登録することによって喘息薬を服用することができる。その薬の作用により酸素を取り込む気道が広がり、より多くの酸素摂取が可能になるため、パフォーマンスが向上すると信じる選手も多い。

『Training Journal』September '99
https://aichanzw.seesaa.net/article/480937194.html

常にドーピング問題が渦巻く人間の世界でもこれだけのことが行われてしまっているので、馬が自発的にドーピングを行えない上、検査の手間もかかる競走馬の世界ではドーピングの管理や検査がおざなりになり、抜け道を探す陣営がいても不思議ではありませんし、ディープインパクト陣営がそれを目的に治療目的を口実に競走能力向上効果目的でイプラトロピウムに目を付けていても意外性はありません。

凱旋門賞前に体調不良の情報がなかったのに実は風邪をひいたとして吸入治療を行っていたことも、常にレース前には風邪をひいたということにして競走能力向上目的の吸入を行っていたのだとしたらそれがディープインパクトのレース前の好調時含めた日常であり、体調不良ではないのだから当然コメントや報道もなく、筋が通ります。

しかし、くどいですがフランスでは問題がありますが日本では(脱法的に)認められていたことなので、日本での実績に関しては不正ではなく、どちらかといえば不正というよりは、1頭だけ最先端、最新鋭のトレーニングをできる環境とか、最先端の栄養剤を摂取できる特別恵まれた環境にあったという考え方に近いと思います。

人間の競泳でもスピード社の競泳水着レーザー・レーサーの能力向上効果が凄まじく、賛否両論となったことがありました。(後に禁止)
近年でも人間のマラソン系競技にてナイキ社のランニングシューズ「ヴェイパーフライ」の能力向上効果が凄まじく、世界のトップレベルは勿論、日本の大学駅伝のトップ選手も大半が使用し飛躍的に記録向上するということがありましたが、もしそれらをトップレベルの中の1人だけが独占できていたらディープインパクト状態になっていたかもしれず、ディープインパクトの薬物問題は仮にクロ(意図的)だとしたらそれに近い状態かもしれません。

一方で、ディープインパクトの池江泰郎厩舎はディープインパクト以前からメジロマックイーン筆頭に名馬を多数育てている元々優秀な厩舎であり、ディープインパクトの事件から考えるとドーピングをしていた可能性が比較的高いと想定される年度も、禁止薬物指定後に比べ、特別突出した成績を残したわけではありません。(むしろディープインパクト引退後&イプラトロピウム禁止後の2008年の方がディープインパクト現役時2005~2006年より勝率が高い)その点から考えると当時の厩舎全体(全馬)薬物を恒常的に使用していた可能性は低いように思えます。

3.薬物の意図的使用の可能性

ディープインパクトのドーピング問題には盲点もあります。
実際にディープインパクトから検出されたイプラトロピウムのことばかりが取り沙汰されますが、ディープインパクトの池江泰郎調教師の息子である池江泰寿調教師が、2004年に禁止薬物を含むベンチプルミンシロップを投与した疑惑についてJRAから事情聴取を受けたとの文書があることが週刊文春2006年11月2日号にて言及されています。
真実との確証はないとのことですが、全くのでっち上げにしては具体的すぎる内容が多いとも思われます。少なくともディープインパクト陣営のイプラトロピウム検出の説明よりは具体的です。(少し調べると詳細部分に言及したブログやサイトが複数出てきます)
当時の週刊文春は所詮数ある週刊誌の1つに過ぎなかったので、ただの下らないゴシップと嘲笑する人も多かったものの、この数年後に最も影響力・信憑性の高い記事を出す週刊誌としての評価を確立させたことから考えると、この当時の記事も簡単に馬鹿にできないかもしれません。

ベンチプルミンシロップに含まれる成分は長期的使用でアナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)と同様の効果をもたらす可能性があり、これもまた日本では当時禁止薬物ではなかったとのこと。

https://dope-impact.blog.jp/archives/50176410.html

本当であれば、ディープインパクトの凱旋門賞遠征にも管理馬を伴って帯同しているなど陣営との関係が密接だったことが想定されます。

そもそも2004年が開業初年度であり、それ以前はディープインパクト池江泰郎厩舎に所属していたので、独立後開業初年度に急に変な薬物に手を出したと考えるよりは、元々薬物について相互に研究・相談し合っていたり、知識等の伝授を受けていたりした可能性の方が高いでしょう。

(2007年)3月1日付JRAが禁止した薬物の中に
ディープインパクト事件で有名になったイプラトロピウム以外に
こっそりとクレンプテロールが加わっていることは
あまりマスメディアでは触れられていない
(中略)
このクレンプテロールはすでに取り上げたように、もともと人間においても、欧州の競馬においても禁止薬物だったのだが日本の競馬では規制がなかった
(中略)
だが、池江泰寿調教師が週刊文春を名誉毀損で訴えたというニュースもなくタイミング的にみても、クレンプテロールが競馬界のどこかに蔓延していなかったとは言い切れない話であることをどこか匂わせる対応ぶりとなっていることは否定できないだろう。

https://dope-impact.blog.jp/archives/50721654.html

また、例のベンチプルミンシロップに含まれる「クレンプテロール」という薬物がJRA日本中央競馬会の禁止薬物に加わったタイミングもまた、ディープインパクト事件イプラトロピウムと同じく、ディープインパクト引退直後の2007年3月だったようです。

例の週刊文春の記事が事実だとしたら、池江泰寿調教師のベンチプルミンシロップの使用が発覚し厳重注意を受けたのは2004年10月であり、ディープインパクトの新馬戦2004年12月なので、ディープインパクトのデビュー前後か遅くとも2005年内にはクレンプテロールについての禁止薬物追加を検討・遂行できた時間が十分にあったはずですが、なぜかディープインパクトの引退後イプラトロピウムと同じタイミングでまとめて追加したというのは、怪しさが無いとは言い切れず、ディープインパクトへのクレンプテロールの使用についても何らかの関係があった可能性が想像できてしまいます。

あくまで悪い方に仮定し推測をし続けていった場合の話ではありますが、前述のイプラトロピウム使用の可能性にしても、ベンチプルミンシロップ(クレンプテロール)含むそれ以外の薬物のドーピング目的の使用の可能性にしても、当時のディープインパクト陣営を取り巻く状況、そして実際起こった事件や疑惑の多さを考えると、全く怪しい所がないと言うには難しく、少なくとも過去存在した日本の近代競走馬の中では意図的に薬物使用をしていた可能性が高い馬、陣営だということを完全には否定しにくいのが実情です。

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