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従業員満足度に関する訪問看護ステーションにおける調査

 前回の記事では,患者・利用者満足度について報告をしました.今回は従業員満足度がテーマになります.繰り返しますが訪問看護の質を測るにあたり,医療の質で有名なドナベディアンモデルの「構造(ストラクチャー)」「過程(プロセス)」「結果(アウトカム)」のモデルのうち,「結果(アウトカム)」は,厚労省や病院評価機構などのWEBページから一般的に以下の3つが多く言及されていることが多いように思います.

① 患者・利用者満足度
② 従業員満足度
③ ケアの成果(病院で言えば死亡率や平均在院日数,褥瘡発生率など.ウィルではオマハシステムもここに入りますね)

 前回の記事では①患者・利用者満足度 についての結果を共有しましたが,今回は②従業員満足度に関する調査について共有したいと思います.

どんな指標が良いのか

 世の中にはさまざまな質問紙や評価指標があります.妥当性が検証されているものもあれば,民間が独自に取り組んでいるものもあり,最近ではSaaSとして頻繁にチェックができるWEBの仕組みなども増えているように思います.しかし定期的にとるなら看護系の業界でも使われていて妥当性があるものが良いように思います.しかしどんなものがよいか,現場からすればよく分からなくて難しいですよね.
 そこでウィル訪問看護ステーションでは東京医科歯科大学ヘルスサービスリサーチ看護学 森岡 典子先生にご協力をいただき,国際的に医療者などで使われており,国内でも看護系で利用される尺度を3つ使い始めました.

使ってみた指標・尺度

① UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント・スケール)

 一つ目は ワーク・エンゲージメントの測定に 最も広く国際的に活用されている尺度です。1-6 点の範囲で、得点が高い方がポジティブな結果 となります。医療系職種の平均スコアは3.46ですが、加齢又 は職位・職責の高まりに伴って、高まる傾向が みられます.
 なお,ワーク・エンゲ―ジメントは、バーンアウト (燃え尽き症候群)と対になる概念で、「仕事 から活力を得ていきいきとしている」(活 力)・「仕事に誇りとやりがいと感じている」 (熱意)・「仕事に熱心に取り組んでいる」 (没頭)から構成される概念になっています.
出典:Shimazu A. et al., An International Review.2008

② 日本語版バーンアウト・アセスメント尺度(Japanese Version of Burnout Assessment Tool, the BAT-J)

 二つ目は身体的・精神的な疲労により、燃え尽きてしまっている状態を評価する尺度で広く国際的に活用されています。 中核症状と二次症状の2つから構成されています。
【中核症状(Core symptoms:BAT-C)】 疲弊感(8項目:仕事をしているとき、精神的に疲れ果ててしまったと感じる) 精神的距離(5項目:仕事に対して強い嫌悪を感じる) 認知コントロールの不調(5項目:仕事をしているとき、集中力を保つのが難しい) 情緒コントロールの不調(5項目:仕事中に知らぬ間に、感情的な反応をしてしまう)
【二次症状(Secondary symptoms: BAT-S)】 心理的苦痛(5項目:なかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めてしまったりする) 心身の不調(5項目:動悸や胸の痛みに悩まされている)
 5件法(1=まったくない-5=いつもある)の各項目の平均得点となりますので、点数が高いほど燃 え尽きている状態と判断できます。
出典:Sakakibara K. et al.,Front. Psychol.2020

③ NPES-HHC:看護実践環境The Practice Environment Scale of the Nursing Work Index (PES-NWI)の訪問看護版

 三つ目は看護師を惹きつけるマグネットホスピタルの職場環境を測定する尺度です。1-4点の範囲で、 得点が高いほど、より魅力的な看護実践環境と評価されます。 今回の調査でウィルのマネジメント方針の特徴と整合性が取りづらいサブスケール1「管理者の力量」に関しては除外をしています.
出典:Ogata Y. et al., Nursing Open. 2021

調査の概要

アンケート実施期間 2023年2月2日~2月15日 (3ヶ月に1回を定期的に行います)
ウィルグループ内の法人のうち,当該調査を希望した法人のみを対象としました.回答者数は 4法人12事業所 85名 でした.(※ウィルに関連するウィル以外の事業所も1箇所対象に入っています)

結果

 仕事から活力や熱意を得ているか,というUWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント・スケール)の結果.

日本語版バーンアウト・アセスメント尺度の結果

マグネットホスピタルを測るためのNPES-HHC:看護実践環境The Practice Environment Scale of the Nursing Work Index (PES-NWI)の訪問看護版の結果

森岡先生からの総論評価

・ワーク・エンゲ―ジメント得点:医療職全体と比較して、高い(特に活力の得点が高い)
• 日本語版バーンアウト・アセスメント得点:一般労働者と比較して、全体的に低い(燃え尽き ていない状態)
・訪問看護実践環境得点:全体的にどの項目も総じて高い傾向(4点満点中3点以上)
以上から,仕事への態度や認知が高く、活動水準も高いという結果です。 仕事から活力を得ていきいきとしており、仕事に集中している状態です。また訪問看護実践環境が良いということ,特に多職種の良好な関係性や情報共有体制がしっかり構築出来ていることがわかります.

今後について

 今回はとても良い結果を得られたように思いますが,これを維持していくことが本質的には重要です.そして維持する・向上することのほうがきっと困難さがあるのだと思います.そのため一発だけ測定するよりも,継続して測定しモニタリングをしながら事業所ごとの変化をキャッチし就労環境の改善などに管理者や経営者が活用することが望ましく,それが利用者利益につながる行動だと考えます.ウィルでも定期的に調査を行いモニタリングを行なっていきたいと思います.

 お読み頂いた訪問看護ステーションの皆様も,従業員満足度調査など社内調査を何で実施するか,迷ったとときにはこの記事が参考になれば嬉しく思います.

 ウィル訪問看護ステーションでは,質の評価にも関心をもって日々の実践を行いたいと考えています.もし興味をもってくださる看護師やリハビリ職の方がいれば気軽に見学へお越しください.



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