SS ああ、なんて温かい雪だろう。#ストーリーの種
ああ、なんて温かい雪だろう。冬山で遭難した俺は雪洞を掘って難を逃れようとした。結果は誰にも発見されないままだ。俺は雪の布団にくるまって幸せだ。
「残業も多かったからなぁ……」
今は好きなだけ眠れる。そういえば昔話で雪を布団にして死んだ兄弟の話があったな。あれは悲惨な話だ、両親が死んだので家を追い出されて、雪を布団にして凍死をした。
「凍死って痛いんだけどな」
体の血液が凍るので痛みが走るが、それも長時間体温が下がっている状態だと気がつかない。俺は眠るように死ねた、きっと仕事の疲れのせいだ。ただ今の状態の難点は、寝返りが出来ない事だ。もっとも死んでいるのだから寝返りなんて必要もないが。
「ここがいいかな……」
上の方で声がする、若い女性の声だ。こんな山奥に人が訪れるのは珍しい、俺は肉体から外に出る事に決める。服装は死んだ時の登山服のままだ。
「お嬢さんどうしました? 迷子ですか? 」
「だ…だれです……」
いきなり不審な男が現れても通報されないのが山の良いところだ。俺は彼女の軽装を見て腹が立つ、冬山をなめているのか。スニーカーでスカートの彼女は女子高校生なのか制服を着ていた。
「その服で山に登ったのか? 」
「……私はここで死にたいんです」
カッターナイフで手首を切って凍死すると泣いている。俺は彼女の自殺の理由を聞くと話は単純だ、好きな男にもう彼女がいるから死ぬ、あてつけで死んでやる。
「それで男が苦しむと思うのか? 」
うなだれた彼女は男の生理を理解していない。惚れた女が死んだらショックを受ける、だが彼女持ちの男が見知らぬ娘が死んだからってショックを受けるわけがない。
「まだ若いし、もっと他の男性と付き合え! 」
説教して返した。また雪の布団でぬくぬくしていると、上が騒がしい。別の若い娘が地面を見ている。また自殺したいと泣いていた。テンプレのように説教して返すと、俺の寝ている上にやたらと人が集まった。
「謎の説教山男ってあなたですか? 」
どうやら最初の娘が言いふらした。人がやたらと集まると俺の死体が発見された。
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今も俺は山にいる。死体は供養されたが霊魂は山に封じられている。
もう雪の布団でぬくぬくできないが、初めて俺と出会った娘がやってきて俺が死んだ場所に花を置く。彼氏を連れている姿は幸せそうだ。ここは遭難者を助ける山として有名になった。