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01.木材の資源循環から考える建築

【地域ごとに異なる木材循環から建築をつくる】

 進行中のプロジェクトの現地視察と、その地域の木材サプライチェーンを教えて頂くため、志摩と熊野へ。

株式会社cultiveraと農業法人pomona farmで代表をされている豊永 翔平さんにアテンド頂き、濃すぎる2日間を過ごした。


 世界規模での気候変動から地域のエコシステムまであらゆる課題を、革新的な技術と経営のアプローチで切り開くCultivera×Pomona farmの豊永さんと、志摩で新たなプロジェクトに取り組む。

 また、株式会社nojimokuの野地 伸卓さん、野地良成さんとも木材の活用についてお話しし、この地での木材循環が少しつつみえてきた。

01.とにかく針葉樹が多い熊野の森

 実は今回が初めての熊野訪問だった。道中ずっと森を眺めていたけど、熊野はとにかくスギ・ヒノキなどの針葉樹が多い。

熊野エリアの針葉樹を多く扱う熊野原木市場を訪問

 三重県の資料をみると、人工林率は70%ほどで、その人工林の97%が針葉樹。熊野灘や紀伊山地によって、温暖で雨量の多い場所。河川の長さはそこまで長くはないと思うが、山に対して適切に手を入れないと、どうなるのだろうと思った。

 一方で、温暖で雨量の多い場所には良質な木材が育ちやすい環境でもある。特に熊野エリアは、密植とこまめな間伐により良質な木材をこれまでも生産してきたエリアだ。熊野は海も近いため、辺境の地でありながらこれらの木材を江戸などに海路を使って搬出し、利益を得てきた華やかな過去もある。

02.小規模製材所数日本一の三重県

 こうした地理的背景もあり、三重県には、山間に多数の製材所が点在している。

野地さんよりサプライチェーンの中での製材所のありようを説明頂く

 野地さんから教えていただくと、小規模製材所数日本一が三重だとのこと。XENCEのラボがある岐阜県は2位であるが、少し様子が違うように思う。

  • 地域の林業史

  • 森での木材の育て方

  • ターゲットとする木材市場の需要や焦点

  • 製材機などの工具の状態

 様々なパラメータで木材バリューチェーンは大きく変わることはわかっていた。けれど、野地さんから熊野での木材の目立てや木取りを学ぶと、僕の理解は、ツインバンドでのスピード重視の製材や、シングルだとしても大量生産・見込み生産型に偏っていたことがわかった。

株式会社nojimoku 代表 野地さんから学ぶ、バンドソーと製材順序の考え方

 木取り図も、「木取る順序」によって、ここまで材に対する向き合い方が変わるのかと。もちろんこうした違いは、流通する材の違いだけでなく、製材のプロセスのなかで余ってしまうもの、チップやバイオマスに回すことになるものの種類も変わっていく。

 地域差異を越えて、どこのやり方が良いという議論は意味ないと思うが、こうした違いを知って取り組む建築は、躯体の組み上げ方が異なるはず。建築がつくり使われるプロセスとその素材がつくり使われるプロセスが、繋がった未来が見えて来た。

03.衝撃だった「セーザイゲーム」

 また今回体験した中で衝撃だった。株式会社nojimokuさんによって開発された「セーザイゲーム」。

 これまでのものづくり系ワークショップだけでは伝えきれなかった、製材所の経営的楽しさや、セリ場・エンドユーザーとの関係を、木育としてここまで楽しく学べる方法があることに本当に驚いた。

木のサイズ、節の有無などから、決まる様々な建材が机に並ぶセーザイゲーム

 セーザイゲームでは、実際にセリにて買うことのできた丸太から、木取りを行い、仕入れ値に対していくら分の製材ができたかで、1本あたりの利益率が決まっていく。

製材が終わると、それをこぼさぬよう、建材市場を模したテーブルへ販売しに行き、キャッシュに変えてもらう。製材した木材が丸太カードの上で”荷崩れ”しないように慎重に運ぶのもまた面白い。

セーザイゲームのあと、実際の製材所を拝見すると、見えている木材への理解度が格段に上がる

このゲームは、2023年にはウッドデザイン賞も受賞し、これから大きく広がっていくだろう。いろんな他地域の学校教育や、大学での経営教育にぜひ試してみたい。

04.地域の農業と林業を建築でつなぐ

 冒頭にも記載したが、現在XENCEでは株式会社cultiveraと、株式会社nojimokuと、志摩にて新たなプロジェクトに取り組んでいる。

 どの地域にも農業と林業はあり、土地的には隣接していることが多いが、意外とつながる機会は少ない。間伐材等を燃焼した際の熱エネルギー再利用の試みなどはあるが、まだまだ産業としての繋がりはほとんど無く、地域の中で並走している状態である。

 一方で両者を俯瞰できる建築の視点から見ると、林業は切っても切り離せない産業であることには間違いない。また農業も、施設園芸は英国にて17世紀からすでに始まっているが、温室型建築に一端がある鉄主体のモダンデザインは、今日までも大きく影響をうけてきたものだ。

ロンドン クリスタルパレス(1851, ジョセフ・パクストン)

 今回新たに志摩のプロジェクトで目指す建築は、鉄の時代から木の時代へと回帰する21世紀の温室となるように思う。

 地球規模での気候変動や、地域内での資源循環を再生するためのRegenerative Architecture(再生可能建築)が求められている。素材だけでなく、建物をつくる・つかう人間の活動も含めて、持続的なプロジェクトになる。近年ではグリーンジョブの観点からも、このような建物のありようは求められいる。

現在の在庫管理や製材情報をヒアリングさせていただく。材に新たな価値を吹き込む。

 素材に、今までには無かった新たな価値を与えることができるのは、デザインの醍醐味だ。木材では、建築の今日の需要に乗らない材なども、農業の需要にのせられることもできる。

 需要と供給のバランスは常に変化するので、その時々で、木取りして余る部分や、需要が少ない断面寸法は異なる。そのため、今回は、最終的にできあがる建築だけでなく、様々なプレイヤーとの共創により、価値を与えるプロセスそのものがとても重要となる。地域の中で産業を横断して様々な素材に価値を与える建築が、農業と林業をゆるやかにつないでいく。

photo by XENCE
noted by XENCE

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