デジタル庁はどうやってコンプライアンス体制を確立しながら官民連携を進めるべきか。
但野さんからご指名でnoteを書くよう圧を受けましたので(苦笑)。
事案の概要
本件の詳細については各種報道を見ていただくとして、要約すれば「オリパラ訪日外国人向けの管理アプリの緊急発注で、なんか平井大臣や関係者のお手盛りがあったのではないか」という案件です。おまけとして、平井大臣のちょっとコンプライアンス意識低めな発言の録音が漏洩する、という事案がありました。
問題の要点
調査報告書は「途中でデジタル庁が移転したので資料がない」とか、デジタル・フォレンジックが行われたわけでもないので、やや食い足りない内容となっていますが、要約すると、取り上げられている問題は以下のとおりです。
1)仕様作成に受注当事者が関与することの是非
2)発注者の中に技術者がいた場合、当該技術者に最終的に利益が還元される可能性のある技術が採用されることの是非
3)緊急かつ難易度の高い技術開発において、緊急随契を行うことの是非(本件は結果的に総合評価方式が採用された)
4)仕様に関するセンシティブ情報の機密保持の如何
5)調達予定額の策定にあたって価格妥当性をどのように算出するか
いずれも致命的な問題はなかったと結論しつつ、デジタル庁の設置に向けて、より公務員意識やコンプライアンスを意識した制度を、デジタル庁独自に作っていくべきだ、という、なんとなくふわっとした結論が描かれています。
デジタル庁は「官民融合組織」
これまで、国や自治体のITシステム調達は「素人がプロ相手に翻弄される」あるいは「翻弄されないようにしようとした結果、むやみに書類仕事が増えて、巨大ITゼネコンにしかできない仕事になる」ことの連続でした。その対策として、発注者としてのプロ集団として、官民からかき集めた人材で、デジタル庁というPMOを国に置こう、というのが、基本的なコンセプトです。
一方、デジタル庁の設置によって期待される効果の一つに、ITに関する行政の重複投資の効率化があります。つまりそれは、「Winner takes all」が行政案件で発生する、ということも表裏一体で意味しています。
個人の意思、企業の思惑、様々な背景があると思いますが、実際に、デジタル庁には様々な民間組織から人材が集まっています。その中には、受注者になる企業からの人材もいるでしょうし、著名なソフトウェアの開発者、パテントホルダーもいるはずです。そんな中、どうやって「公平」かつ「合理的」かつ「イノベーティブ」なサービスを開発していくのか。難題です。
COVID-19はそのための試金石になるはずだった
世界各国でも、新型コロナという突発的な危機に対応するために、様々なデジタルサービスによる解決が試みられました。そのために、ハッカソン的な取組も様々に行われています。私が社外アドバイザーを務めるWiseVineでも、それらについてレポートを出していますので、ご参考までに。
とはいえ、ハッカソン的な取組は、統計情報のウェブサービスなどでは効果的に機能するものの、本件事案のように、機密性の高い個人情報・行政情報を取り扱ったり、国家的プロジェクトの期日にあわせた開発においては、大変運営が困難です。また、ハッカソン的な取組は「賞金」以外の対価を支払ったり、そのまま保守契約に持ち込むことが困難、という側面もあります。神戸市ではUrban Innovation Kobeというオープンイノベーションのプログラムからの成果物に対して随意契約をスムーズに行う制度を独自に(地方自治法の改正を伴わずに、解釈で執行可能な範囲で)行う取り組みを進めていますが、これもあくまでも「ベンチャー支援」という側面が強く、あらゆる重要公共案件について適用可能とは言い難いと思われます。
時間稼ぎが有効なケースもある
ちなみに、段々盛り上がってきそうな案件として、「ワクチンパスポートの電子化」という話題があります。日本では現在、コロナワクチンの接種証明(いわゆる「ワクチンパスポート」)は各市町村に「紙で発行してもらう」ことになっており、電子化されていませんが、各国ではデジタル証明書として流通させて、より円滑な社会活動の再開につなげよう、という思惑があります。
国によっては、日常生活でもこのパスポートの提示を求められるケースがあるようです。QRコードで読み取っている国もあれば、紙で見せている国もあります。その中で、EUの標準仕様をIATAが採用し、アプリにアップロードできるようにしたことで、航空業界では「これを標準にしてほしい」と、WTOに呼びかける流れがあるようです。
こういった「標準化」は、時間的経過によって混乱が収束し、「勝てる仕様」が見えてくることが多々あります。拙速にアプリを独自開発せず、紙で自治体に発行してもらいながらタイミングを見計らった日本は、わりと結果論としては賢かったのかもしれません。
とはいえわたしたちは、乗り越えていかなければならない
私が関わっているJX通信社も、WiseVineも、データインテリジェンスを基本的な武器として、行政組織を含む幅広い相手に、これまでになかった概念の知見や情報、AIによる解析結果を提供する企業です。AIに対して要求する仕様を仕様書に書く、他のビッグデータと自社のビッグデータの仕様上の違いを説明しなければならない、などといった、大変難儀なことを日々求められています。
しかし、正しいデータと、より確からしい解析結果がなければ、社会を正しい方向にナビゲートしていくことができません。その「確からしさ」を確認し、正しい調達を行っていただける方法を、きょうも、考え続けています。
JX通信社では、20億円の追加資金調達を経て、ほぼ全ポジションで、積極的に人材募集中です。ご関心お持ちの方は、ぜひご連絡ください。