【タグネタ】炙られて叫ぶひぐらし。
※画像は「みんなのフォトギャラリー」さんからお借りしています※
前からはセミがジーワジーワと喚き、この肌もじわじわと汗をかいて、後ろからは効きの悪いクーラーがこぉこぉ乾いた咳払いをしている感じだった。そこにちりんちりん、だなんて風鈴が涼しそうに歌いはじめるかと思うとさっきまで溶けかけていたカキ氷にあんずのシロップをぶちまけたみたいな暑苦しい毛玉の首輪だった。視界の端からとことこやってきて、なんとなく冷えてきた部屋と猛暑の外を隔てる薄いガラスに寄りかかる。
目の前には眩しすぎる青空と濃い緑色の木々の陰。左手に聳える山がキラキラと鱗みたいに照っている。だのに右手はもう随分と暗い。一大イベントでもある。夏のあいだの急な雨と雷は。数分後には、庭の土は穴だらけになる。小さな海を作る。
溶けている柔らかすぎる毛玉を人撫でして立ち上がる。テレビを点けた。野球の試合はやっていない。4桁の人数がテロップで現れて、専門家みたいなコメンテーターのしたり顔。白い日傘に白いマスク。炎天下の中、行き交う人。そこが一番暑い街だなんて言っているのに。誰かに会いたいけれど、誰にも会いたくないわけでもなくて、誰にも会わない。この家の主にも会えなくて、何も知らない毛玉が生冷たい風に吹かれ、呑気に溶けている。
(512字※タグ除く)
祖母が余命宣告されまして(not567)、多分この世情だと祖母とは会えないまま、多分家族葬になると思うんですけれど、それにも出られずお別れになるみたいなので、よく書いてる創作ではあんまり567を入れたりしないのですが今回は世間の事情と自分の事情を織り交ぜてみました。
※冒頭のはアブラゼミでタイトルはヒグラシです。夏の終わりを焦って嘆いている的な感じで。