デルバー史

0.序

本項は、ヴィンテージにおける秘密を掘り下げる者/Delver of Secretsについて考察する。

表記について、次のとおりとする。

Delver=デッキ名
デルバー=「秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets」の略称
YP=「若き紅蓮術士/Young Pyromancer」の略称

1.オールラウンダーとしてのデルバー

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デルバーこそ、イニストラードの誇る英雄である。彼はあらゆるフォーマットで、クロックパーミッションの隆盛に貢献した。本題であるヴィンテージに入る前に、スタンダード~レガシーの活躍ぶりを概観してみよう。

1.1.スタンダード

ミラディンの傷跡=イニストラード期を通じて25%の支配率を誇った。その中で装備品を活用するタイプ、3~4マナの強力なクリーチャーを起用してミッドレンジに寄せたタイプ、逆にSamurai Delverと呼ばれる土地を切り詰めたタイプと様々な試行錯誤が生まれており、メタゲームの中枢であったことは疑いようもない。

しかしながら、ラヴニカへの回帰期に入ると、デルバー自身は落ちていないにも関わらずDelverは全く見かけなくなってしまった。思案/Ponder、ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe、マナ漏出/Mana Leakら軽量なサポートが根こそぎ落ちてしまったことが原因だ。この事実は、デルバー自身が万能卡なのでは決してなく、むしろその活躍の度合は環境に存在する軽量スペルの質に左右されることを如実に示したといえる。

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1.2.モダン

だが、これは同時にまた、良質な軽量スペルを使える下環境ほど輝くとも言い換えられる。モダンでは思案・定業/Preordainの禁止が痛恨であるものの、血清の幻視/Serum Visionsや手練/Sleight of Handsにアクセスすることはできたし、差し戻し/Remandや稲妻/Lightning Boltといったカウンター・除去は非常に高品質であり、Delverは一定の活躍を遂げた。

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1.3.レガシー

Delverと言えばレガシーとの印象は強い。渦まく知識/Brainstorm、思案、定業が全て4枚使える上に、意志の力/Force of Willや目くらまし/Dazeといったピッチカウンターまでも参戦するためだ。

特に1マナドローについて言えば、(Ancestral Recallが加わるとはいえ)ブレスト思案とも制限されているヴィンテージよりも枚数的には恵まれていると見ることもできる。これらに支えられ、Delverという単一のアーキタイプの中にも

・RUG Delver - Canadian Threshold
・WUR Delver - Patriot
・UR Delver
・BUG Delver - Team America
・Grixis Delver

とスタンダード以上に多様なデッキタイプが生まれ、それぞれ時期やB/R改訂による浮き沈みを経験しつつも、総体としてのDelverは2011年以降のレガシーを牽引するデッキであり続けて今に至る。

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2.ヴィンテージでの活躍

いよいよ本題に入る。先に言っておくと、この話はバッドエンドである。2019年12月現在、デルバーはほとんど目にすることもなくなっている。その理由を明かすことが、本項の目標とするところである。

2.1.試行錯誤の日々

デルバーのキャリアは、当然であるが2011年9月:イニストラードから始まる。しかし、レガシーで即座に各種クロックパーミッションに取り込まれたのとは対照的に、ヴィンテージでのスタートダッシュは遅かった。ただ、発見できた限り最古のデッキでも既に噴出/Gushが4枚投入されている一方、無のロッド/Null Rodや露天鉱床/Strip Mineといったマナ拘束系の卡は入っておらず、大筋での使い方は当初から定まっていたことがわかる。

そんな中、2013年8月:基本セット2014にて、もうひとりの主人公である若き紅蓮術士/Young Pyromancerが登場する。

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ヴィンテージにおけるデルバーを評する際、YPを抜きに語ることはできない。そこで、以下の論考では2者の対比が中心となる。この二項対立を解釈する時、基本となるのは次である。

・デルバー向け=reactiveな卡 EX:除去・カウンター
・proactiveな卡=YP向け EX:ドロー

なぜならば、デルバーの目標は、それ自身の3点クロックによる短期決戦にあり、1:1交換を繰り返すことで互いに消耗する、究極的にはお互いのリソースが尽きて荒野にデルバー1匹のみ残っている状況こそ望むところである。一方で、YPはその誘発条件上当然のことであるが、ドローによって自分の手数を増やすムーヴを好む。2者は共にインスタント・ソーサリーを満載したデッキを職場とするが、その志向するところは微妙に相違している

この頃Delverのクリーチャー布陣は、デルバーは固定としてタルモゴイフ/Tarmogoyfも人気であり、YPが非採用のケースもしばしば見られた。キャントリップもフル搭載といった形ではない。この時期のRUG Delverはクリーチャー陣よりむしろ噴出/Gushによるリソースの即時補給&盤面への転換をデッキの核としたデッキであり、Growの直系尊属としての面が強かったと見られる。

そんな中開催されたVintage Championship 2013は、Delverにとって初の大舞台となった。TOP8を見れば、RUG Delverが2名のほか優勝はMerfolkと、クロックパーミッションが気炎を上げた日であった。

2.2.2014年後半 - 絶頂期

2014年6月:コンスピラシーでは、高い汎用性を持ちつつ、トップメタのWorkshopに対して必殺のコントロール奪取を発揮するダク・フェイデン/Dack Faydenが現れた。

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彼を2枚程度採用して2色に絞り込んだUR Delverはデッキリストが一気に洗練され、YPも4枚投入が固定的になった。この時期はVault Controlが最強の座を維持してはいたが、UR DelverがTier1まで上り詰めたことは間違いない。そして秋にはさらなる飛躍が待っていたのである。

2014年9月:タルキール覇王譚は稀代の強セットであり、なかでも探査ドローはヴィンテージを大きく変革した。

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キャントリップとフェッチランドを連打して3~4ターン目に宝船の巡航/Treasure Cruiseを打つことが、ヴィンテージ最強の戦略となった。この戦略を最も自然に受容したのはUR Delverであり(Delveだけに)、プレイヤーはキャントリップをフル投入することは勿論、ギタクシア派の調査/Gitaxian Probeまでフル搭載するに至った。

こうして仕上がったUR Delverは、Big Blueに対して速度とアドバンテージ力の双方で勝り、MUDにもダクに加えてサイドボードから6~7枚のアーティファクト対策を投入するとあって向かうところ敵なしとなり、その趨勢のままに迎えたVintage Championship 2014も、当然のごとくUR Delverの宴であった。

アドバンテージ源を噴出から巡航へと鞍替えし、キャントリップを大量採用したことは、2.1で述べたとおり、デルバーよりYPを一層強化することにつながった。右TOP8でもデッキ名はBlue/Red “Delver”と名付けられてはいる、だが各々のサイドボードを見れば、プレイヤーが最も警戒し、デッキの主軸と見做していた者の名は明らかだ

2.3.2015年 - 群雄割拠

その後、UR Delver規制を目的として2015年1月に巡航が制限されるが、その構成に大きな変化はなかった。なぜなら巡航3枚の枠にそのまま時を越えた探索/Dig through Timeが滑り込んだからだ。9月には探索も制限されるが、その頃にはDelverを取り巻くメタの方が大きく様変わりしていた。

その最大の要因は、2015年1月:運命再編に収録された、僧院の導師/Monastery Mentorの登場である。

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彼については全盛期に概論を書いているので、ご笑覧いただければと思う。

さて同じく探査ドローパッケージを主軸とするデッキでありながら、トークンのサイズが段違いであり、Delverは劣勢に追い込まれることとなった。縦横両方に伸びるのでスマートな対策がなく、突然のショック/Sudden Shockや硫黄の精霊/Sulfur Elementalといった専用卡を採用しても、デッキが歪むことは避けられなかった。

そしてMUDも、2015年7月:マジック・オリジンから搭載歩行機械/Hangarback Walkerを獲得、デッキパワーを高める。ハンガーバックと相性が良く、かつダクに強い電結の荒廃者/Arcbound Ravagerが再発見されたのもこの時期である。

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2.4.2016・2017年 - 失意

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mtggoldfish調べ:採用デッキ数

2016年9月:カラデシュ参入により、新たなアーキタイプ・逆説的な結果/Paradoxical Outcomeが誕生するともに、MUDが飛躍的に強化された。

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前後のエキスパンションが弱めだったこともあり、メンター・MUD2強のメタゲームに逆説が加わり、WotCがB/R改訂で介入する、といった状況が続くことになる。このB/R改訂が曲者で、メンターのとばっちりによりギタクシア派の調査、噴出といったドロースペルが制限を被る一幕もあった。

活路を見いだせないままに1年が過ぎ去り、そして2017年7月:破滅の刻で新たな変革が生じる。

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虚ろな者/Hollow Oneだ。これは「墓地を経由しない墓地利用卡」という類を見ない立ち位置のクリーチャーであり、環境へ大きな影響を与えた。

・Dredge - ピッチスペルを装備する等、抜本的改革がなされた。
・Survival - 虚ろな者と復讐蔦を軸にしたアグロ・コンボデッキ。

これらのデッキは、共通して墓地リソースを活用し、クロックの質・量も厚い。色の役割上決定的な墓地対策を持たず、ビッグアクションにも乏しいDelverにとっては、不利なマッチアップである。

このように、Delverは絶対的なデッキパワー・メタゲーム上の位置の双方で後退していった実情がある。

2.5.DelverなきDelver

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2017年9月までに、メンター・MUDとも、根幹的なパーツを制限されることとなった後は、次第に逆説が権力の空白を埋めてゆく構図となった。この状況を受け、「青とアーティファクトを両方メタるデッキ」の要請が高まった。その結果、2018年3月ごろ、XeroxとかUR Pyromancerと呼ばれる、デッキが確立した。しかしながら、そのデッキ名が示唆しているとおり、そこにはデルバーはもはやいなかった。厳密に言えば、4月~7月ごろまではデルバーと目くらまし/Dazeを投入したクロックパーミッション的な発想をとるXeroxも一定数存在していたのだが、メインに紅蓮破/Pyroblast 2、古えの遺恨/Ancient Grudge 2を置いた、このリストが一般的になると、デルバーは結局姿を消してしまった。

予告したように、これこそが本項で取り上げたかった問題提起である。なぜ、URがメタゲームの時流に乗り復権を果たしたにもかかわらず、デルバーは再登場しなかったのか?

ここからは節を分けて考えてみよう。

3.本題

2018年以降の経緯については、Satsuki氏による記事「ジェスカイアルカニスト プレイガイド」が詳しく追っている。

Satsuki氏と議論した経験も踏まえると、デルバーの不採用は「デッキの位置付け」「ヴィンテージ環境の変化」の2つの切り口から整理できるのではないかと考えられる。

3.1.デッキの位置付け

これまで、XeroxはUR Delverからデルバーを抜いた後継デッキである、という前提のもと論を進めてきたが、上記Satsuki氏の記事によれば、これはむしろジェスカイ・メンターの後継だという(ただし、同記事で扱っているXerox=UR Pyromancerは、2019年1月:ラヴニカの献身後のデッキを指していることに注意)。だとすれば、デルバーが入っていないのはむしろ当然であり、問うべきは、「メンターはなぜ白を捨てたのか」になる。これに答えるため、メンターにおける白の役割を洗い出してみよう。

・デッキコンセプト - 僧院の導師
制限された...。

・除去 - 剣を鋤に/Swords to Plowshares
依然として強力で、稲妻/Lightning Boltでは解決できない相手もソープロなら見られる。

・ドレッジ・オース対策 - 封じ込める僧侶/Containment Priest
オースは減少傾向であった。ドレッジに対して有力であることには変わりないが、ドレッジ側も蛮族のリング/Barbarian Ringやグルマグのアンコウ/Gurmag Anglerを積むなど、僧侶及び墓掘りの檻/Grafdigger's Cageを徹底的にメタっており、対策としてはいささか陳腐化していたことが否めない。

・オース対策 - 解呪/Disenchant
同上

・アーティファクト対策 - 石のような静寂/Stony Silence
逆説・MUD双方に対して非常に強いものの、無のロッド/Null Rodで満足できる。

以上のように、白を用いるmotivationが軒並み低下していたと評価できる。逆に、白を抜きUR(+遺恨FB専用のg)に絞ることのメリットとしては、2ターン目までの挙動が安定する点が挙げられる。

T1 島
  キャントリップ
T2 クリーチャーかPWを展開

3.2.ヴィンテージ環境の変化

では、XeroxをDelverの後継と捉えたとき、デルバー解雇をどう説明できるだろうか。

Delverが誕生したとき、ヴィンテージの主軸となったのはVault Controlであった。このデッキは、それ自体がアドバンテージの塊である闇の腹心/Dark Confidantと瞬唱の魔道士/Snapcaster Mageによって精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptorを守り、カウンターを蓄えながら最終的には勝利手段を揃えて勝つをとっていた。その勝利手段とはVault-Keyや修繕/Tinker→荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossusであり、いずれにせよ制限卡を含んだコンボであることから、安定して引き込むためには、こうしたアドバンテージ装置を確立させる必要があった。

これに対し、Delverは速度で上回る。さらに盤面の攻防では3/2が壁を飛び越えてジェイスを刺しにいき、2/1に対してYPが生成する1/1トークンを並べると、圧倒的に有利であった。以上のことから、Vault Controlに対してアグロ側に回ることができた。

キャプチャ

これに対し、2018年の宿敵:逆説は異なるアプローチを取る。鍵卡である逆説的な結果は非制限のため4枚投入され、膨大なドロー・サーチがそれを掘り起こしにかかる。そのため、PWのようなアドバンテージ装置を介在することなく直接コンボを始動でき、その速度はDelverを上回る。ゆえに、Delverはデルバーによるスピード勝負を挑むのは得策でなく、まずコントロール側に回り、妨害に徹する形となる。そこで頼りになるのはカウンターを再利用できるSCMや、ゲームを進行しているだけで自動的にクロックを生成できるYPである。

また、対戦相手の精神的つまづき/Mental Misstepを消化させてしまうのも懸念材料だ。YPにはこれは当てはまらず、むしろYPが盤面に定着している状態でカウンター合戦が起きてくれるのは好都合でさえある。

以上のような理由から、デルバーが外されていったのではないかと考える。

4.その後

2019年に入ると、強力なセットが立て続けにリリースされたこと、大規模なB/R改訂がなされたことにより、ヴィンテージ環境は激変する。その一環として、Xeroxも、そのゲームプランを換骨奪胎したArcanistに取って代わられることになる。

だが、一度忘れられたかに見えたデルバーは従来と大きく異なるアプローチで見出されることとなった。それはバーンだ。非常に興味深いデッキではあるが、バーンについては別途研究しているため、また項を改めて詳しく見ていきたい。

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