精神疾患の利用者が多い、埼玉さやまチームで日常的に行うWRAPについて
ウィル訪問看護ステーションでは各チームの地域ごとのニーズにより利用者の年齢や疾患属性が異なっています。
ウィル訪問看護ステーション埼玉さやまチームでは精神科経験のあるスタッフが多いからか、精神科の利用者が多いという特徴もあり、WRAPという手法を訪問看護の中に取り入れています。そこで今回はWRAPについてご紹介したいと思います。
1、WRAPとは?
「WRAP(ラップ)」とはWellness(元気)、Recovery(回復)、Action(行動)、Plan(プラン)の頭文字をとったプログラムのことで、日本語では「元気回復行動プラン」と言うこともあります。
これだけではあまりピンとこないと思いますが、「自分のトリセツ」と言い換えてみたり、ひと昔前に流行った「プロフ帳」のようなものだと思っていただければイメージしやすいと思います。
それを見たらその人のことが分かるもの。他者と関係する社会の中でそれがあったら関係性をステップアップするモノ、生きていくうえで必須なモノでもあります。
ここで言う「元気」とは「エネルギーのような」ものではなく「いい感じの自分」のことで”自分が自分らしく居られるとき”のことを指します。この「いい感じの自分」でいることを可視化したものがWRAPでその要素は可視化していないだけで我々が日頃から使っているものです。もし、いい感じの自分を失った時や調子を崩した時に回復するために「元気に役立つ道具」を使い意識的にWRAPを使うことで「いい感じの自分」に効果的に立ち戻るのです。
2、なぜ、WRAPが支援者・利用者双方に大切か?ウィルでの実践
WRAPは訪問時に利用者さんと一緒に作っていきます。共に作るプロセスの中で支援者自身も自分のことを開示したり、利用者さんの新たな側面を知り信頼関係が構築されていきます。
埼玉さやまチームでは精神疾患や障害を持っている方をケアすることが多いのですが、精神疾患や障害をお持ちの方は対人のコミュニケーションに苦労を覚えることが多いと思います。家族や世間から特異な目で見られ続けた経験から他者に対して警戒したり関係構築を諦めている方が多かったりします。
そのような前提で支援者として関わっていくにあたって「信頼関係」の構築は最重要といってもよいでしょう。ただし、みなさんがご存知の通り信頼関係を構築することは簡単なことではありません。「先生の指示だから」「医療者だから」となんとなく訪問看護を受け入れてくれた利用者さんへ、WRAPのプロセスを使いながら関ることで、それを実現していきます。「現在自分がどんな状態にいるか」を一緒に確認したり、「いい感じの自分」を保つには?あるいはそこに戻していくために「具体的に何をしていくか」が見えてきます。それは利用者さん自身が自分を取り戻す作業の一つになります。
また利用者ー支援者等の関係だけでなく、チーム内のスタッフ同士でもその利用者さんの共通言語として伝えることが可能になり、利用者さんが調子の良いときも悪い時も、認識の違いを減らし個別性が高くともズレの少ないケアを展開し続けることが可能になります。
3、例えば私自身にWRAPを用いてみると?
例えば、極端に寝ていない日が続いて吹き出物ができる、あるいは目がピクピクしてくると「あ、”いい感じの自分”から離れてきているな」と私自身が気づきます。それに気づくとちょっと「意識的に睡眠確保しないとな〜」と行動をします。
この一連の流れが、私の「いい感じから離れている状態」→「いい感じに戻すために行動する」プランになります。
また私のWRAPはチームの中にも共有されています。いい感じから離れた私は周りのスタッフに対して「なんでもかんでもやってくれると思うなよ〜?」という思考になり気持ちがピリピリしてきます。そこで、私のWRAPを知っている周りの人は、それらの”サイン”を理解しているので「寝てますか?」と聞いてくれたり、仕事を調整することを提案してくれたり、チョコパイ(私の元気に役立つ道具の一つ)を差し入れてくれたりと、とても個別性の高く適切な支援をしてくれます。このつかず離れずの支援を対象者である本人と可視化・共有されているからこそ、自然で個別的で、でもクリティカルな支援が可能になります。
でもこれって決して特別なことではありませんよね?WRAPは自分のことを知る、知ってもらうためのツールとして欠かせないものでもあると思います。今回は精神科のケアにおいての話を前提にしましたが、それに限らず小児や高齢者など「人」である限り誰にでも使える手法であるというのも利点です。チームのスタッフ同士でもそれは同じことで、自分の状態を伝えたり、得意や苦手を知り共通認識をしチームのマネジメントにも有用でしょう。
4、使ってみたいとき、どうやって取り組めばいいか?
WRAPを取り入れる方法は様々ですが、まずは体験してみることが一番だと思います。
本を読む、WEBで情報収集することもできますが、全国的にWRAPのサポートを行う団体があります。この団体ではグループワークなどを通して体験ができるのですが、その都度のファシリテーターやメンバーによって違いが出るため、複数回参加することも毎回発見がありWRAPという共通言語で多くの人と繋がりが持てるためおススメです。なお、WRAPのファシリテーターには技術も必要ですが、ウィル訪問看護ステーション埼玉さやまチームには、私(荻野:看護師)も含めファシリテーターが在籍しておりますので、体験してみたい、話を聞いてみたいという方はお気軽にお問い合わせください。
またウィル訪問看護ステーションで用いる記録システム「ウィルクラウド」では「WRAP」をタブレットやスマホを通して利用者やスタッフ間での共有が容易にできます。
ウィル訪問看護ステーションでは「全ての人に家に帰る選択肢を」理念に様々な利用者に対し24時間365日の訪問看護を提供しています。
今回のWRAPなどを用い、埼玉さやまチームでも多様な健康課題を抱える利用者に対し「知恵や知見をシェア」していくことで精神科や訪問看護未経験の方でも安心して看護に取り組める環境を構築しております。
随時見学や相談等を受けつけていますので是非お気軽にご連絡ください。
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