台風10

台風19号の振り返り

昨年あった2019年10月中旬に大型の台風の上陸は記憶に新しいと思います。ウィル訪問看護ステーションとしては初めての災害対応(結果的にはほぼ被害はありませんでしたが)を行ったため、後学のためにもその時のアクションを取りまとめ、うまくいったことや課題について共有しておきたいと思います。※代表岩本のFacebook投稿内容から記事取りまとめをしています。

私たちが行ったことは、準備→当日→次の日の対応と大きく3段階に分けられました。それぞれのアクションをまとめてみました。

【準備段階】~台風の上陸が分かってから~

台風上陸がほぼ確実になった段階で、

・台風当日の訪問予定の利用者へ連絡し訪問が難しいことが予想されるため、物理的にケアがないと生活が成り立たない方以外について振替やキャンセルのご相談をスタッフで手分けして行いました。利用者とは契約時点で台風や大雪などの天災や社会情勢変化などで訪問が困難な場合にキャンセルなどご相談することがあり得ると契約書にも明記して説明と同意を得ているので、基本的にトラブルになることはありませんでした。むしろ事前に利用者やご家族から電話をもらい「危ないから来なくていいからねー!」と連絡をもらうことも多くありました。

・最低限の訪問に切り替えた後、必要スタッフ数を絞り込み当日の看護師はほとんど自宅待機になるよう調整しました。また当日訪問も上陸予定となる時間より前に全て終えられるように時間調整を図りました。またその日に出勤する看護師は基本的に事業所の近隣に住んでいる者に絞りました。既にいくつかの鉄道会社は運休を発表していたこともあり、電車通勤や車通勤の看護師は物理的に出勤が不可能であることを見込んでの対応でした。

・上記と並行して、呼吸器や在宅酸素等のある利用者・家族と災害準備の再確認のための電話をスタッフで手分けして行いました。主な内容は発電機の有無、酸素ボンベが12時間以上持つ本数があるか、最寄りの電源設備の確認、事前避難が必要ならその促し、必要な場合のバックベッドの確認(避難が必要な場合、病院やクリニックにも連絡して確認)などを行いました。また家が風で倒壊するかも?あるいは川沿いで浸水するかも?な方にはご本人と相談しながら避難場所の事前確保をケアマネージャーなどと手配を考えたりと行いました。酸素ボンベが足りない方には酸素屋へ電話し配達を依頼しました。電源等については、人工呼吸器を常時使用する方について災害時個別支援計画に則り準備を、個別支援計画対象外の呼吸器利用の方などは東京電力など電力会社に貸与の確認を案内しました(事前登録をしておくと利用できる場合があります)

・自分たちの事務所の準備について、事務所は地下なので1階に土嚢も積んで浸水対策を行ったり、自転車をロープで括って繋げ横に倒しておいたり行いました。

【当日】~朝から避難勧告発令~

ウィル訪問看護ステーションは江戸川区と江東区に拠点がありますが江戸川にある新中川が氾濫の可能性が高まり、朝8:00頃より避難勧告が発令されました。

・スタッフ自身の安否確認とスタッフの家族に支援が必要となっていないかを、社内SNSで確認しました。

・自宅待機で作業が可能なスタッフに呼びかけて、江戸川区、江東区、葛飾区等の避難勧告の情報を集約しリアルタイムで共有を開始しました。

・同時に、スプレッドシート(Googleの提供するサービスで、WEB上Excelみたいなもの。ネット上でリアルタイムに共有しながら編集ができるもの)に利用者を一覧に並べ、避難勧告がでたエリアの利用者を色分けを行いました。そして自宅待機しているスタッフたちが遠隔でこのシートにアクセスしながら、該当エリアの利用者に自宅待機しているスタッフが遠隔順次避難状況確認と促しの電話を行いました。避難先はGoogleMAPにマッピングを行い、電話で必要な場合に避難先も誘導しました。

・その中で直接支援が必要(避難所に行きたいが一人ではいけない、息子の家に避難したいが高齢二人暮らしのため移動を手伝ってほしい等)な方を集約し、できるだけ二人一組の看護師にて支援を行いました。また移動は基本的に車を使用しました。東京都内では車を持っているステーションも少ないと思いますが、タイムズカーシェアがこの時には役立ちました。

・それらが全て終わり、本格的な上陸を目前に控えて、避難勧告が出ている地域のスタッフもそれぞれ避難所へ避難を行いました。この時に水や食料などは事業所に備蓄しているものを中心に持って行きました。またポータブルの外部バッテリーも持って行きました。

・利用者については事前に連絡がついていたので、改めて緊急電話などが鳴ることはほとんどありませんでした。1-2件だけ台風が上陸してから「避難したい」と電話がありましたが、上陸後は出ていくより家にいるほうが安全であることを伝えました。主に精神疾患の方が中心だったので電話対応をすることで落ち着かれました。

※写真は避難所にて。江戸川区はペットと一緒に避難できる避難所がいくつかありました。

【翌日】~過ぎ去ったあとの支援や確認~

避難所で一夜を過ごして、朝から活動を開始しました。

・スタッフ各自の安否確認と実家などが被災していないか/支援が必要でないかの確認を社内SNSで行いました。
・自宅待機のスタッフを中心に午前中は全ての利用者へ、安否確認の電話を行いました。またその際に何か困りごとないかを確認しました。
・災害時個別支援計画が立ってる方々の各連携先へFAXなどで経過と安否確認の結果を報告しました。
・また、保健師がついている方には、保健師さんたちへのとりまとめた情報を共有しました。主には医療機器を使用している方の情報が欲しいというニーズが高かったことが分かりました。
・安否確認を順次進める中で、支援が必要な方を把握し、現地スタッフで手分けして支援に回りました。例えば、昨日に息子宅へ避難支援した方が今度は自宅へ戻るための移動支援、通常であれば浣腸を行う予定の日が避難をしたことでタイミングがずれ、排便に困っている方の訪問、家の2階に避難していたが降りようとしたら階段から落ちてしまった方の対応などが重なりました。

~今後に活かすこと、見つけた課題~

ステーションで今回の対応についての振り返りを行い、以下に箇条書きにて共有します。
・自宅でもリストアタックが可能で、手分け作業はかなりスムーズだった
・事前の電話による準備確認、当日の状況確認、避難促しなどが利用者安心にかなり寄与した
・自転車横倒しとロープくくりはしておいてよかった
・車での移動がマストで良かった
・スタッフのガラケーは持って帰ってもらえた方がよかった。
・必要時は人手がやっぱり必要だった
・利用者リストは日頃から更新して用意があるほうがいい
・災害時個別支援計画は遠隔でも確認できるようデータとしてアップしておきたい。保健師からコピーが届いていない方が今回いたため計画立案されている方はきちんと把握すること
・停電が長引く場合は発電機のガソリン等利用できるものがあると便利
・避難勧告のエリアのみ絞って対応したが、それ以外でも医療機器使ってる人には当日確認連絡してもよかったのではないか。
・もし岩本が被災して死んだら場合に次点で司令塔になるかハッキリしていなかった
・計画的に訪問キャンセルした分を、他ステーション(連携して訪問している場合)へ共有が遅くなってしまった。
・避難所マップ化しておけるとスムーズに促せる。
・避難する際に利用者の必要物品リストが電子カルテにも入力があるとよい。
・電気止まったらGoogleなどの通信がその帯域では機能しないので、アナログでの準備も必要では。
・自分たちで移動して避難所誘導が困難な時もあると思うので、その時に使える資源と連絡系統を事前に知りたい。近隣の人、消防団等。
・利用者さん全体と事前に災害時の対応と意思の確認が必要だと思いました。それを電子カルテにも記載。連絡取れる時は今回のようにとれますが、とれない時は自己対処してもらう事もあると思うため。
・独居の方が不通の場合は、近隣に家族がいたらそちらに連絡してもいいかも。本人が難聴で、近隣に住む家族に電話したところ会いに行ってくれるケースもあった。
・身寄りなし独居の方の場合は近所に支援者がいるか、平時から確認しておいても良い。
・全体把握指揮する人(今回は岩本)はなるべく現場に出ず状況把握に努める。全体の指揮をとるために頼める出動は今回のように頼むでいいのかなと。
・スプレッドシートは一覧が随時更新されていくので良かったが端末がスマホだけだった場合は難しいかもしれない。
・大地震を想定すると、スタッフの安否だけでなく、その後の作業が出来る環境(PC・ネット・電力等)なのかどうか、現在地についても報告するようにできると良い。
・災害マニュアルはアクセスできるようPDFデータが用意されていたが、開こうとするとかなり重く、詳細に書かれてるからこれはこれで良いが簡略マニュアルがあると良い。
・指揮系統のリーダーは、電力、PC環境、電話等の通信環境が整っている人が担うのが良いと思う。(大規模地震やウィルグループの強みを活かすとすると、被災地以外の別拠点、例えばウィルで言うと沖縄などでもリーダーはできるのかもしれない。災害は現場の支援者も被災者であることを踏まえて。)

【考察】

今回の対応において、「安否確認優先順位と実際に支援が必要になる人の群のギャップ」がありました。

東京都訪問看護ステーション協会で配布している「地域ケアのための災害時対応マニュアル」のとおりに、安否確認優先順位群をまとめて対応確認していきましたが、

A 医療機器を使用していて重度要介護者、介護力の低い方
B 医療機器を使用している方
C 一人で判断できない状態にある精神障害や認知症、独居やそれに準ずる介護力の低い方
D 上記以外
※Aが最も優先度高

A、Bの方は事前の準備確認にて、避難経路や場所、電源の確認、酸素ボンベ補充などをしていて、また個別災害計画も立案されてる方も多くて当日の直接支援はほぼ発生しませんでした。
一方、Cの方が最も直接支援のニーズが高く、当日の避難所への移動や移乗、翌日のフォロー訪問などにリソースを最大割くことになりました。

予見できる台風だったことや、停電、浸水にまでは至らずに、連絡も携帯で取り合うことが続けられたことなども背景にあったことが考えられます。

もし予見の難しい震災などの突発的な災害であれば、ABCDの順で支援ニーズも高かったのかな、と思いますが、あくまでこれは安否確認の順であり、支援ニーズはまた別の順番になる可能性もあると理解しました。

また、上陸当日に避難勧告が出たエリアの方へ電話確認について行ったとき、利用者の全員が避難勧告は把握していても、「まだいいでしょ…?避難とか必要なの?ずっと住んでるど今まで大丈夫だったから平気じゃない?」と準備にとりかかってもいない方ばかりでした。電話をしたことで、「じゃあ準備だけでもするね!」「近くの避難所に行ってみる」と行動変容に繋がった方ばかりでした。

なお、エリア的に氾濫の危険が高まり強めに避難が呼びかけられていた川沿いに住む方々でもこの認識は同様で、私たちが電話することで被災者になっていることを自覚のきっかけになり、避難のための準備や気持ちの備えを促せたので、今後もこういう促しは有用である可能性が高いと思いました。

一方、人工呼吸器24時間利用している方などは事前準備や避難準備は充分に行っていたものの、マンションなどの場合、浸水するまでマンションに籠るか、早めに病院など避難できる場所に連れて行くか、ご両親も悩まれ電話でやりとりをすることが多くありました。高層階に居る分には直接の水の被害には合わないものの、もし大きな浸水が(高潮などもあり)あった場合は1-2週間避難区域に指定されてしまう可能性もあり、そうするとマンションなどから脱出が困難でその地域に閉じ込められてしまう懸念もあったためでした。急に避難したくても呼吸器がある方の移動は救急車などを呼ばないと移動が難しいこともあるため、今後はどのように判断をしていくか共通知識となるような目安の必要性も感じました。

万全ではありませんが、今回の台風における私たちの対応について皆さんとシェアすることで、「全ての人に言えに帰る選択肢を」増やすことに繋がると幸いです。


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