ロッキーという映画
シルベスター・スタローン主演の映画「ロッキー」シリーズは個人的にも大好きな映画だが、日本を含めた世界的にも評価・人気が高い作品で、1作目はアカデミー賞を受賞している。
根本的にはトレーニングして自分を鍛え相手を殴って倒すボクシングという比較的分かりやすい競技が題材で、時代を選ばず汎用性のある魅力を持っていて人気がある。
しかし、その割には映画評論家だとか、映画マニアなどが選ぶ歴代最高の映画トップ10とかに入ることは少ない印象。
内容が単純で分かりやすいし、ノリだけで見ていても面白いので、“通”な人たちには高く評価しにくい、好きと言いにくいところがあるのではと感じる。
2021年にアメリカで一夜限定公開された再編集版のロッキー4を含めれば7作、それを除いてもファイナルを含めて6作もシリーズが連なる映画となっているが、中でも特に評価が高いと見られるのはアカデミー賞を受賞した原点にして頂点と言える1作目と、1作目の内容を踏襲しつつ主人公ロッキー・バルボアによる戦いの完結作といえるファイナルで、基本はボクシング界における主人公ロッキーの立ち位置がメインとなってる感の強い2〜4と比べるとプライベートのロッキー・バルボアという人間と周囲の描写を多く含み比較的複雑な内容となってるのも高評価の要因だと思う。
人間というのはどんなに芯が強くても同調圧力にいくらかは気を遣ってしまうもので、例えばお笑いでいうと、心の中では勢いだけの一発芸を1番面白いと感じていても、真面目に評価する機会を与えられると、練られた漫才やコントを差し置いて一発芸みたいなものを優勝ネタに選ぶことはしにくくなる。
映画でも心の中では単純に予算も多く演出・描写展開の爆発力のあるロッキー3や4に盛り上がって痛快な感動を覚えていても、真面目に評論するとなるとロッキー1やファイナルの方を持ち上げておきたくなる。
だから実はロッキーを映画歴代でも最高クラスに好きだったりしても、ロッキーを人生で最も優れた映画の一つとして選ぶことはしにくい。
人生で最も好きなアニメとしてアンパンマンとかドラえもんと言いにくいような感じというか。(それは違うか)
ロッキーが好きな私自身も、人生で最も好きな映画を問われたら「ロッキーです」と言えるか分からない。人生で最も多く見ている映画だと思うので、1番好きな映画と言っても過言じゃないが、なんとなく言いにくい所がある。
しかし、ロッキーという映画はやはり唯一無二に近い魅力がある。
アニメやドラマ、バラエティなどでもトレーニングをしたり、何かを頑張って成し遂げようとする場面ではロッキーのテーマに似せたBGMが流れたり、ロッキーを意識した演出が使われたりすることが多い。
つまり、「自らを鼓舞し努力する」という価値観そのものがロッキーっぽいもの、ロッキーの価値観そのものになっている。
実際には他の映画や作品、単なる日常でも自らを鼓舞して努力するという場面はいくらでもあるのだが、ロッキーはそれを最も印象的かつ如実に表現した映像作品となっていて、努力の結果が開花する最後のボクシング、戦闘シーンもいいのだが、特にトレーニングシーンがロッキーという映画における真骨頂で、映画本編は通して1度や2度しか見てなくてもトレーニングシーンだけ人生通算で何百回〜何万回も見てるという人も多い。
さらに、ロッキー1作目は低予算で、とても後の大成功は見込んでいなかった映画の制作状況、パッとせず売れない貧乏役者に過ぎなかった主演と脚本を務めたシルベスター・スタローンの現実の人生の状況にしても、まさに映画作品中のロッキーと周囲の状況とリンクしていることがフィクションをただのフィクションでなく感じさせる魅力がある。
スタローンが脚本を映画制作会社に売り込みに行った際、別の主演俳優を立てて映画を作るから脚本を高額な値段で買い取るという話になったが、自分が主演で作らなければ脚本は売らないと拒んだというが(この下りは映画宣伝のための作り話という説もあるが、どちらにせよ乳児期の産科医の誤った処置の影響で顔面麻痺や言語障害もあり、無名俳優の中でも目立たないような存在だったスタローンが主演することは微妙な評価だったという)、スタローンが主演でなけばロッキーはどんなスター俳優が豪華な設備で撮影してもここまで魅力的作品にはならなかっただろう。
ロッキーのトレーニングシーンを見ていると人生を頑張ろうという気力が湧いてくる。そんな人生の栄養ドリンク、治療薬として何度も見ようと思えるような映画はロッキーの他にないと思う。
人生で最高の料理を問われて、「水」とか「栄養ドリンク」「プロテイン」、「(特定の治療薬)」なんて答える人がまずいないように、ロッキーは人生に定期的に活力を与えてくれる必須の水や栄養ドリンク、崩した体調やメンタルを立て直すための治療薬みたいな存在の映画で、人生で1番好きな食べ物や飲み物に高級料理や高級酒と並んで名前が出ることはなくても、それらに勝るとも劣らない価値のある最高の映画だと思うのである。
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