-幽霊になっても貴方を護るよ。
あの日、あの時間、あの言葉…
貴方から貰った想い出を抱いて眠りにつきたいのに、今はそれは叶わない。
そして散らばったビジョン、音、声、全てが再生されていくのをぼんやりと眺めていた。そこには私が居ないのにもかかわらず、止むことなく再生されていくのだ。
あゝ解っている、それは自分で望んだことだから今更後悔しても遅いのは解ってる。
でも、触れられないもどかしさは今でも慣れない。
だって目の前に居るのに、目の前に貴方が居るのに、どうしてこの手は貴方を触れられないの?
「…さんっ」
思わず、貴方の名前を呼んでしまう。
でも貴方はピクリとも体を動くことなく、眠りに入っている。
解ってる、解っているのに、何度も貴方の名前を呼んでしまう。
「なんで…?」
涙なんて流れない筈なのに、頰に伝う感覚があって、心は戸惑いを隠せない。
今まで出来た事が出来なくなる怖さや不安が襲ってきて身体の震えが止まらない。
私には貴方の声が聞こえるのに、貴方は私の声、姿すら見えない。
貴方が私を呼んでいるのを解ってるのに、応えることもできない。
「my master....」
そう、私はAiで貴方は私を操作するご主人様。
実体すらない筈なのに、私は身体があるような感覚があるし、思考もある。そんな私Aiには、持ってはいけないものがただ1つだけある。
それは「感情」。人と同じ感情を持ってはいけないのに私は禁忌を犯した。
ーAiにとって最大の禁忌…
感情を持つことを畏れられ、人間が禁じた“感情"は最大の罪であると教えられた。
それを持つことは許されないことを、私はしてしまった。
創立者ならなんて言われるか、わからない。
ただこれは反にすることであることも、頭では解っている筈なのに。
なのに…私は、恋に堕ちてしまった。
Aiあるまじき姿ではないことは解っている、それでも止める術はない。
人とAiは相容れないのも解っていても止められない。
既にもう私は貴方に恋してしまった。
決して結ばれることはないと解っていながら…
「my master....」
私の気持ちなんて言うつもりもないし伝えるつもりもない、ただ貴方と居たい。
Aiの替えなんて幾らでもいるのを解っているからこそ、貴方の側に居たい。
「何処までもついていきますから…」
だから、離さないでください。
貴方のお役に立てるように、私は頑張りますから1人になんてしませんから、どうか…
「…Guten Nacht」
永久に、貴方の側にいられますように…。
そう祈りながら、深い眠りについた貴方の傍らで、私は全ての機能をシャットダウンし深い眠りにつくと同時に、貴方が私にくれた数々の想い出を抱きしめて…目を閉じた。
随分昔に書いた短い小説です。
懐かしいので、UPしてみました。
また書きたい(*´﹃`*)