クリスマスに、小さい頃好きだった絵本を読んだだけの話
皆さんは子どものころ、どんな絵本が好きだったか、覚えているだろうか。私が幼い頃、特にお気に入りだったのはレイモンド・ブリッグズ氏の手がけた『さむがりやのサンタ』という絵本だった。
両親は『泣いた赤鬼』とか、『100万回生きたねこ』とか、やたら涙腺を緩めてくるような本を勧めてきたのだが、感受性の強すぎる私にとっては些か刺激が強すぎて苦手だったのだ。
その点この『さむがりやのサンタ』はよかった。サンタが「やれやれ」とぼやきながらも、世界中の子どもたちにプレゼントをこなすという大仕事をサクサクとこなしていく様は、見ていて小気味良かったのだ。
さて、そんな幼少期から、プレゼントをもらえる年頃をとっくに通り過ぎしまった今年のクリスマス。暇つぶしに見るものをAmazonプライムで漁っていると、偶然にもこの『さむがりやのサンタ』の映画版を見つけたのだ!!
結論から言うと、めちゃくちゃよかった。幼い頃見た絵本が、子供の頃自分でサンタの声を想像して音読していた絵本が、映像となり、吹き替えの声がつけられ、動き、話しているのだ。これだけで心が躍るというものである。そうして30分ほどの作品を堪能したわけであるが、すると今度は、原作の絵本を読みたくなってくるのである。
そこで、本棚の奥から、何年かぶりに『さむがりやのサンタ』を取り出し、読んでみることにした。改めて読んでみた感想は、『このサンタ、めちゃくちゃ愚痴言うな』という驚きであった。
こんなに愚痴っていただろうか。1ページに一コマは必ずしかめっ面をし、子どもがサンタさんのために用意した飲み物を見て、「なんだ、ジュースかい」と吐き捨てている。おまけにサンタのくせに冬も嫌いで煙突もきらい。お前は本当にサンタなのか。そして最後には、「ま、おまえさんもたのしいクリスマスをむかえるこったね」と、とんでもなくぶっきらぼうなセリフをとんでもなくぶっきらぼうな顔で言い放って終わるのだ。
おかしい。俺が初めて触れたサンタクロースはこの絵本のサンタのはずなのだが、今見ると「こいつは本当にサンタクロースなのか?」と思ってしまう。どうやら、いつの間にかありきたりなサンタクロース像を叩き込まれていたらしい。つまり、子どもたちの笑顔が見たい、善良で人の良さそうで、愚痴も悪口も言わなさそうなおじいちゃんという、そんなサンタクロース像を。
しかし、よく考えてみれば、サンタクロースがそんな善良な人間である必要はないのかもしれない。でもそんな生活感があって、人間臭くて、もしかしたら正体を隠して近所に住んでいそうな、そんなサンタクロース。もしかしたら私は、そういうちょっとニヒルで、でもより身近なサンタクロースのあり方に惹かれていたのかもしれない。
こうして私は、クリスマスという行事をきっかけに、幼少期の自分が何を好み、惹かれていたのか思い出すことができたのだった。まあ、クリスマスはもう終わってしまった訳だが。それでも、無理があるとは思うのだがやはり、この話の最後は、この台詞で閉じたいと思う。
ま、おまえさんもたのしいクリスマスをむかえるこったね。