《詩》who loves the sea
僕にはほんものの ラブソングがわかる
僕もほんもののラブソングが歌いたいと思う
目を閉じる。僕ははだしで、トラックの背に立って、世界が沈んでいくのを見守りながら、それでも僕に呼びかけ続けるものの方へ語りかける。うつくしき地平よ、カリブの海よ、僕と君をわかつジェンダーを、僕はこの時ほどに意識したことはない。超えるべき海峡は常に美しく、とても美しく僕にとって、生まれて初めて見る女性のりんかくのように艶めいて見えている。僕はちっぽけな少年だった。
あらゆるもののなるべくかたちはto become oneだった。
僕はそれを口に出して言ってみる。
To become oneはラブソングをうたう人にだけに聞こえる遠き国からの声だ
眠っていた少年のことを思って僕は、胸が熱くなった。
一つのものをたった一人で見据えることがなぜ怖いのだろうか。
一つのものを愛することを何故いつも自分はままならないのだろう
僕は、、
と僕はうたう。
僕にはまだ、地平よ、あなたが怖いのだった。
僕は押し流されるひとつのつぶてのようになる
うまれでた匂いは夏。夏、僕はいろいろな命が萌えて、それから一直線に死に向かうのを見てきた。
すべての感情、それから正義、何も求めない愛情の向かう先はみな同じ、死ぬことでしかないのだろうか。
僕は、きみをよく思い、嗅ぎとろうとする。僕は、僕でなくなるのだと思っていた。
けれど違う。僕にはもう、夏の終わりをいくつも経験したあとの手も足もあり、それからいくつもの大人の死を見据えてきた目も、伸びた髪も生えていた。僕は、地平に遭遇しても、そこに我が身を溶け込ませないでいた。僕は、その地平線を見つめつづけることで、自分の本当の姿を見つける事が出来たような気がしていた。
あらゆるラブソングは、to become oneだ
To become one、tobecome oneそれは
まやかしでも、なぐさめでも、嘘でもなく、心から何かを愛すること
、それから、愚かなこと
僕は、、
と僕はうたにする。
僕は君になりたい
僕はそう願う時、僕のからだはぎんいろのコンパスでもあった。それから母のにおいのする海みたいでもあった。僕は、鳥にでも、馬にでも、野良犬にでも、何かを愛し塗り潰すように成り代る。
世界と自己を隔てる海峡は、近付くほどに意味をそぎ落として、形の美しさと哀しみを歌うように思えた。
ああ、僕はなんて未熟なんだろう。僕はまた、圧倒されて自分を見失うのだった。
きみよ、海峡よ、遠く、近く、それはすぐそばにあり、僕自身をすぐに覆い尽くして食らってしまうのだろう。本当の純粋さは、受け渡すべき事実は一体どこにあるのだろう。
世界と切り離せない僕のこころは伸び縮みする海の波のように、まだどん欲で、僕はせめて、波に負けないようにきみを見失わないようにする。
僕の姿はまだ若い少年のようでもあった。それは、君をこころにうつしこんだ僕の姿だ。
使い込むほどに手に馴染む道具も、一日の終わりには絶対の別れが訪れる。生まれた時から知っていた自分の姿は、僕をいつもふさぎ込ませもしたし、また必要以上に驚かせもし、その存在を僕から忘れさせることなどなかった。けれど僕は、もうきっと、もっと、まつりの最中にいた人達のように、僕じしんに対して盲目になれるだろう。それは、君が視界に入ってきたからに他ならない。
僕のすることは、きっとこうだろう。僕はいつもきみを守ってやるんだと言って鼻をかく。それから美しさに囚われた人間みたいに、毎日花を送るようになる。僕はもう、いつも何の為にするのか分からない身づくろいを一生懸命にして、何かが始まるのをただただ待っている人間じゃなくなったのだ。
僕は本当を手にしなければなければならない。と強く強く思う。
僕はきっとそれをかたちにするだろう。
それから、言葉にするだろう。
僕は、僕は、そう思うとその気持ちは止めどなく湧いて出てきた。
事実、僕はまだ何も手にしていない。未来の僕の姿を、君を通してはっきり掴んだというだけ。
けれど、あんまり強く願うことはそれを手にしたことと同じ意味なんだと思った。僕はきっとそんなふうにして、君を思い、海を渡り、恐れを知らない愚かな荒波の中に飛び込み、それから本当の自分を手にするだろう