ご免侍 八章 海賊の娘(十六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
十六
大瀑水竜の凄惨な死体を見て、誰も声すら出せない。露命月華が、息を大きく吸い込むと命令するように怒鳴る。
「あんた達の命は助ける、船を港に戻して」
「まて、命を助ける約束を守れるのか」
一人の若い男が出てくると露命月華に食ってかかる。一馬は、この一触即発の状況で動けない。
(こんなに若い連中を使っているのか……)
年齢は上は十六くらいで下はもっと幼い。露命月華と話そうとしている男は例外的に二十歳くらいだろうか、それでも一馬よりは若い。甲板には三十人くらいは集まっているが、いくら一馬が強くてもこの人数を斬るのは容易で無い。
「守れる、この男は公儀の仕事をしている、ご免侍だ」
ちらりと露命月華が一馬を眼で合図した。一馬は懐から葵の紋章が入った印籠を見せる。
「ご免侍」
見得を切って大声でみなに見れるように、手に持った印籠をゆっくりと動かすと、皆が一様に感心した表情をする。
「いいかい、一馬がいれば公儀は、お前達を助けてくれる」
「俺たちは散々さげすまれてきた、今さら戻れるのか」
若い男は、やけに露命月華となれなれしく見える。
「お前達はまだ若い、それに今のままで幸せなのかい」
「判った、とにかく仲間達と話をしたい」
若い男が、片手を上げて降ろす、甲板に居るみながぞろぞろと船の中に戻っていく。がらんとした甲板は、死体が転がっているだけだ。
「おい、中にどれくらいの連中がいるんだ」
「私だってわからないよ」
船は止まっているし、大筒もしばらく前から発射されていなかった。
「おぉぉい、大丈夫ですか」
海の上で海賊の船から声がかかる、山賊の権三郎が手をふっていた。