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母になった友達は、毎日が修行だよ、と言った。

友達の家のリビングでのんびりしていると、
我が子を抱っこしながら、
友達はそう言った。

彼女と初めて会ったのは約十年前。
バイト先の同期だった。
大学生になり、初めてのバイトに
不安を抱きながら
向かうとそこに彼女がいた。
一目見て、多分この子とは仲良く
なれなさそうだな、と思った。
先入観というか決めつけというか、
そんな所である。
巻き髪にしっかり化粧をした彼女、
私とは見た目がもはや反対だったからだ。
系統が違った。
だが、少しずつ仲良くなり、
今も連絡をとっている。
当時はまさかそんな長い仲になるなんて
思ってもみなかった。

それから月日は流れ、
彼女は結婚して出産をした。
学生時代から知っている彼女が
誰かの妻になり、母となる。
少し不思議な気分だった。


その友達が偶然にも
近所に引っ越してきたので
家に遊びに行くことになった。
我が家からは徒歩10分。
なかなか良い距離だ。

そして先ほどの言葉を
彼女はぽつりと言ったのだった。

ただ、修行と言っても、
それは子育てのことをさしてはいない。
旦那さんのことなのである。
予想外だった。
子育てではなく、旦那さんなんだ、と。

旦那さんとは大学の時から付き合っていて
それこそ十年くらい出会ってから
経っていると思う。
それでもまだ、彼女は修行の身なのかと
驚いた。
十年以上かかる修行。長い。


赤の他人と結婚して家族になる。

全く違う環境で育った人間が、
同じ屋根の下で暮らす。
自分とは違う習慣をどこまで
許容できるのか、
できるというかしていくしかない。

修行だね、そう言った。

こざっぱりした顔をしていた。
諦めきったわけでもなく、
でも全てを理解してもはや一周したような、
悟ったようななんとも言えない表情を
していた。
なんだかかっこいいな、と思った。

価値観のすり合わせ、なら
聞いたことがある。
修行は初耳だった。
そうなのかあ修行の最中なんだ、と
独身の私は思った。

先を読んで(旦那さんが)色々やってくれたら
助かるのにね、と育児のことをさしながら
私は言った。

また彼女は言った。

相手に求めちゃだめなんだよ。
これは修行。

なるほど。
どこまでいっても修行らしい。

相手に求めて期待すると、
それが叶わなかった時に良くない感情が
生まれる。それはわかる。
だから私もなるべく期待しないように
している、色んなことに対して。

だからさ、正直家に自分しかいない時の方が
楽なんだよね、と彼女は言った。
ほう、と思った。
それもまた、初めて聞く意見だった。

自分しかいなければ、
自分がやるしかないからだ。
旦那さんがいると、行動に対して
感情が生まれる。手伝ってくれないことに
イライラしたり、といったような。

なんだか子どもが二人いるみたいだなあと
話を聞きながら思った。
もちろんそんなことは実際ないのだが。

彼女の話を聞きながら、
私は人生で修行なんて
したことがないなと思った。
自分がこれまでしてきた経験の中で
これは修行だ、そう感じることは
一度もなかった。

勿論、大変であったり
辛かったり苦しかったり、
そういった経験はある。
だがそれらが修行かと聞かれたら、
違う気がする。しっくりこないのだ。

修行か、と思う。
好きな人と結婚し、
共に生きていくことが修行。
私の中で好きな人と共に生きることは
幸せなことだと想像している。

私は本当に短期間しかそういう経験を
したことがないから
彼女が修行だと言う理由が
あまり分からない。
その期間わずか一カ月。
嘘でもなんでもなく、その一カ月ストレスが溜まることは幸運にもなかった。
期間の短さか、相性が良かったのか、
なぜなのかは分からない。
だから、修行までではないんじゃない、と
思ってしまう。

十年経っても終わらない修行。
つまり、半永久的なのだ。
一緒に生きていく限りずっと。

修行と聞くと辛そうなイメージがある。
別に彼女の様子からして、そういった意味で
言っているわけでもなさそうだったが。
まあでも色々な意味を込めての
総評としての表現が
修行という言葉なのだろう。


将来、結婚するかは分からない。
結婚願望があるか聞かれると、
いつも私は返答に少し困るのだ。

結婚そのものをしたいというよりも、
自分が結婚したいと思えるような相手と
出会えたとしたら
結婚したい、と思うからだ。
両者は似ているようで少し違う。

結婚がもし修行なのだとしたら
好きな人と一緒にいられるとしても、
あまりしたくないような気もしてしまう。
実際どうなのかは結婚をするまで
分からないわけだが
友達が教えてくれたその言葉を
頭の片隅に置いておこうと思う。

もしかしたら、彼女のその言葉が
何かの助けになるかもしれない。

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