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無関心なみんなの力をデザインで結集させたい。

社会人にデザインの知見を、という想いで講師と学生が共になって日々の学びを深めているXデザイン学校。実際にどんな学びがあるのかという教室の声を届けていく、クラスルームインタビュー。第18回目はアドバンスコースで学ばれている安ヶ平雄太さんです。


安ヶ平雄太さん
株式会社NTTデータグループにてアジャイル開発に従事。アジャイルやリサーチのカンファレンスにスタッフとして携わる傍ら、自身でも読書会を主催している。SNSでは「ナイスパーティやすがひら」と名乗る。

現在、どんなお仕事をされていますか?

株式会社NTTデータグループで、アジャイル開発を支援するスクラムマスターとして仕事をしています。もともとは10年くらいインフラエンジニアをやっていて、それからデジタル領域の部門に移ってスクラムマスターになりました。デザインに興味を持ったきっかけは、デジタル部門の期初のキックオフです。今まで自分はエンジニアリングの人間として仕事をしてきたのですけど、「これからのエンジニアは、エンジニアリング・デザイン・ビジネスと3つある中で、最低2つはできるようにならなくちゃいけない」というメッセージを聞いて、びっくりしたことを覚えています。

デザインとの出会いですね。

学生時代に美術部だったこともあり、アートやデザインに興味はあったので、その言葉を聞いた時に“今まで興味はあるけど、踏み出せなかった領域に一歩踏み出してもいいのかもしれない”と思い、デザインを学ぼうと決めました。当時はデザイン思考やUXデザインという言葉が特に気になっていたので、その周辺を学べる場を探して、Xデザイン学校を見つけました。当初はあまり情報を見つけられず怪しいイメージさえありました(笑)でも2月の成果発表会を見学して、いきいきとした受講者の姿や、忖度なしで本気のフィードバックをする先生や企業の方の姿を見て、1年間ここで本気でデザインを勉強したら、自分も少し成長できるかもしれないと思い、2022年にベーシックコースへの入学を決めました。


学ぶことで繋がる、「見えてなかった関係性」

実際にXデザイン学校で学んでみていかがでした?

ベーシックコースでは数人のチームを組みますが、先生方が受講生のバックグラウンドを踏まえてうまくチーム分けしてくれたので、強み弱みを補い合える刺激的なメンバーになりました。成果発表会のその日に打ち上げをするくらいチームで仲良くなれて楽しかったです。仲間がいるのは大きいですよね。また、入学前はデザインの世界の言葉を理解できていなかったのですが、Xデザイン学校で1年間やって、かなりわかってきたという感覚が生まれてきました。さらにそれらの言葉が繋がって、ビジネスからUXデザイン、UIデザインへという一連の関係性が理解できました。これを学べたことは非常に大きかったです。

学び続けるために何より大切なのは、仲間かもしれない

なぜ一年置いてまた学校に戻られたのですか?

2022年は自分にとってXデザイン学校の年と言えるくらい一生懸命やって、やりきったという感覚がありました。Xデザイン学校はすごく大好きなところなんですけど、また来年もこれやるのかって(笑)それで一回置いてみようと思いました。でも本当にXデザイン学校のことは好きで、イベントやフィールドワークに参加したり、2023年度の受講者の皆さんのnoteは必ず全部読んだりしていたので、ずっと近いところにいました。それで去年1年間をかけて、今後探求していきたいと思えるテーマに出会えたので、アドバンスコースに戻ってきました。


誰も動かないテーマに人を動機付けるデザイン。

それはどんなテーマですか?

最近自分の中で気候変動が気になっていて、それがテーマです。去年いろいろと勉強する中でアクターネットワーク理論に触れたのですが、それ以降「非人間」に意識が向いてきたことがきっかけです。アクターネットワーク理論を読み終わってから湧き上がってきた最初の疑問は、「地球には何百万の生物が生きているとよく言うけれど、それって本当かな?」というものでした。例えばある地域にアリがいたとして、そのアリは自分が住んでいる場所のことしか知覚していなくて、地球のことなんて知覚していない。だからそのアリを指して地球に生きていると言うのは、そのアリが宇宙に生きていると言うことと同じくらいナンセンスなんじゃないかと思ったんです。そして同時に、地球に生きている生物は人間だけなんじゃないかという気がしてきました。そう言うことを考えていると、今度は、地球に生きているのは人間だけなのに、なぜ人間は自然を破壊して気候変動を引き起こしているのに、それに対して無責任な態度が取れるんだろうと不思議になってきました。そして、誰しもが問題だと思いつつ、自分も含めて無関心なこの気候変動という問題を、デザインの力で変えていけたらおもしろいなと考えるようになりました。

壮大なテーマが、デザインと結び付いている

このテーマは仕事に関係しますか?

仕事には直接関係しないので、趣味ですね(笑)気候変動に取り組むと決めたのは、将来子どもからお父さんは気候変動に対して何をしたの?と聞かれた時に、答えられない自分にはなりたくないという想いも大きいです。ただ、気候変動へ取り組む中での学びが仕事に活きるシーンはあると考えています。現在の業務では、組織変革を支援することがあるのですが、そういう時にべき論を語っても、人は絶対に動きません。だからべき論ではなくて、その現場を観察して、対話をして、どう働きかければ動くか?を考えます。気候変動への取り組みも、みんなやった方がいいと思っているのに実際には動かない。じゃあどうやってみんなの心に火をつけるんだ?と考えることは、組織変革の仕事にも活かせると思います。むしろ本当にみんなで取り組める気候変動へのアクションをデザインできたなら、どんな組織変革だって達成できるのではないかと思っています。みんなで取り組むという意味では、山崎先生が翻訳して出版された近接のデザイン的な考え方はヒントになると考えていて、アドバンスコースに戻ってきた一因になっています。


スクラムマスターとXデザイン学校の学びに接点はありますか?

あると思います。スクラムマスターとして、プロダクトを作る開発者の支援はもちろん大事ですが、何のために何を作るのかを決めているプロダクトオーナーの支援も同じように大事です。その点では、Xデザイン学校で学んだビジネスモデルの捉え方やリサーチの手法は、プロダクトオーナーの支援に繋げられると思います。プロダクトオーナーに対してそこまでの支援ができたら、スクラムマスターとして一皮むけますね。


1+1>2を信じて、今日もナイスパーティで。

デザインの文脈と相通じるものがあるんですね?

スクラムにおいては現在地からちょっと進んで振り返って改善して、ちょっと進んで振り返って改善して、という検査と適応のプロセスを重ねていく。デザインの文脈でも、現状をちょっとでも良くしようとしたらそれはデザインだ、という話を聞いたことがあって「おー、繋がった!」と双方に深い繋がりを感じて面白いと思ったことを覚えています。本当にデザインのことを知らなかった時は、デザインってセンスのある一人が淡々とやるものというイメージがあったんですが、デザインの世界に入ってみると、デザインって誰かの思いをどう実現するか一緒に寄り添って考えるという作業であって絶対一人ではないし、勝手に突き進むものでもない。誰かと寄り添って進むという要素は自分がやってるアジャイル開発とも似ていると感じます。

“「現状をより好ましいものに変えるための行動を提案する人は、誰でもデザインをしているのだ」 "everyone designs who devises courses of action aimed at changing existing situations into preferred ones"  - Herbert Simon (1969) ”


「ナイスパーティ」という思わず理由を聞きたくなるミドルネームをお持ちですね?

そうですね。ナイスパーティというのは、上平先生の書かれたコ・デザインという本に書いてあった言葉で、大好きすぎてSNSの名前につけています。本の中では、デザイン態度の例え話として、土曜の夜の過ごし方には「グッドムービー」と「ナイスパーティ」という2つの過ごし方があると紹介されています。映画を見て過ごす場合、事前にサイトでレーティングが高いものを調べれば、いい映画が見られて結果としていい土曜の夜を過ごせます。これがグッドムービーのスタンスです。一方パーティーとなると、明確なテーマがあるわけでもないし、そのパーティーがいいものかどうかは人によって変わるので、評価のしようがないわけです。でもそんな中で、パーティを楽しむためにその場を良くしようとみんなでする。そういうナイスパーティな態度が、これからのデザイナーには求められるよねと本には書いてあって、この言説がすごく好きなんです。自分自身もそういう場をつくれる自分でありたいと思っています。まぁナイスパーティって名乗っているわりに全然ナイスパーティ感がないって言われるのが笑い話なんですが、やっぱり一人でやるより、みんなとやっててひらめいた瞬間がとても好きなんですよ。1足す1は2じゃない、それ以上のことが生まれる瞬間が絶対あると思ってて。それがすごく好きなんです。


私にとって、デザインとは「働きかけの力」。

そんな安ケ平さんにとって、デザインとは何ですか?

デザインが「現状を良くするもの」というのは、自分の中にすごく強くありますね。それと昔なにかの本で読んで面白いなと思ったのが“自然界にデザインはない”という言葉です。デザインには人間の意図が反映されているという文脈の言葉だったと思うんですが、ずっと心に残っています。それで今思っていることは、自然界にデザインはないんだけど、そのデザインの力で、自然界や地球を良くしていけたらいいということです。気候変動の取り組みも一人ではできないので、みんなとやりたい。だからみんなの力を合わせるために、場のデザインやファシリテーション、動機のデザインなど、働きかけの力をデザインを通じて学びたいなと思っています。



ナイスパーティなアティチュードを大切にしながら、地球の未来に真摯に取り組もうとする安ケ平さん。みんなの力を合わせるトリガーとしてデザインには大きな価値があると教えてくれました。デザインのおもしろさは、やっぱり広くて深いです。