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WSMR-2: ソーシャルメディアの規制と責任

ソーシャルメディアニュース

FacebookとGoogleが捜査目的で警察に渡したデータは、当初の捜査目的以外にも使われる

ソーシャルメディアプラットフォームは、捜査協力の一貫として当局にユーザのチャットのログといったプライベートなデータを渡すことがあります。今回問題となっているのはネブラスカ州で起こった胎児の遺体遺棄事件に関するデータ提供です。ある事件で、ティーンエージャーが中絶と胎児の違法な遺体処分をしたことについて、当初警察は胎児の遺体処分について「のみ」Meta社に令状を発行し、データ提供といった協力を求めました。しかし、渡されたデータにはティーンエージャーとその母親の中絶に関する相談内容が含まれていたのです。このたまたま手に入れた証拠を元に娘は胎児の遺体遺棄についてだけでなく妊娠中絶についても、そして母親も娘の中絶を助長したことについて起訴されてしまいました。つまり、遺体遺棄事件に関する事件の証拠提供の申し出に応じたMeta社のデータ提供が証拠となり新たに「中絶行為も含めて」起訴されてしまったとのことです。また、この他にも胎児の遺棄を手伝った男性もおり、こちらは罪を認めたため執行猶予処分とされています。

ソーシャルメディアはコストの観点からユーザの個人情報を守る努力をしないことと言われており、多くの批判が起こっています。実際にMeta社はユーザデータに対する政府の要請に70%以上の確率で応じているとのことです。一方でMeta社は政府から年間40万件以上の要請を受けており、全てのケースでコストを十分に割いて対応できないという考え方もあります。記事中では専門家による、「政府による過度に広範な要求が問題」への批判は少なく、ソーシャルメディア企業に対しての批判が偏って多くなってしまっているという指摘を紹介しています。

アメリカでは人工中絶が違法の州が多くあり(11州)、それに対する議論は宗教や国家感に深く根付いた問題であるため、長年議論が続いています。妊娠中絶の合憲性をめぐる最高裁の判決が昨年度覆されたこともあり、この問題は単なるソーシャルメディアのプライバシー問題を超えて議論を呼びそうです。

https://central.newschannelnebraska.com/story/48093218/mother-accused-of-performing-concealing-illegal-abortion-now-slated-for-springtime-jury-trial
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4700/


ソーシャルメディア上のコンテンツの責任はソーシャルメディアにあるのか―米通信品位法第230条をめぐる裁判の審理が始まる

米国においてプラットフォーマーを保護している法律として、米通信品位法第230条(セクション230)があります。これは、相互通信サービスを提供する会社の免責事項を定めた法律で、サービスの提供者が情報の発言者として扱われないことを保証しています。つまり、230条によってサービスの提供者は、そのサービスにおいて投稿された情報の内容に関して、削除等の対応に関して責任を問われないことが規定されているのです。セクション230は米国におけるプラットフォーマーのイノベーションを保護してきたと言われていると同時に、その適応範囲について議論されてきました。一部の違法広告などについては適応外とされています。

先月、そのセクション230が推薦システムに対しても適応されるかどうかについての最高裁裁判が始まり、ソーシャルメディア研究者やエンジニアにとっても、このセクション230に対する裁判の結果を追う必要がありそうです。

https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/mnsc.2022.4498
https://www.web-nippyo.jp/30674/

推薦システムの「長期的な」指標を構築する試みとその困難さ

プラットフォームを展開する企業においては推薦システムがユーザ体験と収益向上両方の鍵となっています。しかし、推薦システムの多くは短期的な指標(クリックなど)に基づいており、ときにクリックベイト(例えば釣りタイトル)などの問題が生じます。このようなユーザーを欺く施策は長期的にプラットフォームの信頼を損ね、ユーザの離脱を招くため、より長期的な観点からのシステムの評価が必要になります。しかし、長期的な評価を行うためのデータ取得は時間とコストが大きくかかります。

この記事では、2人の研究者がMeta社や他の研究者を巻き込んでこの長期的な推薦システムの評価を行うプロジェクトの過程が描かれております。特に、研究者と企業(Meta社)、双方の価値観や思い込みを解消して共同プロジェクトを推進する難しさについて述べられています。計算社会科学のような分野では、プラットフォーマーの内部データを含んだ様々なデータを扱うので、今後多くの企業とのコラボレーションが望まれることが考えられます。その点、この記事のように異なるステークホルダーとの付き合い方についてレッスンを得ることは重要かもしれません。

https://twitter.com/jonathanstray/status/1631332521580589056

ビッグデータ、死す

行動経済学に続いてビッグデータも死んだようです。Google BigQueryの創業エンジニアであるJordan Tiganiが投稿したブログポストが話題を呼んでいます。Tigani氏が指摘しているのは、多くの顧客はビッグデータのような大きなデータを持っているわけではなく、持っていたとしても最近のデータのみを参照し、結局は昔のデータは使わない傾向にあるという点です。これらを踏まえて、良い意思決定のために、データの大きさではなくどのようにデータを活用するかを重視して議論すべきだと指摘しています。

https://www.thebehavioralscientist.com/articles/the-death-of-behavioral-economics

メタバース、死す?


Meta社がメタバース事業から徹底したと主張するブログポストが注目を集めており、この噂がSNSで拡散されています。公式に社からの発表は無いので未確定な点に注意です。件のブログポストでは”The metaverse is dead”(メタバースは死んだ)といった文言が書かれており、Big dataに続いてインターネット産業の新陳代謝が活発になりそうです。

https://www.thestreet.com/technology/mark-zuckerberg-quietly-buries-the-metaverse

IC2S2の投稿が締め切られました―過去最高の投稿数

投稿数はなんと900件を超えたとのことで、過去最高だった模様です。(一昨年は約400件で、昨年は不明でした)。会場のキャパシティ的に採択数をそこまで変えられないとしたら、採択率は例年よりも大きく落ちるかもしれません。去年の採択数はポスターとオーラル含めて320程度でした。

気になった論文紹介

取得可能データには偏りがあるかもしれない。

ソーシャルメディアの分析ではデータを過去にさかのぼって取得することが多くあります。これはオンライン上にデータが残っていることを前提としていが、実際のところ「どれくらいのデータがオンライン上で再取得可能なのでしょうか」?たとえばTwitterでは、投稿/アカウントの削除、アカウントがプライベート化、モデレーションによるBanなどによってデータは再取得できなくなります。

今年のWebSciで発表される論文では、過去に公開されたTwitterデータセットを、APIで再取得を試みることで、再取得可能or不可能なデータの傾向を調べました。結果として、政治的な話題では左派の方が残りやすい、非論争的なトピックでは有害なコンテンツは残りにくい、右寄りのユーザーによって促進されたトピックはデータが残りづらい、といった傾向がわかりました。今後のソーシャルメディア分析では、このような持続バイアス(persistent bias)に注意を払った方がよさそうです。
(WebSci23アクセプト)

持続可能な知識共有コミュニティには、安定して信頼できるコアネットワークの早期出現が重要

プログラミングコードを書く人間でStack Overflowに触れたことがない人はいないでしょう。現代の知識社会は全般的にこのような「知識共有コミュニティ」に大きく依存しています。しかし、重要度の高い知識共有コミュニティは、参加者の自発性に基づいて発展してきました。記事の投稿に金銭的インセンティブを得られることは(ほとんど)ないからです。むしろ、その発展にはメンバー間の「信頼性」が強く影響することがわかってきています。

本研究ではStack Overflow類似のサービスであるStack Exchangeを用いて、「知識共有コミュニティの持続可能性におけるソーシャルネットワーク構造と社会的信頼の関連性」を調査しました。結果として、活発なコミュニティは局所的な凝集性が高く、安定した、より良くつながった、信頼できるコアを発展させていました。つまり、安定した信頼できるコアの早期出現が、持続可能な知識共有コミュニティにとって重要であると考えられます。

ヘイトスピーチの広がりにはユーザとコンテンツどちらが大事?

様々な人種差別や政治的局面、エンターテインメントの側面で、ヘイトスピーチが問題になっております(日本でも近年テレビ番組を契機に起こった中傷が大きな問題となりました)。これまでの研究ではそのようなヘイトスピーチの発見と対策が大きなテーマでしたが、発生メカニズムや拡散ダイナミクスについてはまだ多くのことはわかっていません

本研究では、3つの人気ソーシャルメディアにおける680万人以上のユーザと3200万以上の投稿を分析しました。その結果、情報の拡散を制御する上で、憎悪を抱くユーザは、特定の憎悪を抱くコンテンツと比較して、より重要な役割を果たすことがわかりました。ネットワーク上で憎悪を持つユーザは情報カスケードを構築するためにしばしば群がり、中核的なネットワークを構築していたのです。このような結束は単なる組織的な行動では、むしろ自然発生したエコーチャンバーによって増幅されたものだとのことです。最終的に本研究では、エコーチャンバーの要因である人気ベースのコンテンツ推薦に関して注意喚起を行っています。



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