システム開発会社が「DX」できない理由
先日訪問先の企業で「DXとは何でしょうか?」と質問をいただきました。ご質問されたご担当者の方はITに明るいわけではないので、改めて「DX」という言葉が浸透してきたことを感じました。
一方、システム開発会社が「今こそDXです!」といった宣伝文句を使うことに対してモヤモヤ感を抱いていました。
そのモヤモヤを少し整理してみます。
結論から言うと、こんな整理ができました。
・新規事業の立ち上げ経験(0→1)がないと「DX」はできない
・システム開発会社に所属する多くのエンジニアは新規事業の立ち上げ経験がないので「DX」はできない
・エンジニアが対応できるのは業務のデジタル化
・DXまではできなくても、デジタル化が進むので、宣伝文句としての「DX」は悪くないと思う
DXは誰ができるのか?
とても簡単に言うと、DXとは「ITを使ってビジネスモデルを変えて新しい価値を提供すること」だと捉えています。
具体例をあげます。
いずれも実際にあった事例です。
(1)訪問形式の家庭教師を行っていた会社が、スマホで見れる教育動画サービスを提供した
訪問(オフライン)からWeb(オンライン)へ変わることで、家庭教師の先生が稼働しなくてもサービス提供できるようになりました。人の稼働に依存するビジネスモデルを変えた、ということですね。
また、家庭教師の先生の人数や訪問できる場所の制約がなくなり、不特定多数の全国にいる生徒へ教えることができるので、新しい価値を提供しています。
(2)紙のポスティングを行っていた会社が、Web上でポスティングのシミュレーションから発注まで行うサービスを提供した
プッシュ型の対面営業から、プル型のWeb営業へ変わりました。ビジネスモデル自体が大きく変わったわけではありませんが、広告の効果をシミュレーションできるという新しい価値を生み出しています。
従来はポスティングしてみないと効果が分からない、という状態だったので、シミュレーションは発注者にとっては大きな価値です。
では、ITを活用しながらビジネスモデルを変えるためには、どのようなスキルが必要かというと、「最新のITスキル」「組織内での調整スキル」「新規事業の立ち上げスキル」の3つだと考えています。
この3つを兼ね備えた人が、DXへ取り組みできる人材と言えます。
◎最新のITスキル
手段としてITを使うので、最新の技術動向を含めて、ITスキルがないとITを活用できません。システム開発会社であればここは得意な分野です。
◎組織内での調整スキル
ビジネスモデルを変えるということは、今までとは違ったやり方をすることになります。そのため、従来の仕組みや組織(体制)も変えていく必要があります。
組織自体を変えること、組織に所属する人の意識を変えること、のどちらも必要になるわけですが、少なくとも関係部署と調整しながらキーマンを巻き込んでいく、といった調整スキルは必要だと思います。
厳密には違いますが、システム開発でいうプロジェクトマネジメントスキルと同じようなイメージです。システム開発会社においては、顧客との折衝やマネジメントをしている人であれば、持っているスキルです。
◎新規事業の立ち上げスキル
ビジネスモデルを変える=新しいビジネスを生み出す、ということなので、DXとは新規事業の立ち上げを行うようなものです。
すると、当たり前ですが、新規事業や新規サービスの立ち上げ経験がないと対応できません。
システム開発会社で新規事業の立ち上げ経験がある人はほぼいない
システム開発会社の中にいる人は新規事業の立ち上げ経験があるかというと、多くの人は「NO」だと思います。
実際、自分もSIerにいた頃は新規事業立ち上げなんてやったことがありませんでした。
(転職後のシステムコンサル会社でもやったことはなく、自分の場合は起業してから経験しましたが…)
ということは、システム開発会社がDXでビジネスモデルを変えていくのはスキルや経験からしてできないということになります。
ではシステム開発会社が宣伝している「DX」とは何かというと、単なるシステム導入や業務のデジタル化を指しています。
例えば以下のような例です。
・電子契約サービスを導入して紙の契約書をなくした
・Web会議ツールを導入してWeb上で営業できるようにした
・RPAという自動化ソフトウェアロボットを入れてシステムへの入力作業を自動化した
これらはビジネスモデルが変わっているわけではありません。つまり、DXではありません。
このように書くと、「システム開発会社は誇張表現をしてウソをついているのか!?」と思われるかもしれません。
(誇張表現は否定できませんが…)ウソをついているわけではないので、宣伝文句に「DX」を使うこと自体は、個人的には悪くないと思っています。
理由は2つあります。
宣伝文句に「DX」を使うシステム開発会社を許してください
1.DXはできなくても「デジタル化」は進むから
これまでシステム導入に消極的だった経営者でも、ここまでDXが叫ばれていると「どうやらDXしないとマズイらしい」という思いを抱く方もいらっしゃいます。
そういった企業へシステム導入が進み、業務がデジタル化されるのは良いことです。
なぜなら、業務をデジタル化すれば生産性が上がるからです。
今後人口が減少していくことは確定しているので、単純に考えて、労働人口も減少すれば社員採用は厳しくなります。少ない人で多くの仕事をこなすためには、単純作業を自動化したり、システムの力が必要です。
2.デジタル化の先にDXがある
そもそも紙と手作業の業務をしている企業が、いきなりDXというのは非現実的です。
DX実現までの道すじを立てることは前提ですが、まずは紙をなくしてデータで管理していき、そのデータを使って新しいビジネスを創出する流れになるかと思います。
すると、まずデジタル化することが最初のステップになります。
ただ、気をつけるべきは、「DX実現までの道すじを立てることは前提ですが」というところです。
先のことは考えずにシステム導入すれば、目先の業務効率化はできるかもしれませんが、その延長でDXが実現できるわけではありません。
なぜなら、業務効率化をすれば新規事業ができる、というわけではないからです。
結局、言葉の定義はどうでもいい
宣伝文句の「DX」には気をつけましょう、でも結果的にデジタル化が進むなら悪くないですよね、というお話しをさせていただきました。
いろいろ書きましたが、、、結局、言葉の定義自体は重要ではなく、素早く意思決定して、システム導入なり、新規事業への取り組みなりに向けて行動することが一番です。
つい先日、LayerXの福島さんの記事が公開されていましたが、まずは踏み出して行動することの重要性が書かれていました。
「たとえばSaaSを使うことが、DXの第一歩だと思います。」
「DXを本気で進めたいのなら、デジタルのスピード感覚に慣れ、デジタル的な感覚のビジネスリテラシーをもって意思決定し、トライ&エラーを繰り返し学習する組織や意思決定できる構造を、ちゃんと根付かせることのほうがよっぽど重要だと思います。」
さいごになりますが、DXとデジタル化を区別してシステム開発会社と付き合うと、良好な関係が築けるのではないかと思っています。
DXを提案する会社に対しては、
「貴社が対応できるのはデジタル化までですか?DXまでですか?」
「新規事業の立ち上げ経験はありますか?」
と質問してみると良いと思います。
もちろんデジタル化できることも非常に重要なので、まずはシステム開発会社と共にデジタル化を推進する、ということも有効な一手だと思います。