習近平派優勢の可否が焦点─1年後の党最高指導部人事

 来年秋に開かれる見通しの第20回中国共産党大会まで約1年。党大会では最高指導部である政治局常務委員会の新しい陣容が決まる。習近平党総書記(国家主席)がこれまでの慣例を破って3期目に入るだけでなく、常務委人事で習派が優勢を占められるかどうかが焦点になる。

■いまだに子分ゼロ

 中国共産党を会社に例えると、政治局員(現在25人)が取締役、政治局常務委員(7人)が代表取締役に当たる。常務委員の筆頭格である習氏は「1強」とされているが、実際には現常務委に習氏の子分と言える人物は1人もいない。
 李克強首相、全国人民代表大会(全人代=国会)の栗戦書常務委員長、人民政治協商会議(政協)の汪洋主席はいずれも、胡錦濤前国家主席と同じく共産主義青年団(共青団)出身で、いわゆる団派。胡、李の両氏は団中央のトップ(第1書記)経験者で、栗、汪の両氏は団の地方幹部だった。
 団出身者の全員が一致団結しているわけではなく、栗氏は習氏と個人的に近いといわれるが、年齢は習氏より三つ上(1950年生まれ)であり、子分というより盟友であろう。
 党中央書記局の王滬寧筆頭書記と韓正筆頭副首相は江沢民元国家主席率いる上海閥出身。王氏は江氏の引きで政治学者から党のブレーンに転じた。韓氏は上海市の市長と党委書記を歴任したが、共青団出身でもある。
 最年少(57年生まれ)の常務委員で党中央規律検査委書記の趙楽際氏は唯一、誰の人脈に連なるのかはっきりしないが、過去に習氏との明確な接点はない。

■総書記3期目狙いの理由

 習氏は総書記を9年も務めて、なぜ最高指導部に側近がいないのか。それは習氏がもともと無派閥で特定の権力基盤がなかったという事情のほか、中国共産党で慣例となっている人事のやり方にも起因する。
 総書記が交代する時、新指導部の人事は事実上、前指導部が決める。新総書記1期目の5年間、指導部内で総書記の勢力は少数派とならざるを得ない。そもそも、総書記は党規約上、政治局や同常務委の会議招集者にすぎず、指導部メンバーの人事権はない。
 2期目になれば、総書記に近い政治局員は増える。しかし、新常務委員は原則として前期の政治局員から選ばれるので、最高指導部の常務委では相変わらず外様が多いということになる。
 つまり、総書記が自前の指導部を持つには3期務めねばならない。習氏の3期目狙いは「終身制の野心がある」などと評判が悪いが、トップがリーダシップをしっかり発揮できる体制をつくるという意味では一定の合理性があるのだ。終身制批判を避けたいのであれば、総書記は1期3年か4年で最長3期までとすべきであろう。

■常務委7人中2人退任か

 もし「67歳以下なら留任、68歳以上なら引退」(七上八下)というこれまでの慣例に従えば、現政治局常務委員7人のうち引退するのは栗氏と韓氏(54年生まれ)の2人だけ。李、汪、王の3氏はいずれも55年生まれで、指導部内の担当は変わっても常務委員は続投となる。この場合、次期指導部でも習氏が圧倒的影響力を持つのは難しい。
 習氏が真の1強となるには、「七上八下」を変更もしくは廃止して、できれば55年生まれの3人全員、最低でも現ナンバー2の李氏を引退に追い込まなくてはならない。既に習氏は公式に「党中央の核心、全党の核心」と位置づけられ、自分の名を冠した指導理念を党規約に明記しており、形式上の地位は過去の総書記より高い。今期の政治局は習派が多数派になっており、3期目の指導部人事ぐらい、自由に決められそうなものだ。
 ところが、中国の政治情勢に詳しい香港親中派の消息筋は、55年生まれの3人は全員が常務委にとどまり、李氏は23年に首相から全人代委員長に転じるだろうと予想。汪氏については、経済政策の基本方針を話し合う党中央財経委の委員ではないにもかかわらず、委員と同等の身分で同委員会の会議に出席するようになったことなどから、次期首相になる可能性が出てきたと指摘した。
 習氏の総書記再任と常務委員7人体制の維持を前提として、この予想通りになれば、次期常務委は序列順に①習近平②李克強③汪洋④王滬寧⑤趙楽際⑥新人⑦新人─という陣容になる。

■非主流派1人のケースも

 政治局常務委に新人が入る場合、年齢と経歴から見て、元共青団第1書記の胡春華副首相(63年生まれ)が最有力だ。政治局最年少ながら、この世代で唯一、政治局員2期目。既に常務委員になっていてもおかしくないほどキャリアが厚い。胡錦濤氏の直系として知られ、一時は将来の総書記候補といわれた。最近は次期首相との見方がある。
 そのほかに、香港メディアなどで常務委員の有力候補として名前が挙がっているのは、上海市党委の李強書記(59年生まれ)、重慶市党委の陳敏爾書記(60年生まれ)、党中枢の事務を取り仕切る中央弁公庁の丁薛祥主任(62年生まれ)。いずれも習氏の子分と言ってよい。
 李、陳の両氏は、習派の中核を成す「之江新軍」(浙江省人脈)の主要人物。習氏が同省党委書記だった時期に直属の部下だった。陳氏は第19回党大会(2017年)の前に「習氏の後継者として常務委入りする」との説が流れ、李氏は今春、次期首相含みの副首相異動説が出たが、どちらも実現しなかった。
 丁氏は、習氏が上海市党委書記を務めた頃、市党委の幹部として仕えた。党中央弁公庁主任と国家主席弁公室主任を兼ねており、習氏の首席補佐官のような存在である。
 ただ、現常務委員のうち退任するのが2人だけのケースでは、習派幹部は1人しか常務委に入ることができず、次期常務委における習氏の勢力は今とあまり変わらない。
 一方、仮に習氏が「七上八下」にとらわれずに人事を主導し、自身と趙氏以外の現常務委員5人を退任させるケースでは、胡春華氏の昇格を認めたとしても、習派から最大4人を常務委に押し込むことができる。
 次期常務委が実際にそうなった場合、非主流派の江派はゼロ、団派は胡氏1人だけで、習派の天下だ。市場経済化より市場の統制、民営企業振興より国有企業強化を重視する習氏の左傾路線が一層顕在化することになろう。(2021年10月15日)

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