生への執着探偵 往足 永鷲朗*いろは(1)
目が覚めると、そこは温かぃ暗闇。
なんともゆぇぬ、ぺぬり、とした感覚が 張り付く、はりつめる…そのことに面喰らぃ、
一拍、やゃ息苦しぃことに焦り本能的にその眼の前の -なれど不可視の-壁をまさぐる―おそるらく、その分厚げな柔らかぃ皮の内腑にでもなったよぅな体のもちようなさまの己は、
もぞもぞととろつく意識で蠢くよぅに、その仕草のあがきのなかからやれどもこの一筋の"出口"を見付け出し、その端の鋭ったパーツをつまみあげ…
現代のこの日常にではさも慣れたギミックの扱ぃ方でひっぱりさげた。
「ぷはっ」
開ぃた鮫歯のちべたし感覚の その隙間から、自分のあたまをひねり出す。
凍空と-微熱 夜気を吸ってちぢんだジッパーから、開らかれた眼前の風景は―まだ寝惚けた眼で―見つめたその先にあったのは まず、薄暮か―薄明か
そこにある山も…木々も それらを雄大に清やけく包む闇も。 万象のあらゆる命のまだ眠る緘黙な風景へ
ただ一輪だけ咲く、眩しぃ―外来の花弁の様な橙色のたき火の光。
そしてその前に座ゎって居たのは、
不端整すら頭の頂からつまさきの爪先までそのぬけめすらもなく野味的に無頓着なじとりしゅむたつ辛気も滴る全身ずぶぬれの男だった。
刹那に同時、細めた半眼に臥さる瞼のその深ぃ淵から覗きながらも爬蟲の機敏のそのよぅにきょろりとこちらへ向く目が二人の焦点で合ぅのを、そのままお互ぃぽかんと見やりあぅ。
「起きたか」
男は仏画の鬼神のよぅにでもぬらぬらちらめきながら針先のよぅによれてこぢれた前髪の奥から、壁をかかりのぼる葛の如とくしだりもじれる髭面で、ぼぅ―まるで昭和の銀幕の音声に似てぃる。そんな声で、一言放つ。
「お早ぅ…ございます」
それもへとぼ―っと返ぇした己の挨拶を追ぅ、 そのよぅにかの しずまりかぇった湖畔の奥で、夜鳴き鳥の騒騒しぃ一声がけたたましく響ぃた。
それに ぴくりっと刹那、肩をよがった男の目の前に、くろく燃ぇて地にはぢける薪もそのはねる足元へつられてつつかれ火の粉を吹き上げ細ゃめかけきめぐる毛束となった閃光の火花が 薄めていた瞼の中で びかっ、と揺れる。 小規模な爆燦、そして静浄。
「ぉう…」
「ぁっ、はぃ…」
「ぁあ、はぁ…ほぅ」
嘆息する男。目の前の彼、 といぅのは、詳ゎしくみれば、これがどんな姿かといぅと
湿気を含くんでなをみっちりがっしりぎっしりぬっちりばっちりとした上衣。
これはみてくれのほかこぇて底知れぬ質量感を放ち、そしてそれは-ないしまだ洒落といぅには、そぅこの時代では…やゃケレン味が勝つ生地で-妙に反射率はこの表面にてらぬらと度を超ぇ高ぃ古粧げに未来的くさぃ―色。をした着つかされるるにもしかにしもおもたげなダウンジャンパーに、おち―ぶつかりほだ照り返すコウコゥとした焚ける火の明かりはその曲面の峰で鋭く闇夜の暗部を裂き、その影の漆黒は夕映ぇの樹蔭のごとくより深く映つる。
またこれに、金属の。シルバー…ぃや、それよりも重々しき、 ずっしりとした、鋼か銑か。無骨かつどぅにも無軌道ばかりなグレィテストフルハィパーナチュラルなデザィンのメタルアクセをそれはもぅ、おめかしといぅよりはもはやなにかの儀式のよぅかさぇでにその身にごちゃりと提げている。全身に鈍びやかに、それでもよく磨かれたそれぞれらがまた、光源の焔を跳ね返ぇしながら彼を梱|《つ》つむ体躯のあちこちでみなひとつひとつみなばかり超新星のよぅにぎらぎらとかなびかりきらめいていた。
-あらためましてこのおそるらくヒトは
人間・表現への挑戦といぅか、現代美術オブジェか御輿かなにかだろぅか。
またそのそばで―煌々と跳ねて照る炎の脇に名残惜しくそっと置かれた、その明かりと同んなじ色のこさびれた古るぃカンテラと…いまこの前こぅして転がる自分をつつみこむまぁ手入れのよぃ寝袋 この他に、まともにろくなキャンプ用具も見あたられるものはどぅもなく
こんな閑散したる山間の心身に不安定な静けさのほかには何もなぃ湖畔で一つたったぽつりここに小ぃさな焚き火のみをして、うつろな極光、ひたすらぼぅんゃりあたりつづけてぃる―
どちらかとゆぇばこの雰囲気こそ山野の中の者に近しぃ-ざんばらりな襟足の長さをひく髪にまたまけぬ程口元までたくゎえた髭面の、そこへかよぅな筆舌に剰りにあまりな余まる格好なるが時点で世間様では十分怪しぃには見事な合格と呼べるのだが、これが更にそこでまるで あらためてまぁざんぶらりと、 丸々ずぶ濡れなのである。ここまで怪しぃ怪しぃに怪しさが上塗りに上塗りされてうわずると、それは怪しぃをとぉり過ぎてむしろキキすらカイキの『怪奇』の"奇"でぁる。
「…大丈夫ですか。」
出るのは訝しみの危惧より、やや憐憫に近き左様に外連な彼の情態への懸念である。
「おまぇの所為ぃじゃろがい、ちくせぅめ、ケッ」
なをそのそとがわへ呆れたよぅに吐く、鬱っ金色に湿気た頬を産衣のよぅに包む
ジャンパーの衿ぐりの毛足の長ぃなにかななにかの毛、ファー…それすらもなにかさめざめ彗星の蛍光へ虹色に耀やき尾を牽ぃているよぅで…もっともそうして今は濡れ鼠のよぅにちぢこまってしまったそれが、絡らみつくほどのあれた無精髭面の厳めしさもなほもむなしくなるほどなくなぜるよぅにかぃがいしくはりつぃていた。
そして対面して、まだもぐり潜っていた、寝袋より―これといぅのもよく見れば、ぎかちかぎらりとしゃがれた鏡面の煌やきをもち闇に解け粉になった灯火をすくった砂子のよぅに光っている、 そこを
んむ、と顔を出す。自分の額に当たるかよゎいやさしぃよぅな風は湖畔の湿気を孕み断巌のよぅにつめたぃ。
半覚醒 あらためて とびこんだ外界の現実は、その墨流し色に鎮かな暢けき山麓の昏ぃ輪廓を無彩で画いて、浮世離れた歌舞伎かぶれになをな染みた男のうしろへあつらぇられた舞台の背景のよぅに平面的だ。
「とくに何もみつかりませんでしたね。」
「あぁ、そぅだな。」
あの閑古鳥がもっとより遠ぉくで、もぅ一度鳴ぃた。 今度はだれも怯まなかった。
「身体の調子はどぅだ」
その纏う上着の-の―いづこなどこからか、手に掴み獲るほどの金属製らしぃ筒を引き出しながら、
全身訊きたぃ事しかなぃ男は、こちらやゎらかくさゎがしく温たたかぃ寝袋に半身つつまれた自分に問ぅ。
「おかげさまですこぶるよぃです」
男がその手に捕った水筒から、大きな蓋の中身に重なりはまってあるその二つ目の薄くちぃさき軽ぃプラのコップを外し、ちゃぽるるる。―一縷の太刀の閃らめきでそこにながれだした中身を灌ぐ。
ほのかにたき火の炎の黄金に染まる白ぃ湯気が上がっている。
それを眺めながら、こくり頷く。
「どこか様子のおかしなところはなぃか」
「そちらこそ」
それはこの前の全身妙光放つずぶぬれ濡れ鼠男に対ぃし正しぃ突っ込みである。
「ほぃならば、そりゃ、よかったわぃ」
そぅすると濡れそぼった髭面の男は、また黙って焚き火の光りへ見詰められながら、もぅ一つのこった大きい外蓋の器へとまた水筒を灌ぎ始めた。こぽこぽこぽ、と この標高からさらに胴張る山々が背伸びした地平へ白む山間の虚空へその灌ぐ音が澄みきれたビブラートのソロで堂々と鳴る。 どぅやら この人は おもぅにあんまり 上手ではなぃそんな四方山話も、それでも寝覚めの挨拶の意思疎通には十分であった。
「ん…。」 孤独な森の小鬼かなにかのよぅに、
「ありがとうござぃます」
そんな男のおぼつかなさに、こちらから彼の懐へと先読みして手を伸ばした。
男は手に持つ大きな方の金属蓋のそれを手渡し、
自身は先に脇わきにおぃていたなにかの茶が満ちたかばねいろのプラのコップをひろった。
乾杯するでもなく、―ずぶ濡れの彼の身にはさぞうまかろぅ…手の盃をかぶりあげごくり、ぐぅと先んず男が飲むのを
脇目に見遣りながら、ちりり温かぃそれを口に含む舌に妖艶わかしく宜に芳醇に炸裂して躍る薫りが
鼻に通ぉり抜けるかくも同時に噴出する。
とたんに如何ん何だ―これは…なんだ、
「な゛ん゛っ゛ずがごでっれ゛ぇ…」
もはやそぅ見ぇたのは、茶?お茶か…なにかの茶だといぅ範疇なのかこれは。
「のんどるままじゃ、だ」
「ぃや、だから―…飲めなぃんすけど」
「身体にいぃ、いぃもんはいるもんだからうまぃはずじゃ、
食べ物を無駄にするな。」
こぃつ味オンチなんすか?
…ぃや、調子が狂ってるのはそればかりではなぃな。
歩くアウトサイダーアートだった。彼の常識から擦レているのはこっちなのだ。
なんで自分、こんな人とこんなこぅまでして共にいられているのだろぅか。
「きちんと飲んでおけ。すこしばかり骨が折れたことへなるぞ」
手許のソレを白面で飲んでいる男は、鈍ぃ羅漢の呷る睨みで自分を促す。
「ぅへえ…」
鼻を摘まんで、濃厚な琥珀色の水面へ眥で威嚇し、この飲料水ノヨウナモノの驚嘆の痙攣を意識でおさぇこみながらなるべく腹へ垂直に流しこむと、むせかぇりそぅな気配が呼気だけもどって喉から白煙を吹ぃた。 おぉよそものをくぅにはむちゃくちゃなその反動で深呼吸する。
「のめたじゃねぇか」 顔綻ぶでもなく男はいぅ。
「よくのめますね」
「…のんだことねぇか」
「あるわけが
なぃじゃなぃですか、 なぃですよ」こんなもん、といぅ言葉を次いで呑み込む。
「…そぅか。 ん」
差し出される手に
仏頂面で飲みおゎった水筒の大蓋を渡した。男は重ねて元に戻す。
まったくもぅとんでもなぃ。
まるで未開の神経の開く刺激に、逆に瞼の奥が澄んできている。
これは、朝ぼらけ。薄藍色を融かしはじめた空におしだされた山はちかづぃて黒ぃ樹々緑の輪廓は白くやゎぃ翼を開くよぅに、気が付けば赫かるんでぃた。
「そろそろ帰りましょぅよ」
こちらにまた眼筋のきびすを男へ向ける。 自分は言った。
「こんなところでいつまでも居たら、逆に風邪なんかひきますよ」
懐れた手付きでぐるりとまるで鞘にでも納めるよぅへまた金属筒の水筒を上衣のどこぞにさっさと納さめ、
「おぅ、そぅしよぅ こぅしちゃぉれん」
男はわりと素直に立ち上がった。
立ちあがればその造作なき顔回りの印象に対しまるで細げに頼りなきそぶりな脚にはなをこのバランスにはこと未まださらにへは大振りかぶりな、裾ぐりもさぇ長めのぎらめく構造色ダウンジャンパーに滲みる朝の霧へ還ぇり出す水気がその緣からつららよろしくたれながらぽつはたぽつり地面へとまるでおともなく降る。 それはまた縞瑪瑙色の礫にひかっている
そのまま男は焚火へと朝霧をつつんでとかす紺青の蔭のもとへ風をはしらせる如く その標としてわぅっと蹴り出す足の爪先をねじってさも獸のそれのよぅに器用にうまぃこと砂を掛けた。闇のなかで人影達を差支ぇていた光源は濃群青の圧にぼっと消え、同じ色に溶けなじみその端の暮がりで矮々しかったただ一つ手提燈ばかりがそこにのこった。
「ゆくか、
これからはちィとしばらくな長ィ旅になるぞ。」
すこしばかり心細ぃそれをしかと己の手の許にへと握って、男は日の出と逆のまだやみふかくしげるやぶ向かって歩き出す。
「待ってくださぃ、おれチャリでここまできたんすよ。」
その眠りの世界の境界は海蛍のよぅに逆回しの荼毘の如くぱりぱりと疑似的な火花をたてながらむけてゆき、まだ半身は泥濘の温もりのここに足をつっこみとられながらわたついている自分はあわてて這ぃ出す。
既に消ぇた灯火の跡に、すでに暁暗をうつすやゎぃ鏡面の袋のその端をかたくなにつかみながらかける
自転車。ただ大事な唯一の荷物。
男が向かぅ暗ぃ繁みの開けた端へ、その目線が、やゃ逸れた方向に
それは防犯灯とも呼ばれる―常夜灯の射すその光輪の地の環へ立つ柱の麓に泊めてある。
「おぉ、そぅか」
かくゆるゆるくゆりかごのふりこにふれるカンテラ片手にふりかぇる男は、それがもぅ蛍みたぃに・ポツンとした光点にうつるそれは距離のよぅにあるじゃなぃか、ほのかすんで遠目に―似てるのならば幽霊よりかそれは首無し騎士じみた-鎧武者みたぃな背格好の癖して、ずぃぶん亡霊のようにまったくみょぅに脚早ぃ。
「おぃてゆかないでくださいよ。いまの自分は、頼れるのは………さん―しかなぃんすから」
ぁれ 、 なんだ
「そぅだな―ぁあ、ボーズ、さっさとはよぅ、とりにいかなきゃならんものだのぅ」
「ボーズって…。まったくもぅ」
せっかく自分達一緒にいるのに、相変ゎらず愛想もへったくれもなぃな。
なんで自分は、この人といぅものと共にこぅしてまたやっていられるんだろぅか?
そんなぼぅっとしてる間に、
その焰色に灯る濡れ鼠の甲冑騎士はどぬろんと目の前ぇに来てぃた。
「わ゛ぁ」
「はょゆかんといけんゆぅてろぅが」
下の面から浮かび揚がり照らされる蒼然な面に、
ここでいまの自分達は確かに、人に見られるとあまりこの印象派的光景の印象として都合はすこぶるよくはなぃ。
「ぼっとすな」
やもたてもいゎれぬまに西瓜みたく頭をふん掴まれた。「頭動ぃとるか」
「動ぃてますよぅ」
「じゃ働かせろボーズ。 動ぃとるだけなら南瓜頭ぁゾンビだ まだおちるな」
そぅしてまじまじとかぃぐってはなれた、その掌は妙にしっとりとして、耳許の内にひびく音で彼の腕ならず指の爪先にまで巻きまきあがり身に付けるメタルアクセサリーがぢゃり、と鳴った。
「ふぅん…」 鼻息、を。 吐く
もぅ…そんなことゆったって、慣れ
馴じめるまで迫めぎくる情報量がとどまらずも多ぃってんだ、あなたは。そぅしてぼゃいてるうちそれからなかほどより少し歩けばよぃ距離に、
そこには自分のこの-折り畳み式マウンテンバイクが停まっている。
白光に舞台美術の独白シーンよろしく照らされる
少しフォルムの平たくまるく低めで、小振りな自転車を 見とめるやいなや男は、
それはちかづくほどその衣の極彩色を彗星のよぅに顕ゎにして、―UFO《ユーフォー》みたぃに… ギュッ、キュッ、シュと薄闇に滑稽な布擦れる音を子どもの靴の様ぅにあとひきながら小走りで向かっていった。
(―元々鍵をかける必要なんてなぃのだ。)
白々しぃスポットライトの元で、風変わりな男がいよぃょ閃明な虹を浮かばせぱちぱちしずるをたれながら
鈍ぶぃ仄のかの気の中にはるか浮く鮮烈な工業色、それは蛍光色の塗装(ペイント)も眩しげな筒々を握りおどりまるごとはねて、 まるでそんな社会的に寓意でもあるよぅなパントマイム芸かのよぅに、なにかいつまでもごとごとごそもそやっている。
「おぃ!わからん!」
男が大きな声を上げた。
どぅやらまるでしずくもあせだくみたぃに抱ぇてそのマウンテンバイクの全体をがちゃがちゃ揺すっている。
おかけでどこがわからなぃのかもわからなぃ。
「頭働かせたらどぅです。」
「じゃからおまぇやぁわからん、ゆぅとるんじゃろ!」
「あなた、不器用なんですか。」
「ひへひへひへ」
「なんでちょっと嬉しそぅなんすか」
ここからあと数歩の程で歩み寄った。代ゎり手にそれを掴めば己はいとも慣れた調子で、その機体の中程らに組みこまれたストッパーをはじき、ゆるんだギミックを外ずしてフレームをくるりっと二つ折りに畳む。
いともやすくそれは腕のなかただ運搬しやすぃ姿といぅだけなそのものの形におさまった。
と、それを気が付けばこの横顔の真傍、間近にへと首を屈め突っ込んで男は覗きこんでぃた。
「ぉ~…」
ぬっくりといかつく艶しげに輝ける縅の如き驚ろかせげな風貌のなかで純にきらめくつぶらな瞳。は、まるで…喩ぇるならしかもそれは、やはり外来のカブトムシの様ぅでもある。
男は幾何学的様な塊になったそれをほぃと持ち掲げてみせる。 「軽ぃの!たぃしたもんじゃのぅ」
おどれもやゃかるぃステップではしゃぃでいる、童話の中の少女の花畑にでもいるよぅにすらみやるよぅにうつりぇた、如何にもその前衛的な塊の組み合わせは一周廻ってむしろシュールなさだめで帰結して似合ったが、
その尖がった一見の目へ映るに反して、ただふかくみつめるほどおそれおぉくだとおもぅには、この男そのものの放つ雰囲気はひどく朴訥なほど庶民的であった。
頼りにもならなぃし、安心もできなぃ。なのにそのどちらでもなぃ。おちつかなぃ。
それなのに自分達は当たり前にここにいる。
なぜだろぅか、のいきつくまもなく、よがあけるひびをまっている。
男が飄々とかついでゆく自転車だったものを瞳で追ぃながら、すると
「こっちだぞ」
その先には藪と同んなじ色の車、男自身のものであろぅ…如何にもそんな一台が―ぽつねりんと停まっていた。
頭の四角く角ばって、前の方の面…ボンネットだけはどぅやらよく有る乗用車の普通めいたもののそれ、子どものかぃた車の絵にあるよぅに前にせりだしばってはなでっかちのなぜかにか継ぎ接ぎな車体…それはピックアップ位のサイズの、後ろに広目の荷台のある、それにしては全体は中程度のトラック型であるらしぃようだ。
かの防犯灯を外れた闇へとおぼろげにうかぶボディの肌はまだまともにはみえぬことかゎらずだがまたごちゃごちゃしている。―半分ほど荷物の影で盛り上がった荷台には幌がある
男はその幌をすこし外し、
日帰ぇり旅のトランクぐらぃに担げる大きさほどになった自分のマウンテンバイクを、その荷台にへつめこんでいた。
身を乗りだし潜ぐりこむ。それがまたハナムグリか…むしろ正しくセンチコガネよろしぃ姿なんだ。
ささぃななすことが、一々多ぃめの情報量をつかゎなぃ脳みその部分へ刺激的に与ぇる。 瞼底へ星屑がちらちらしている
「はやいとこたつぞ」
「ぇっ…ぁあ、はい。」
応ぇる自身の目のなかに目をくばせる男は、やゃやんちゃに擂れる金属音を立てて、車の左のドアを開けた。
「あぁちょっとっ~…」
幻惑的な極彩色をちらめかせつつてらぬらと街灯にかんかんと降り照らされていた姿もまだ鮮烈に、いまや朧気ながらも車のドアの影へ隠れよぅとするこの男は、ここ改めに、そぅさ改めて、全んぶびしょ濡れなのである。
「…これっ、 ひきましょぅよ」
自分は、丁度手に持ったままでわさゎさ無沙汰にさせていた、あの人工衛星みたぃな鏡面加工の寝袋を男へと渡した。
男はしばしそれを手に眺め、「ん」手前左の自分の運転座席のシートへとゎりと丁寧に塩梅よくかぶせた。そしてそこへ腰を降ろす。おしつぶされた湿った服の繊維と詰まった羽毛の音がジュンと騒ゎぐ。
それをなんとなく五感できき見届けながら、自分は右側にまゎりこみ…ドアをあけると、そこには席が
なぃ。
ぉっ、その面食らった自身の一息の弾指の前に 「後ろの席に乗れ」
わかったよぅに顎で男は目配せた、
それをきき天井にあたらぬよぅぎゅっと頭をかがめて車内の奥へと虚の床のカーペットを慎重に踏みながら、暗闇で手先の感覚を頼りに―あって触れるのは膠みたぃなてるんとした生地で、そしてところまちまち擦りきれスポンジみたぃな綿の出た、狭めの横長の革張りシート…へと身体をおさめる。それは寝転がればすこし頭が出る程度程の広さだ。
ダンム、朝ぼらけの黎明へ銅鑼のよぅな鳩尾にへ響く音で男は車のドアを閉めた。
「おまぇはこわくなぃのか」
「なにがですか」
激的な初対面、男の奇態、漆黒に包まれた車内と山林。おもぃあたろぅとするふしがなんとなく走馬灯のよぅに巡り模糊へと曇る。 だがその度よりも超ぇてその答ぇは鋭角だった。
「その… 自分の命が、どっかいっちまぅことがだよ」
まるでポエムにもふざけめかされるこの現代の哲学かなにかですか。
答ぇを待つ前に、ひねられたキーの弾き出したエンジン音がけたたましく起動のしらべを唸った。
徹頭徹尾の暗闇のなか荒馬のよぅに車体へ ぼんッと一つつきあげた振動をあたぇて…それを心配して振り返ぇる男、 「ちゃんと前みてくださぃ」そこにやれゃれそぅ返すと、 男は黙って前を向く。
鼻先は顔面に頬ぺたまで迫りくる、男の座る運転席のシート頭部との距離は近ぃ。そこにしめ土くさぃおそるらく男の髪と衣らの藪草木色の匂ぃが覆っていた。 やけにかたくてつっぱねた、せまぃベンチシートの感覚が全身をおさぇつけている。
そのストイックな狭量さはまるで音速飛行機のコックピットみたぃで、それは逆に-このせかぃで棺ともゆぅような安心感を与ぇた。
車は駆り出す。おもぃのほかに浮くよぅな重量で身を振りまゎしせわしく足早で。
「ながぃ旅になるぞ」
男はゆった。
「ながくて、そりゃみじかぃ、そぅせんとよけぃもっとながぃ旅になる」
くらぃ憩室へ抱かれる肩のなか、なんとなくもぅまた感覚はとろめぃてうつろにきぃていた。
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