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農村で独り暮らし――視点を増やすドリーさんの生き方

 ユニークなキャラクターの持ち主が多いとされる観光学部の中でも際立っているのが四回生の畑下森洋さんだろう。風貌がディズニー映画「ファインディング・ニモ」の青い魚に似ているとかで「ドリーさん」と呼ばれている。彼は昨年9月から那智勝浦町色川という山間部の農村で独り暮らしをしている。築100年の古民家でウェブ関係の仕事をしながら、畑で農作業もする。風呂は薪で沸かし、雨漏りがあれば修繕もこなす。「自由に生きる」をモットーに日々を過ごす彼の内面に迫ることにした。(黒沼 優樹)

――色川地区に住もうと考えたきっかけは何だったのですか。

三回生の頃、『agrico.(和歌山大学にある援農支援サークル)』の棚田のイベントでここに来たのが最初です。もともと地域の活性化や自然に興味があったというのもありますが、その時に出会った色川の人たちに惹かれ、実家の新宮市内から定期的に通うようになり、学部の単位を取り終わったのを機に移住しました。

――具体的に、この地域の人たちのどんなところに惹かれたのですか。

この人たちといたら素直に楽しいし、勉強になると感じました。ここはよそからの移住者が多い村で、いろんな考えを持っている人が集まっています。また、農業への愛着や建築、生活にまつわる知恵など都市では学ぶことのできない知識を村の人は持っています。そういうものにたくさん触れることができるのもいいですね。

――移住者が多いとのことですが、ドリーさんはその中で最年少ですか。

ちょっとわかりませんが、20代は確かに少ないですね。ただ、子どもは多いですよ。子どもが生まれたことを機に色川へ移住してくる人も多いですから。少し行ったところには小中学校もあり、イベントなどでは子供たちに元気をもらえますね。

――いつまでここに住む予定なのですか、

まだ決めていませんが、村の人たちにいつもお世話になっているので、僕も何か彼らのために貢献したいなという思いはあります。色川地区に住んでみてこの村の課題も少しづつ見えてきたので、それらにも取り組んでみたいです。市場の形も社会の形も常に変わって、コロナも加わって先行きが全く見通せません。だったら今楽しいと思うことをまず試みようというマインドで過ごしています。

――課題というのは具体的にはどういったものですか。

過疎化とか人口減少とかは、実はあんまり問題ではなくて、目の前にある一番の問題は獣害なんです。農作物がとれないと村の人たちが生きていけないので深刻です。実は、獣害の解決策の一つが移住者を増やすことです。人が減ると、耕作放棄地が増えて原野に戻ると動物が下りてきてしまいます。だから、色川への人の流れというのをもっと作りたいと思っています。プロモーションしてこの地域を知ってもらい、実際に現地を体験して将来は住んでもらう、というのを予算が取れたらやりたいですね。

――移住は思い切った行為に思えますが、ドリーさんの場合、何が後押ししたのですか。

元々両親に連れられてよく海外旅行に出かけていたので、外に行くこと自体に抵抗はなかったです。一番大きかったのは、三回生の時に行ったベンチャー企業へのインターンシップです。一か月間営業やインスタでの宣伝をやったのですが、その時のマーケティングの上司が僕には合わなかった。毎晩緊張で寝られず、日中も吐き気がし、会社という大きなものが自分の背中に乗っていて、人と動くという責任感が僕には耐えられなかった。僕は、人にやらされるより自分でやるほうが向いている、そう気付けたのがよかったです。

――なるほど、挑戦が次の挑戦を生んだのですね。

視点を増やすことを常に意識しています。仕事なくなったら死ぬ、都会で就職しなかったら生きるのが厳しい、そういう視点しか持っていない人がいますが、そんなことは決してありません。芝刈りをしたくなったら芝刈りをして、地域の手伝いをして生きていく。月十万とかでも生きていける世界がここにあります。プレッシャーを感じやすい人など、会社の中で働くということ自体に向いてない人もいます。みなさんにも、どうか僕の生き方を見て、視点を増やして人生の幅を広げてほしいです。

――確かに多くの学生は就職ばかりに目が行き、田舎暮らしは選択肢にない気がします。

固定概念を壊すのではなく、固定概念に気づいてほしいです。よく『老後みたいな暮らししているな』といわれますが、なぜ農業は老後だというのでしょうか。逆に「私もそんな生活してみたいなあ」という人もいますが、ではなぜそうしないのか。みんなに自由であってほしいです。友達が辛い思いをしているのは嫌ですしね。方法がわからなかったら僕が教えるから聞いてほしい。時代をフル活用しながら社会を知ってほしいです。

――ドリーさんにとって、理想とする暮らしはどんなものですか。

自分のストレスに早く気付いて、ストレスのない暮らしをすることが僕の理想です。今ストレスを感じているな、ネガティブな思考をしているな、ここ暑いな、脳が疲れているな、など、不幸せなことはすぐに感知するようにしています。それから、やっていることの奥に意味を見出せないものは続きません。だから、なるべく意味を感じられる労働を軸にする暮らしということも意識しています。

――観光学部での4年間は、ドリーさんにとってどのようなものでしたか。

とても刺激的で勉強になりました。観光学部の中には、自分の知らない世界を見ている人、面白そうなことをやっている人が多いです。学生も先生も授業も、僕にとってはとても面白く魅力的でした。学部のおかげで、僕自身視点を増やすことができました。

――最後に、後輩たちへ向けて一言お願いします。

みなさんには幸せに生きてほしいです。僕は長い間、嫌だということを嫌だと思いながら続けることは普通だと思っていました。でも、そういう人ほど、悪いのは自分だという思考になり、鬱になりやすいです。『みんなそうなんだ』ではなく『自分がおかしい』ということに気付けるようになって下さい。自責とかはすぐ忘れるからあんまり重要視せずに、今の自分の状態に気付いて、どうすれば幸せな状態になれるか、変わることができるかということに注力するといいと思います。そのためには、視点を増やし、自分の世界を広げて欲しいです。せっかくの人生、世の中、楽しいものがたくさんあります。コロナ禍で大変なことも多いと思いますが頑張って下さい。

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