大荒れの米中外交トップ会談、前向きに評価━「対話は正解」と中国公式メディア

 バイデン政権の発足後初めて行われた米中外交トップ会談は冒頭で延々と非難の応酬が展開され、大荒れとなった。しかし、中国公式メディアは「対話は正解」などと前向きに評価。習近平政権は米国に対しても、強気の「戦狼外交」で自国ペースの話し合いに引き込むことができると自信を持っているようだ。

■楊政治局員「建設的な対話」

 習近平国家主席(共産党総書記)が率いる党中央外事工作委員会の弁公室主任(事務局長)である楊潔チ党政治局員は会談初日の3月18日、ブリンケン米国務長官らを前に通訳を含め30分以上も冒頭発言を行い、まるで説教するかのように台湾・香港・新疆問題に関する米側の「内政干渉」などを強く批判した。政治局員という高い地位にある外交部門トップが公開の場でこのように激しい「戦狼」的発言をするのは珍しい。
 しかし、楊氏は19日の会談終了後、記者団に対し、重大な意見対立があったことを認めながらも「率直で誠意があり、建設的な対話だった。今回の対話は有益で、相互理解の増進に役立つ」と述べた。
 習政権の見解を伝える中国の主要公式メディアはこの点を強調。国営通信社の新華社は20日、「対話は正解、ウィンウィンは正道」と題する論評を掲げ、以下のように指摘した。
 一、中米関係は疑いなく世界で最も重要な2国間関係の一つだ。旧暦の大みそか(2月11日)に習近平主席はバイデン大統領と成功裏に電話会談を行い、意思疎通を強化して、食い違いをうまくコントロールし、協力を展開していくことで合意した。今回のアンカレッジ対話はまさに両国元首電話会談の共通認識を実行に移す重要な行動である。
 一、対話は対抗より良い。今回の対話で双方はそれぞれの内外政策、中米関係、共に関心のある重大な国際・地域問題をめぐり、率直で誠意があり、深く、長時間の建設的意思疎通を行って、幾つかの具体的分野で協力もしくは協調を強化したいとの意向を表明した。例えば、双方は気候変動の分野で対話と協力を強化し、中米気候変動合同作業部会を設けるほか、対等・互恵の精神に基づいて、それぞれの外交領事機関・人員およびメディアの記者に便宜を図る問題について協議する。
 一、中国は米国の政治制度に干渉するつもりも、米国の(国際社会における)地位や影響力に挑戦する、または取って代わるつもりもない。米側も中国の政治制度と発展の道、中国側の一連の重大な政治方針、中国の世界に対する影響力に正しく対応しなければならない。同時に、中国側の主権、安全などの核心的関心を尊重し、台湾・香港・新疆問題で中国の内政に対する干渉を停止しなければならない。今回の対話で米側が台湾問題で「一つの中国」政策を堅持すると改めて表明したことは、正しい対外的シグナルだ。
 一、中米はいずれも世界的影響力を持つ「大男」だ。中米の協調・協力強化こそが世界の平和と発展という大勢に合致する。中国側は米側と共に、国連を典型とする多国間メカニズムの中で多国間主義を擁護していきたい。両国は新型コロナウイルス対策、気候変動への対応、世界経済復興という国際社会の最も切迫する3大課題で協力することができる。また、今回の対話で双方は20カ国・地域(G20)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)などの多国間活動で協調・協議を強化していくと表明し、気候変動やイランの核問題、アフガニスタン、朝鮮半島、ミャンマーといった一連の問題で意志疎通と協調を維持・強化していくことで合意した。
 会談で大きな成果があったかのような書き方だが、これはあくまで中国側の見解であり、米政府は会談内容の詳しい説明をしていない。

■「米の傲慢な態度に打撃」

 党機関紙の人民日報も3月21日、新華社と同様の観点から米中外交トップ会談の結果を伝えたほか、「中米関係の健全で安定した発展を推進しよう」と題する記事で専門家の意見を紹介した。
 外交学院(外務省の教育機関)の王帆副院長は「対話の開始時に米側の外交儀礼に合わないやり方が原因でちょっとしたエピソードがあった」としながらも、「全体として見れば、今回の戦略対話における交流は理性的で、順調だった。このような対話自体が積極的影響を生むだろう」と評価した。
 北京大国際関係学院の王棟教授は「双方が対話の中でそれぞれの立場を説明し、交流もあれば論戦もあった。特に中国側は厳正な立場を説明することで米国の傲慢な態度に打撃を与えた」と指摘。中国国際問題研究院(外務省の研究機関)の阮宗沢常務副院長も「世界中の多くの国が米国による干渉で危害を加えられている。中国側は対話で米国の中国に対する内政干渉に断固として反対して、中米関係のレッドライン(譲れない一線)を示した。これは戦略的な判断の誤りを減らすのに役立つ」と主張した。
 世界各地で戦狼外交を展開する習政権も、トランプ政権に対する態度は抑え気味だったが、バイデン政権にはかなり強気だ。「前政権と比べれば理性的なので、制裁を乱発することはなかろう」という安心感から「大国同士でじっくり話し合えば、強大になった中国とうまくやっていくことのメリットを理解するだろう」と考えている節がある。

■日本は米の属国扱い

 一方、3月16日に行われた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書が「中国による既存の国際秩序と合致しない行動」を批判したことに関して、中国政府は米国より日本に対して強い反発を示した。
 戦狼外交官の典型として知られる中国外務省報道局の趙立堅副局長は翌17日の定例記者会見で香港メディアからこの件について問われると、「中国の内政に対する干渉だ」などと日米を非難。特に日本に対し、「中国の台頭と復興を阻止しようという私心を満足させるため、自ら進んで人の鼻息をうかがい、米国の戦略的属国となって、信頼に背いて義を捨てることをためらわず、中日関係を破壊し、狼を部屋の中に引き込むこともためらわずに、この地域全体の利益を売り渡した」と決めつけた。
 中国政府の報道官が外国をののしるのは珍しいことではないが、公然と第三国の属国扱いする発言は聞いたことがない。趙氏のこのような言い方からは、「大国」ではなく中国の「周辺国」にすぎないと位置付ける日本が、身の程知らずにも大国・中国に盾突くのはけしからんという考えがうかがえる。
 楊氏はブリンケン氏らに対し、「中国に高いところから見下ろすような言い方をする資格は米国にない」と言い放ったが、自分たちはずいぶんと高いところから隣国を見下ろしているようだ。
 中国の政治情報に強い香港の有力紙・明報は19日、珍しく社説で日中関係を取り上げ、「(中国)外務省が使った『信頼に背いて義を捨てる』というきつい言い回しは、日本の対中姿勢に重大な変化があったと中国側が認識したことを反映している」とした上で、「中日関係は赤信号が点灯した」との見方を示した。(2021年3月29日)

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