2023年WBC侍ジャパンは史上最強か
野球の世界大会WBC(ワールドベースボールクラシック)の侍ジャパンこと野球日本代表メンバーが歴代でも世界最高の選手の1人とされる大谷翔平選手(投手/外野手/指名打者・MLBエンゼルス)やダルビッシュ有選手(投手・MLBパドレス)など豪華メンバーで、「史上最強メンバー」と話題になっています。
他にも鈴木誠也選手(外野手・MLBカブス=故障により辞退)、吉田正尚選手(外野手・MLBレッドソックス)や初の日系メジャーリーガー代表選出となるラーズ・ヌートバー選手(外野手・MLBカージナルス)、NPB組も日本人史上最多の56本塁打を放ち三冠王を獲得した村上宗隆選手(内野手・NPBヤクルト)が選ばれるなど字面で見ると史上最強と噂されても不思議ではないようにも見えます。
大会開幕以降も期待された選手達が概ね前評判に違わぬ活躍で1次ラウンドを4連勝し難なく準々決勝進出。ますます「やはり史上最強だ」と評判が高まっています。
しかし、2006年の第1回大会から見ている私としては、本当に史上最強と断言できるメンバーなのか疑問に思うことがありました。
メンバーレベルも高く、結果としても過去最高である優勝した2006年、2009年の代表と比較しながら調べてみました。
鈴木誠也選手は故障により直前辞退となりましたが、あくまでメンバー構成の話なので、鈴木誠也選手含め当初のメンバーでの考察とします。
2023年 WBC代表メンバー
レギュラー
投手
2023年WBC代表
2006年WBC代表(優勝)
2009年WBC代表(優勝)
投手総評
日米ともに2000年代より2020年代の方が投高打低の傾向があり、それが成績に表れていることにも留意しなければいけませんが、それを踏まえても先発投手は2009年の投手陣が抜けているように思います。
ただ、リリーフ投手は本職でない投手が多かったり、辞退者が多くベストメンバーから程遠いメンバーだった2006年、2009年の代表より成績上は2023年の投手陣が上に思われます。
総合的には2023年は飛び抜けているとは言い難いですが、十分史上最強メンバーといえるメンバーだと思います。
特に、MLBで継続して好成績を残していて世界トップクラスの投手といえるダルビッシュ、大谷の2名を擁していることが大きく、後にMLBで活躍した上原、松坂の2人を擁した2006年、松坂に加えてダルビッシュ、岩隈とサイヤング賞上位候補経験のある3人を擁した2009年にも引けを取りません。
既に世界でもトップクラスの能力を持つ投手と目される山本由伸、佐々木朗希も控えており、先発陣は文句なしです。
ただリリーフ陣が若く、2006年の大塚、2009年の藤川のような絶対的な柱候補が存在しない所が不安点です。
本来であれば代表に入っていただろう平良海馬が辞退していなければ成績、能力的には絶対的柱になれるだけのものがありました。
実績的には松井裕樹が最も経験豊富ですが国際戦では球威に不安があります。
この記事を書き始めたのは大会開幕前でしたが、1次ラウンドが終わってみると2023年大会の投手起用は抑えの最有力候補だった栗林良吏が結果的に登板なしで離脱したことや相手のレベルが低く楽な試合が多かったこともあり、先発陣と第二先発以外の起用法が現状定まっていません。良くも悪くも調子も横並びで準々決勝以降の投手起用は出たとこ勝負な不安があります。
野手
2023年WBC代表(1) 捕手甲斐
2023年WBC代表(2) 捕手中村
2006年WBC代表(優勝)
2009年WBC代表(優勝)
野手総評
2023年代表野手陣は2000年代より2020年代の野球が日米ともに投高打低傾向にあることを踏まえても史上最強からは程遠いです。
2006年、2009年の代表でも間違いなくレギュラー有力候補といえるのは日本人初の56本塁打以上に三冠王の村上宗隆、日本人史上初連続シーズンMLB30本塁打以上の大谷翔平の2人だけで、レギュラーどころか代表ベンチ入りも難しいメンバーがレギュラー入りしています。
捕手の甲斐拓也、遊撃手の源田壮亮は守備能力では歴代でもトップクラスの評価を受ける選手ですが打撃成績は代表レベルではなく、昨年度の成績がたまたま悪すぎたという所もありますが、元々打撃成績は低い選手です。
いくら守備が良いとはいえ、過去の日本代表のレギュラー捕手、遊撃手は攻守双方で高レベルが当然だったことを考えると比較して補えているとまでは言い難いです。
中村悠平も甲斐よりは打撃がいいですが、歴代のレギュラー捕手陣と比べるとかなり弱いと言わざるを得ません。
実際レギュラー陣の成績平均値、中央値双方で打率は3割前後だった2006年、2009年よりも4分~5分前後も劣っています。
野手のレベルだけでいえば2023年は史上最強ではないと思います。主力メンバーの平均値、中央値でいうと2013年、2017年ともいい勝負か劣るかもしれません。
ただアジア人史上初めてコンスタントに30本塁打以上をそれも投手をやりながらという悪い言い方をすれば余力残しで打てる本物の世界トップクラスのパワーヒッターである大谷翔平を擁していること、まだ若いながらポテンシャルではそれに匹敵するものを持つ日本人史上初の56本塁打を打った三冠王村上宗隆という二大強打者が脂が乗った状態で参戦してるのは大きいです。
ただ、三冠王でいえば今より広かった時代の福岡ドームで高打率を残しつつ三冠王となった松中信彦(2006年大会4番)、同じく広いナゴヤドームで高打率と30本塁打以上を残し松井秀喜の三冠王を阻止した福留孝介(2006、2009)、3割30本塁打以上を当たり前のように打つ小笠原道大(2006、2009)、日本時代は3割30本塁打以上と高い守備能力があった岩村明憲(2006、2009)など実績も調子も十二分な選手が揃っていた2006年・2009年はレベルが高く、さらに捕手も広い福岡ドームで松中と同等の成績を残し、メジャーでも打者不利なセーフコ・フィールド(現T-モバイル・パーク)を本拠地にしつつ成績を残した城島健司(2009)がいたり、いかに大谷、村上が飛び抜けていようと実績的には及ばないと思います。
外野陣もヌートバー、鈴木、吉田、近藤ら十分にいいメンバーなのですが、守備能力でいえばヌートバーと鈴木誠也の能力は十分高いにしても、吉田と近藤の守備は特筆するレベルには至っていないですし、打撃成績も2006年大会のイチロー、福留、多村、青木や2009年大会のイチロー、福留、青木、内川らに比べると総合的には劣る上、イチロー、福留、多村は守備能力もかなり高い選手で、青木、内川の守備も吉田や近藤と比べると劣ってないのでレベルが高いとは言いがたいです。
ヌートバーや鈴木、吉田は将来的にMLBで青木や福留以上の成績を残す可能性はありますが、現状では青木、福留のMLB時代に劣る成績であり、鈴木と吉田はNPB時代の成績も青木や福留と同等以下です。
さらにイチローという攻走守全てにおいて世界歴代最高クラスのレジェンドがいたのが2006年・2009年でしたから、野手陣を史上最強と呼ぶにはハードルが高いです。
実績的には2009年の野手のメンバーが史上最強だったと思います。
一方2006年は辞退者が多かった影響で、当時はまだ若くスピードがあるだけの選手だった西岡剛・川﨑宗則の2人がレギュラー二遊間を組んでいたり、イチローに並ぶ日本打線の要と期待された松井秀喜の不在など実績的に不安のある打線でしたが、結果的には大会参加国中、最多本塁打・最多盗塁を記録し、スピードパワー共に優れた最強打線でした。
しかも当時は2次ラウンド以降がアメリカ開催で多くの試合をMLBの球場で戦いながら本塁打を量産した点も評価に値します。
2013年大会以降は日本での試合が増え、しかも日本の中でも本塁打の出やすい東京ドーム開催で日本開催中に本塁打数を稼ぎやすいので当時とは事情が違います。
総評
2023年大会のメンバーは現状呼べる限りの中ではかなりいいメンバーではあるのですが、投手野手共に層が厚かった2009年大会に比べると総合的なメンバーレベルでは劣るのではないかと思います。
2006年大会、2009年大会はともに当時呼べる中ではイチローと共に日本の二大スター的存在だった松井秀喜がいないなど、ベストと呼べる布陣からはかなり遠いのですが、日本プロ野球史上でもトップクラスに層が厚い世代である松坂世代(1980年生)、イチロー世代(1973年生)が共に脂が乗った状態で揃っていた時なので総合的に選手のレベルが高い時代でした。一軍だけでなく二軍、三軍を作ってもどのチームでも世界を目指せそうな層が厚く強い時代でした。
松坂、イチロー世代に匹敵するほどレベルが高く層が厚かったのが田中将大世代(1989年生)ですが、2023年大会はちょうど田中世代が衰えや故障などで成績を落とし始めている時期というのも影響しているように思います。
本来であれば田中将大に加え、前田健太、秋山翔吾、柳田悠岐、坂本勇人などが代表にいても不思議ではなく、好調の彼らがいれば2006年や2009年にも匹敵する層の厚さを実現できたのですが、全員が衰えや故障などで代表に呼べる状態になく、招集したとしても全盛期からは成績が衰えた状態となっています。
歴代でもトップクラスのポテンシャルを持つ若きスターである村上宗隆、山本由伸、佐々木朗希らが揃っていて将来有望ではあるものの、現状だけを見ると他には今脂が乗っている世界最高の選手大谷翔平やベテランのダルビッシュ有らを除くと、心許なさが残るメンバーなのが2023年大会の実情だと思います。
山田哲人や山川穂高、岡本和真なども良い選手ですが、山田も年齢的には脂が乗っているものの成績的には全盛期から落ちていて、山川、岡本らも十分好成績を残し続けているものの、NPBなら3割30本40本を当たり前のように毎年打てる選手が揃っていた2006年、2009年の主力野手陣と比べると安定感でも爆発力でももう一歩頼りなさがあるため、2023年は時期が悪かったと思います。
もう何年か後だったら山田柳田が復活したり、岡本山川らがさらに成長したり、ヌートバーがアメリカ代表からも招集熱望されるくらいの世界的選手に成長していたり、捕手や遊撃手も打てて守れる新たなスター選手が出てきたりするかもしれず、今より層が厚い時代になるのではないかと思います。
とはいえ現状の2023年WBCではヌートバー、近藤、大谷、吉田の上位打線が絶好調で、ここまでの相手が強くないこともありますが安定感としては歴代日本代表の中でもトップクラスの勝ち方を見せ続けています。
一方で大谷に並ぶ攻撃の要と期待された村上宗隆は絶不調です。
逆に2017年大会も打撃面では全く頼りにならない実績だった捕手の小林誠司が大活躍で、大会成績だけなら2009年正捕手で4番も務めた城島や2006正捕手で大会ベストナイン捕手の里崎を上回るほどのWBC日本代表史上最強捕手といえるレベルの打撃成績を残していました。
短期決戦では単純なメンバーの実績や能力がそのまま成績には結びつきません。
ただ、この考察は大会成績のことは考慮しないので、結果的には2023年大会は日本代表がこのまま圧倒的な強さで優勝し、史上最強だったという評価が大会後はさらに増えているかもしれませんが、それでも個人的に今回の2023年大会の日本代表メンバーが史上最強ではないという考えは変わりません。
余談
2006年アメリカ代表は結果的には2度の審判買収誤審の助けがなければ日本韓国メキシコに実質3連敗で2次ラウンド敗退(誤審の助けがあっても1勝2敗で敗退)というアメリカ自身最低の悲惨な成績でしたが、メンバーの実績レベル的には2006年アメリカ代表が史上最強でした。
今大会2023年のアメリカ代表も野手のメンバーレベルはかなり高いですが、それでも2006年に比べると良くて同等かそれ以下だと思います。
近年は単純にメジャーリーガーのトップ選手における出身選手の割合がアメリカ以外の比率が高まっているせいもあると思います。
2006年のアメリカ代表には本来ドミニカ代表のアレックス・ロドリゲスが参加していたこともあり、かなり豪華なメンバーでした。
野手陣はかなり当時のベストメンバーかそれ以上に近いです。
投手陣もクレメンス始め先発陣もリリーフ陣も豪華な顔ぶれで、仮に自由に最強メンバー選べるとしても好みで変わる程度で、文句のつけようがない最強メンバーでした。
アメリカが本気でなかったというのはイメージ先行で、実際はメンバー見る限りは少なくとも当時の日本よりは本気だったと思いますし、今後どこまで本気になったとしても2006年以上のメンバーが揃う時が来るか分かりません。
また、韓国も2006年、2009年大会はメンバーレベルも高かった上に、大会中もメジャー軍団が比にならないくらい強く、日本以外には負けなしかつ負けそうになったことすらないくらい強かったですが、兵役免除のなくなった2013年以降の大会では予選ラウンド落ちを続けて低迷しています。
兵役は単純に可哀想だし同情しますが、それがなくてももっと大会にやる気出して頑張ってほしいと思います。
2006年アメリカ代表のように史上最強メンバー、ベストメンバーを選べたからって勝てると限りませんし、優勝できたからといって史上最強メンバーだったとは限らないですが、今後WBCがアメリカや日本、その他の国も含めより熱く盛り上がる大会になるのを見たいと思います。