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新たなる「ゼネコン」で取り組む破壊的ファシリティマネジメント

 本note は、日本ファシリティマネジメント協会が発刊する『JFMA JOURNAL No.213 2024 winter』にて依頼を頂き寄稿した文章です。
より多くの方に知ってもらうため、noteへの連載を承諾頂いた、JFMA専務の成田様、担当 重綱様、また機会を頂いた名古屋大学 恒川教授に心より感謝申し上げます。

ファシリティマネジメントから設計・施工へ

 2022 年に合同会社XENCE(センス)を創業しました。

クライアントの皆さまには、「建物のつくり方・つかい方を拡張し、新たな風景をつくる次世代“ ゼネコン”」とご紹介しています。

 私は学生時代、名古屋大学にて恒川和久先生、東京大学大学院にて野城智也先生に師事し、工学(建築)の中でファシリティマネジメント(以下FM)・プロジェクトマネジメントを学んだ後、ゼネコンの1 つである竹中工務店の設計部で建物の設計に携わりました。
 FM の視点を持ちながら設計・施工を続ける日々の中で、学生時代に研究してきた建物のモノ的価値とコト(サービス)的価値の柔軟なデザインには、既存の仕事の切れ目とは異なる新たな職域からのアプローチが必要であると感じていました。

新たな「ゼネコン」を創業する

 今日の“ゼネコン” は“general contractor(総合請負業)” の略です。設計・施工による価値創造とリスクを一手に担う生産組織として、戦後の高度経済成長を支えてきました。一方、ゼネコンから見るFM とは、主に施工後の建物の維持管理や保守点検、改修工事であり、新築を越えた価値創造や新サービスのデザインに関わる機会は極めて少ないのが現状です。
 FM と建設業をつなげるためには、設計・施工に偏重した従来型の請負契約ではなく。建物のあらゆるプロセスに柔軟に関われる新しい契約体系と組織経営が必要であると考えていました。

図表1 XENCEで提唱する次世代ゼネコンとしての契約形態「generative contract」 

建物のプロセス全体を眺めながら、要点で価値創造する契約方針を、新たなゼネコン”generative contractor =生成的請負”とし、各プロセスの専門家を集めXENCE を創業しました。ファシリティの価値向上に最もクリティカルなフェーズをプロ
ジェクトごとに見極め、その部分に対して専門知をアテンドし、価値を共創する組織です。

図表2 力場をモチーフとした柔軟な請負を実行するXENCE組織図

FM の3つのアプローチ

 FM のアプローチには、①保全委託型 ②顧問型 ③共創型の3つの傾向があると感じています。

▼保全委託型

 建物の価値を維持するため、設備の保守点検や現場の清掃委託など、具体的な仕様がクライアントより委託されるのが①保全委託型です。保全委託型の多くは、すでにクライアントにファシリティ価値の想定値があり、その現状の価値をどれだけ下げないかが重要です。

▼顧問型

一方で、ファシリティ価値が不明瞭な中で、弁護士や税理士のように経営に寄り添いながら施設の方針をアドバイスするのが②顧問型です。米国・英国ではこの立場も多いですが、非常に長期的な建物のライフサイクルで、FM の支援必要量は、時に応じて大きく変動するため、顧問型の場合は施策が教科書的または後手に回ることが多いように思います。

▼共創型

 私たちが取り組むのは③共創型です。ファシリティの価値をクライアントともに能動的に共創しつづけることを意図しています。経営基盤であると同時に、チェンジマネジメントとなり得るFM になります。

共創型で取り組むFM プロジェクト

XENCE の取り組む共創型のFMの事例を2つご紹介します。

▼ PJT01 : memu open research campus

図表3 memu open research campus のFM

 北海道大樹町にあるmemu open research campusは、memu earth lab を中心にさまざまな研究や制作活動が行われるフィールドです。十勝平野に位置するキャンパス(区画約20ha)には、隈研吾さんらを中心に建てられた実験住宅群や、研究・教育・研修施設、もともと大樹ファームと呼ばれた競走馬の牧場施設など30 以上の施設群があり、昨年までは一部をホテルとして利用していました。この場所を新たにキャンパスとして価値を最大限に引き出すため、東京大学と共創型FM に取り組んでいます。
 敷地内外を、キャンパスとして「再定義」していくと、フィールド型キャンパスでは、都市部で議論されるさまざまな課題が複合的に現れるポリクライシスを肌身で感じながら研究や制作ができる場であることに気づきます。
 ポリクライシスに直面しながら、分野横断的かつ偶発的なつながりから研究や制作を行う場として、新たな場の価値をデザインし、研究や制作活動に必要な情報づくりや運営、施設デザインなどを行っています。


▼ PJT02: 名古屋大学IDEA STOA

図表4 イノベーションを育てる場づくり:名古屋大学 IDEA STOA

 名古屋大学IDEA STOA は、東海国立大学機構内に設置したイノベーション拠点です。XENCE はIDEASTOA の企画・包括管理を行っています。

 加速的に増えているスタートアップは、2020 年には内閣府を中心に「スタートアップ・エコシステム拠点都市」も選定もされ、都市の未来を創るにはなくてはならない存在になりました。彼らを支え育てるインキュベーション施設の多くは、アクセスを第一として都市の中心市街地や駅チカに乱立していますが、持続的なイノベーションは、“ 知の中心地” から生まれるはずだという視点を基に、大学での共創型FM に取り組んでいます。
 当初大学内の一会議室であった場所をリノベートし、名古屋大学との協働により、学生が0 → 1 のイノベーションに触れることができるイベント設計(IDEABATON)や、1 → 10 を深掘りするスキーム”JIKKEN”の促進、ラピッドプロトタイピングを支援するなど、大学における新たな場のハードとソフト両側面のデザインに取り組んでいます。


破壊的ファシリティマネジメント

 共創型でFM 事業を進めてきて開発したスキームが、“破壊的ファシリティマネジメント” です。クレイトン・クリステンセンが提唱した、「既存の市場で求められる価値を低下させつつ、新しい価値基準を市場にもたらすイノベーション」=破壊的イノベーションはすでに世の中に浸透してきていますが、ファシリティマネジメントにも“ 破壊的“ な側面が必要となっています。
 ファシリティの新築時に想定した用途・規模などモノ的価値を一旦は低下させるとしても、新しいモノ的・コト的価値基準を市場に提供するFM は、大きな社会的インパクトを生むことがわかりました。現状は大学やスタートアップ施設のFM が中心ですが、XENCEはこれからも、“破壊的ファシリティマネジメント” によって、建物のつくり方・つかい方を拡張し、新たな風景を共創します。◀

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