(つづき)
父のコルト・ガバメント以前に、わが家にあった銃は、私のおもちゃのピストル——それはブリキやプラスチック製が多かったが、比較的軽い合金製(たぶんアンチモニー)のモデルガン的なものもあった——ばかりだったが、実銃に近い存在として空気銃が1丁あった。
空気銃は、どこの家にもある物ではなかったが、それほど珍しいものでもなく、比較的ポピュラーだった気がする。
たぶん、戦後の食糧難の時期、空気銃で鳥や小動物を狩猟して、貴重なたんぱく源としたのではないだろうか。ただし、私は、父が狩猟に成功したところを見たことがないし、獲物を食べたこともない。ただ、1回だけ実演してみせてくれたことがあった気がする。
瓦屋根の鬼瓦がある位置にスズメがとまっているのを狙って撃ったが、弾は足下の瓦に当たって、スズメは飛んでいってしまった。
まぁ、父の腕が悪いのか、空気銃の精度などその程度のものだったのか…。
その銃は、ピストルのような短銃ではなく、全長70~80cmくらいのライフル型で、太さ約1cm長さ40~50cmくらいの細長い銃身を備えていた。銃身が長いので、命中精度は高かったと思うが、スズメのような小さい標的を捉えるのはやはりむずかしかったのかもしれない。
構造としては、中折れ式で、銃身と銃床を左右それぞれの手に持って、エイヤと中間で折り曲げると、空気が圧縮されて充填される仕組み。それが、子供心にもいちばんガッカリな点だった。なぜなら、それは、私の持っていたブリキのピストルとまったく同じ仕組みだったからだ。
異なる点は、本物の空気銃は、直径4~5mmくらいの鉛の弾を20~30m飛ばすのに対し、私のピストルはコルク栓を2~3m飛ばすだけということだった
鉛の弾は、ボールベアリングのような丸いものではなく、極小のすげ笠のような尖った上部とその下にスカートのような空洞の部分がついていて、表面に筋が彫り込まれているような複雑な形状をしていた。たぶん、それによって、直進性や回転を与える効果があるのだろう。
もうひとつガッカリした点は、弾が先込め式だった点である。それって、銃口にコルク栓を詰めるのと同じじゃん、と思ったことを覚えている。
小さな鉛の弾を前・後ろに気をつけて、銃口から銃身の中にすべり込ませる。
銃床(グリップに相当する部位)は、樫の木のような堅木製で、重みがあって、重厚なじつにいい色をしていた。私がこの空気銃でいちばん気に入っていた部分である。おもちゃとはぜんぜんちがう、本物ならではの風格があった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?