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中国の重要スパイ摘発相次ぐ─活動拡大する国家安全省(2024年9月)
中国共産党政権のために重要な役割を果たしていたとされるスパイが米国などで相次いで摘発された。国家安全保障強化を重点政策とする習近平政権下で情報機関である国家安全省が活動を拡大したことから、関係各国が警戒を強めているとみられる。(時事通信解説委員 西村哲也)
■NY州政府にも浸透
米連邦検察は9月3日、昨年までホークル・ニューヨーク州知事(民主党)側近の高官だった中国系米国人リンダ・サン容疑者を逮捕・訴追したと発表した。発表によると、サン容疑者は中国共産党・政府の代理人として不正な活動を行い、多額の金品を得ていた。州政府幹部と台湾当局者の接触を妨害したり、独断で中国政府当局者の訪米を招請したりしていたという。ニューヨーク州知事という大物政治家が中国のスパイを重用していたことになる。
8月21日には、米国で長年、中国民主化活動に参加してきた中国系米国人ユアンジュン・タン容疑者が中国国家安全省から指示を受け、他の在米民主活動家に関する情報を同省に提供していたとして、逮捕・訴追された。
タン容疑者は、天安門事件で弾圧された1989年の中国民主化運動に参加したため投獄され、釈放後に台湾へ逃亡。その後、米国に渡った。こうした経歴の持ち主が中国のスパイとして捕まったことから、関係者の間で衝撃が広がった。
中国系米国人のスパイ事件としては、昨年3月にも在米の歴史学者シュージュン・ワン容疑者がひそかに中国国家安全省に協力していたとして逮捕・訴追されており、今年8月6日に有罪の評決を受けた。最も重い刑の場合、禁錮25年となる。
また、東南アジアでは9月初め、中国スパイ疑惑のあるフィリピンの前バンバン市長が逃亡先のインドネシアで拘束され、フィリピンに強制送還されてから収賄などの疑いで逮捕された。
ドイツでも4月に中国スパイ事件が続発した。逮捕者は、軍事利用が可能な技術を中国へ流出させたとされる3人のグループと極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属する欧州議会議員のスタッフ1人。後者は中国出身で、ドイツ在住の中国民主活動家や欧州議会に関する情報を中国側に伝えていたとされる。有力政党議員の事務所が浸透されていたのであるから、深刻な事件だ。
どの国の情報機関も国外で何らかの秘密活動をしていると思われるが、特定の国のスパイが短期間にこのように続けて摘発されるのは珍しい。
■対外交流より安保優先
中国国家安全省は、2022年から3期目に入った習政権で影響力をさらに増した。治安関係機関を統括する共産党中央政法委員会のトップ(書記)は、警察を管轄する公安相経験者が務めてきたが、3期目の習政権では陳文清国家安全相が就任。陳氏は同時に国家安全相経験者として初めて党指導部の政治局入りした。
陳氏は国家安全相時代、政法委の上部機関である党中央国家安全委の弁公室副主任(事務局次長)を兼務した。国家安全委の主席は習近平国家主席(党総書記)である。
国家安全委は習政権で新設された安保政策の決定・調整機関。現指導部は習主席のほか、李強首相、全国人民代表大会(全人代=国会)の趙楽際常務委員長、党中央書記局の蔡奇筆頭書記の3人が副主席を務める。3人はいずれも党最高幹部の政治局常務委員(7人)で、序列はそれぞれ、2位、3位、5位。
蔡書記は副主席の中で序列が最低ながら、党幹事長に当たるポストにある上、党中枢の事務を取り仕切って総書記を直接支える中央弁公庁主任も兼任しており、党指導部内の実力はナンバー2。国家安全委弁公室副主任の経験があることから国家安全委副主席も兼ね、安保政策で大きな発言力を持つとみられる。
一方、経済政策を執行する首相は李強氏の就任後、ますます権限が縮小している。別に李氏が虐げられているわけではなく、習政権の方針として、党中央の政府に対する優位がより明確化されているからだ。国会議長に相当する全人代委員長はもともと儀礼的ポストでしかない。
国家安全省の「活躍」も度が過ぎると、改革・開放政策の推進に必要な対外交流にマイナスとなる。しかし、習政権はあくまで安保優先。外務省や商務省ではなく、国家安全省や人民解放軍、海警の行動が政権の本音を表していると見るべきだろう(2024年9月8日)