非主流「汪洋派」の重用目立つ─来年の党大会に影響する地方首脳人事

 中国共産党・政府で地方首脳の人事異動があり、全体の約3分の1に当たる9人の省レベル党委員会書記などが交代した。地方トップは党政治局入りする可能性があることから、今回の異動は来年後半の第20回党大会で決まる次期中央指導部人事に影響する。意外なことに、政権主流の習近平国家主席(党総書記)派ではなく、共産主義青年団(共青団)出身の非主流派で国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)主席を務める汪洋氏に近い幹部が昇進するケースが多く、「汪洋派」が形成されつつあるかのようだ。
■習派昇格1人だけ
 中国の官僚の主な出世コースは地方だ。北京の中央官庁にずっと勤務していると、閣僚級より上の党中央・国家指導者になるのは難しい。中国の閣僚は事務レベルの高官にすぎない。
 政権の最高幹部である党政治局常務委員7人のうち、習氏を含む6人は省レベルの地方(省・自治区・直轄市)で党委書記を経験している。省党委書記は省長(省党委の筆頭副書記を兼任)から選ばれることが多い(自治区主席と直轄市の市長は省長と同格で閣僚級)。このため、地方首脳人事は政権内の力関係を示し、将来の中央指導部人事を予想する指標として注目を集める。
 中国共産党は9月30日に安徽、山東両省の党委書記、10月19日に黒竜江、江蘇、江西、湖南、雲南の5省と広西チワン族、チベット両自治区の党委書記交代を発表した。これに伴い、一部の省長なども代わった。
 習氏は11月8~11日に開いた第19期党中央委員会第6回総会(6中総会)で自らの権威を高める40年ぶりの歴史決議を採択するなど、第20回党大会で慣例を破って総書記3期目に入る準備を進めているが、一連の異動で昇格した地方首脳の中に、習氏の人脈に連なることがはっきりしている幹部は1人しかなかった。
 浙江省長から安徽省党委書記に就任した鄭柵潔氏は、かつて福建省長を務めた習氏の側近として知られる国家発展改革委の何立峰主任(閣僚)が同省アモイ市党委書記だった頃の部下で、習派とみてよいだろう。
 だが、その一方で、習派の中核を成す「之江新軍」(浙江省人脈)の1人で江西省党委書記だった劉奇氏は閣僚級定年の65歳まであと1年あるにもかかわらず、全国人民代表大会(全人代=国会)の閑職に転任させられ、政治の第一線から退いた。
■昔の部下4人昇進
 今回の昇進者で目立ったのは、序列4位の政治局常務委員である汪洋政協主席と縁のある幹部。汪氏は胡錦濤前国家主席や李克強首相と同じく共青団出身ながら、胡氏らのように団中央の要職を務めたことはなく、団の地方幹部だったため、「団派」のカラーはあまり濃くない。保守的な習氏とは対照的な積極改革派で、豪腕タイプの政治家といわれる。
 汪氏との関係が最も深いと思われるのは、河北省長から黒竜江省党委書記に転じた許勤氏。汪氏は約20年前に国家発展計画委(現在の国家発展改革委)の副主任(次官)を務めたが、許氏はその頃の部下だった。
 2007年に改革・開放を牽引する広東省の党委書記に就任した汪氏は、国家発展改革委の局長になっていた許氏を代表的な経済特区である同省深圳市の副市長として呼び寄せ、許氏はその後、市長、市党委書記と昇進。17年には習氏肝煎りの雄安新区を抱える河北省の省長に起用されており、習氏の評価も高いとみられる。
 新しい広西自治区党委書記の劉寧氏(前遼寧省長)と江西省長代理の葉建春氏(今年2月から同省党委副書記)はいずれも水利省出身。汪氏が副首相時代(13~18年)に担当した国務院(内閣)の洪水・干ばつ対策本部で、劉氏(当時水利次官)は組織運営を担う秘書長として汪氏を支えた。
 葉氏は水利省で05年から10年以上も地方ポストの太湖流域管理局長に塩漬けにされていたが、汪氏が副首相として同省を管轄するようになると、16年に本省へ戻され、財務局長、次官を歴任。劉氏と同様、洪水・干ばつ対策本部の秘書長も兼ねた。2人とも汪副首相の側近だったと言える。
 江蘇省の省長から省党委書記に昇格した呉政隆氏は、汪氏が重慶市党委書記だった時期(05~07年)の部下だった。汪氏の重慶勤務は短かったが、呉氏はその間に万州区の区長から区党委書記に昇進するとともに、同市党委の指導部に当たる常務委入りを果たした。ハイペースの出世であり、汪書記の引きがあったと思われる。
 以上の4人はいずれも団派ではなく、汪氏個人の人脈に連なっている。
■習主席が李首相牽制?
 総書記以外の政治局常務委員に近い幹部がこのように一斉に地位を上げるのは珍しい。汪氏は経済政策の基本方針を話し合う党中央財経委の委員ではないが、習氏が主宰した8月の中央財経委会議に初めて委員と同等の身分で出席するなど存在感が増しており、次期首相説も出ている。幹部人事に対する発言権が大きくなってもおかしくはない。
 一方、団派の現役筆頭格で汪氏より格上(政治局常務委で序列2位)の李首相は、一連の地方人事で影が薄かった。習氏が李氏の影響力を抑えるために汪氏を利用しているのか、それとも、汪氏が非主流派として自力で台頭しているのかは分からないが、いずれにせよ、最高幹部の力関係の変化は次期中央指導部人事に反映されるだろう。
 地方首脳人事に関しては、香港の有力紙・明報が11月5日、消息筋の話として、6中総会以後に李強上海市党委書記と李希広東省党委書記が北京に転出し、前者の後任には重慶市党委の陳敏爾書記が充てられると報じた。
 この3人は党中央指導部を構成する政治局員で習派の大幹部。上海市党委書記は政治局員のポストなので、明報の報道が事実とすれば、一時は習氏の後継者説もあった陳氏は来年、政治局常務委員に昇進することができない。
 また、明報は李強と李希の両氏について「北京に行く」との情報を伝えただけで、政治局常務委入りの可能性には触れなかった。習派を主な情報源としているとみられるメディアとしては慎重過ぎるという印象を与える報道だ。。
 ただ、2人のどちらが副首相に就任した場合、李首相の後を継ぎ、常務委員に昇格する可能性が大きい。異動先が北京市党委書記であれば、横滑りで政治局員にとどまることになる。(2021年11月15日)

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