【本編 ep3】家を飛び出した日(前編)
色んなことが積み重なり、
自分でも気付かないうちにいっぱいいっぱいになっていた私
いつものように仕事を片付け帰路に着く
正直この頃は仕事もいまいちだった
仕事でも家でも神経をすり減らしていた気がする
仕事が終わったのは嬉しい
だけど家に帰ると思うと途端に足取りが重くなる
駅のトイレにいってみたり、
コンビニ寄ってみたり、
ちょっとだけ遠回りをしてみたり、
そんなことをしても家には着いてしまう。
ドアノブに手をかけたまま、一度深く息を吐く。
気持ちを奮い立たせるように小さな声で(よしっ)と呟き、玄関のドアを開けた。
瞬時に違和感に気付き、
理解し、頭が真っ白になった
間髪入れずに頭の中をものすごい勢いで記憶が巡る
同時に全身の血が頭にのぼる
これが順番に起きたというより、
同時に起こったようなそんな感じだったと思う
そして、そっとドアを閉めてエレベーターに乗った。
パニックなのか、冷静なのか、
よくわからない状態のまま外に出た
とりあえず土手に向かう私
何で土手だったのか今でもわからない
土手に着くと真っ暗で人気もなかった
冬の夜の土手沿いは冷たい風が吹いていた
意外にも寒さは感じた
じっとしてると凍えそうな気がして
あてもなく歩き始める
スーツに革靴、一応コートは着ていたが寒い
足も痛くなってきて縁石に腰を下ろす
お尻から腰、そして全身が一気に冷える
凍えそうな気がして、また歩き始める
こんなことを繰り返しているうちにだいぶ落ち着いてきた
それでもどこかソワソワと、言いようのない不安に付きまとわれている感じがした。
そこで何を思ったのか、
私はコンビニに向かい歩き始めた。
理由はタバコを買うためだ。
当時私はタバコを吸ったことがなかった。
若気の至りで一口だけというのはよくある話だが、それすらなかった。
コンビニに着くとレジ裏のタバコたちに目をやる
居酒屋でバイトしているときや、
会社の人に頼まれて買ったことはあったが、
味なんてわからない
とりあえず知っている銘柄を探す
レジ前でウロウロしていると店員に声をかけられた
慌てて適当な番号をいってお金を払い、
逃げるようにコンビニを後にした
ライターがないと吸えないとわかり
引き返したのは思い出すと情け無い
また土手にいき、タバコに火をつける
幼い頃、一人でロウソクに火をつけて遊んでいた時と似たような背徳感を感じた
タバコを口に運び、勢いよく吸い込む
当然むせるわけだが、当時の私は全力で吸い込んだ
真冬の夜の真っ暗な土手で
このまま死ねるのではと思うほどむせた後
イライラが込み上げてきた
買ったばかりのタバコを力一杯握りつぶし
駅へと向かった
後編へ
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