凱旋門賞挑戦ドウデュースと学習能力

前哨戦ニエル賞で不安を露呈したドウデュース

ドウデュース(牡馬3歳・友道康夫厩舎)凱旋門賞に挑戦。
前哨戦のニエル賞(ロンシャン 2400m)では自己最低順位の4着に敗北。
太め残り、調教替わりの出走という元々の予定ではあったが、馬場を気にする様子や最後に脚が止まったこと、高くないメンバーレベルでの敗戦というのを見て不安を感じた競馬ファンが多かった。

単純に考えるとドウデュース2分21秒台のレコード決着となった2022年日本ダービー優勝馬であり、同距離でレコードは2分23秒台ながら時計が出やすくなるような馬場になることは稀で、基本的には2分30秒前後の決着となる凱旋門賞と比較すれば適性は真逆に近い
それでもメンタルの強さに定評のあるドウデュースならと期待をした層も多かったが、残念な前哨戦の内容で一気に日本国内の評価・期待も下がってしまった。

一応、友道康夫調教師や主戦の武豊騎手
「元々調教替わり」「全く問題無い」
と言っているが、ただの強がりではないのか?と不安が募る。

しかし、友道康夫調教師現役最多のダービー3勝を誇り、武豊騎手史上最多のダービー6勝を誇る。
日本のホースマン最大の夢である日本ダービーを最も多く勝ってきた厩舎・騎手。そしてもちろん直近の2022年今年に勝っているので単なる過去の栄光でもない。
そんな大きな夢を叶えることに最も長けたホースマン同士のタッグである。
今年のドウデュースをそう育てられたように、友道康夫厩舎、武豊騎手は夢を叶えるための特殊知識・技術を持っているのである。
そこを追っていくとドウデュースの前哨戦ニエル賞の敗戦もただの敗戦ではなく、凱旋門賞制覇への伏線である可能性が見えてくる。

教育能力の友道康夫厩舎

昨今の日本中央競馬は実績馬ほどG1直行、長い出走間隔での出走セオリーとなっている。
100%をぶっつけ本番で出し切り、休ませてまた100%を出す。
100%を出し切ってしまうので、休養が足りないと前レースの反動でパフォーマンスが落ちる。
昔のような前哨戦を叩いて調子を上げていくというスタイルは少なくなった。

特に3歳牡馬クラシック戦線でもそれは顕著で、
昔は弥生賞から皐月賞・日本ダービーへというローテーションが王道ローテであったが、
今では2歳G1からの皐月賞または日本ダービーへの直行
または弥生賞よりも間隔が空く共同通信杯から皐月賞・日本ダービーというローテが王道になりつつある。

しかし、そんな時代の中、友道康夫厩舎はとダービー現役最多3勝を上げているが、この3頭はどれも同じローテーションでダービー制覇を成し遂げている。

2016年マカヒキ
2018年ワグネリアン
2022年ドウデュース

友道康夫厩舎の日本ダービー制覇

弥生賞→皐月賞→日本ダービー
この昔ながらの王道ローテーションである。

そしてこの3頭とも皐月賞を負けてダービーを勝っている。
マカヒキは弥生賞を勝っているが、ワグネリアン、ドウデュースは弥生賞でも負けている(ドウデュースは不利がなければ勝っている可能性が高いが)。
しかも、ワグネリアン皐月賞7着からの巻き返しで福永祐一騎手初のダービー制覇をもたらした。

前哨戦で負けながらも、ダービーというほぼ全陣営が人生で1度だけでも勝ちたいと掲げる最大の目標をピンポイントに勝たせるのは3度続くともはや偶然ではない

つまり、友道康夫厩舎弥生賞と皐月賞を使いながらダービーに最大の能力を出させる馬の調整法・教育方法を会得していて、実行しており、それがこの結果につながっているのではないかと推測できる。

マカヒキドウデュースと同じく3歳時にダービー制覇の後、ニエル賞から凱旋門賞を使うが、ニエル賞を勝利しつつ凱旋門賞では見所なく敗れてしまった。
友道康夫調教師によればマカヒキはニエル賞でお釣りがなくなり、凱旋門賞では調子が悪い状態で迎えることになってしまったそうで、その時の経験もあって今回のドウデュースはニエル賞では力を出させずに調教替わりに使うという手法をとったとしている。
前哨戦を負けても使いながら大目標の本番に最大の能力を出させる特殊技術がこの凱旋門賞でも発揮されると、ドウデュース目が覚めるような走りを見せてくれるのではないかと期待できる、という算段になる。

学習能力・教育能力の武豊

ダービーの勝ち方を教える騎手

武豊騎手は言わずと知れた競馬界のスーパーレジェンド
若くから頭角を現し、ダービーも史上最多の6勝を誇るが、かつて「武豊はダービーを勝てない」と言われていた時期があった。

1998年スペシャルウィーク
1999年アドマイヤベガ
2002年タニノギムレット
2005年ディープインパクト
2013年キズナ
2022年ドウデュース

武豊騎手の日本ダービー制覇

1996年の日本ダービー、武豊騎手は最強と信じていたダンスインザダーク(父サンデーサイレンス)の主戦騎手としてダービーに臨むが王道の競馬から2着に惜敗してしまう。
ダンスインザダーク三冠馬になれると武豊騎手が思ったほどの馬であり、皐月賞こそ体調を崩して回避してしまうが予定よりも体調は早く戻り、ダービーは勝てると満を持して臨んだものの、前述の通り惜敗。武豊騎手は「最強馬でもダービーを勝つのはこんなに難しいのか」と感じたという。

その1年後に武豊騎手は1998年ダービー馬スペシャルウィーク(父サンデーサイレンス)と出会う。初めて乗った時から「やっとダービーを勝てる」と確信したほど若駒の頃から才能を見せていたそうだが、同時に「ダンスインザダークに似てる」と感じたという。
スペシャルウィークもダンスインザダークと同じく三冠馬を意識するほどの馬だったが、ダンスインザダークで不覚をとってダービーを逃した武豊騎手は、慢心せずにダービーを勝たせるための教育を新馬から施し続けた。それが皐月賞を落とすことになってもダービー圧勝での初勝利という結果をもたらした。

その後武豊騎手は「もうダービーの勝たせ方は分かった」と言うかのようにスペシャルの翌年1999年アドマイヤベガ、2002年タニノギムレット、2005年ディープインパクト、2013年キズナ、2022年ドウデュースとダービーを勝ちまくるようになった。

そして1999年アドマイヤベガも体調面の問題もあったが弥生賞・皐月賞を負けてからのダービー勝利
2002年タニノギムレットでも1番人気だったもののNHKマイルCを後方待機から3着の後にダービー勝利。
2005年ディープインパクト
無敗三冠を達成するものの弥生賞では大外を回ったせいもあるが日本国内の最小着差クビ差で辛勝と、ダービーのための走りを意識したかのような戦法をとらせた末に勝たせている。
後の無敗三冠馬なので負けていたら大変なことになってたかもしれないが、多分当時は負けても後の教育のためにはこれがベストな戦法という心境だったのではないだろうか。

そして今年2022年のドウデュースも今までの武豊騎手のお手馬ダービー馬が辿ってきた未知をなぞるような過程からダービーで最大のパフォーマンスを発揮してダービー馬となった。
武豊騎手の特徴を知っている人達は皐月賞の負け方を見ても、逆にダービーで巻き返しの可能性は高いと思っていたはずで、個人的には皐月賞後イクイノックスダノンベルーガの評価ばかり上がって、ドウデュースがダービーで評価を落とすのが不思議だった。
武豊騎手を含め日本競馬をよく知り尽くしてきたプロの評論家や予想家ですら大半が騙されてドウデュース下げイクイダノン推しだらけだったのだから、競馬というのは知れば知るほど分からなくなるものだ。

ドウデュースは凱旋門賞の前哨戦ニエル賞を落としてしまうが、あくまで前哨戦。しかも本番を見据える上で弥生賞や皐月賞よりも重要度がはるかに落ちる。
特に武豊騎手は2013年キズナでニエル賞を勝った後に凱旋門賞4着という経験がある。キズナのニエル賞は英国ダービー馬などメンバーレベルも高かった中での勝利であり、そこから中2週での凱旋門賞は疲労が残っていて体調が最高の状態ではなかった可能性がある。
その経験を踏まえて逆算しての調教・調整目的のニエル賞だったなら、ドウデュースには凱旋門賞での最大のパフォーマンス発揮が期待できる。

教育のために戦績を汚す可能性を軽視するのは賛否もあるだろうが、生涯完全連対の馬や無敗三冠馬、破天荒な三冠馬や二冠馬など、多種多様な戦績の日本の名馬が挑戦し続けてきても逃してきた凱旋門賞。
特別な教育や過程もその勝利のためになるなら仕方が無いともいえる。

ドウデュースとスペシャルウィーク

武豊騎手にダービーを初めて勝たせた1998年スペシャルウィークは武豊騎手にとって10回目のダービー挑戦だった。
そして今年のドウデュースの凱旋門賞は武豊騎手にとって10回目の凱旋門賞挑戦である。

今年のダービー前、武豊騎手がドウデュースはスペシャルウィークにメンタルが似ていると語った記事があった。結果的には皐月賞を落としてダービーを制覇する戦績も同じようになった。

スペシャルウィークは武豊騎手に初の日本ダービー制覇初のジャパンカップ制覇をもたらした馬だった。東京2400mG1の勝ち方を教えた馬だったといえるかもしれない。
そしてドウデュースは武豊騎手に初の朝日杯制覇をもたらした。ここに凱旋門賞制覇が加われば、スペシャルウィークと同じく武豊騎手に初めてを2つプレゼントした馬になるところも一緒になる。

また、前述したように武豊騎手はスペシャルウィークに初めて出会った時、騎手自身がダービーを勝ったことがないのに「ダービーを勝てる」と意識させ、実現させた馬だった。
そしてドウデュースもまだ馬主も厩舎陣営もその才能に半信半疑だった2歳時点で武豊騎手に「来年の凱旋門賞に挑戦できる馬」と意識させていた馬だった。あとは勝利の実現をするだけである。

そして、ここでもし凱旋門賞初制覇となれば、スペシャルウィークの後のアドマイヤベガ以降のように、武豊騎手は凱旋門賞の勝ち方を覚えて、勝ちまくるようになるのではなんて思えてくる。


武豊騎手・友道康夫厩舎のホースマン人生の結晶のドウデュース

ここまで見てきたように、友道康夫厩舎と武豊騎手夢の叶え方というのを知っている百戦錬磨の厩舎・騎手である。
そんな厩舎・騎手がホースマン人生で培ってきた全てを詰め込んでなりふり構わず凱旋門賞を狙いにやってきた

それがドウデュースのニエル賞凡走の真相だとしたら、今までも前例がいくつもある前哨戦好走後の凱旋門賞挑戦よりも尚更期待ができるローテーションといえるのではないか。

まあ期待と楽観が大いに混じった理論ではあるが、そもそも普通に考えたらデータ的に日本調教馬、日本人騎手、日本厩舎という時点で凱旋門賞の勝率は0%であり、つまり無敗三冠馬だろうと前哨戦をいい内容で勝っていようと勝てていないのが現実である。
だが普通に考えて当たるなら誰でも馬券を当てられるし、誰でも勝てる馬主や調教師になれる。

今年の皐月賞後、ダービー直前はダービー最有力はイクイノックスかダノンベルーガ、ドウデュースは皐月賞を落とした時点で終わりと多くの競馬ファンや有識者に言われながら、あっさりとダービーを勝ったのがドウデュースと武豊騎手だった。
凱旋門賞直前の今も日本馬で期待できるのはタイトルホルダーのみ、ドウデュースはニエル賞の内容でノーチャンスというのが大方の競馬ファンや有識者の見方だ。

しかし、元々学習能力が高く、メンタルが安定しているというドウデュースは経験・知識豊富な武豊騎手と友道康夫厩舎によって凱旋門賞を勝つための方法が教え込まれた、普通の物差しで測れない馬である。
ダービーの時のように直線で悠々と駆け上がり、朝日杯の時のように最後は雰囲気十分に見事な差し切りを見せて、歴史に残る名場面を作ってくれることを期待したい。


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