SS 糞をかぐ男 【うんこ鬼】#爪毛の挑戦状参加作品
その昔、糞の匂いで病気が判る男がいた。出したばかりの糞をひとさじもらうと、丹念に匂いを嗅いで薬を調合する。体の悪い所がたちどころに判るので、重宝されたが忌み嫌われもした。
「うんこ鬼でございます」
「うむ、娘の病気を頼む」
大きな庄屋の家では、嫁入り前の娘が床についたまま起き上がれない。八方手を尽くして医者に見せてもわからない。熱も出て今にも死んでしまいそうである。
「では、この竹の筒に糞をつめてください」
「あいわかった」
細長い竹筒を渡すと、二つに割れてうんこをつめて返す。もどってきた竹筒をもらうと筒の先に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと顔をしかめた。
「どうだ、薬は作れそうか」
「お嬢様は、悪食でいらっしゃるか」
「そんなことはない」
「まずは、体内の毒を出しましょう」
薬箱から木の根や草を取り出すと砕いて混ぜ合わせて粉薬を作り娘に飲むように渡す。だがこれが悪かった、下痢をした娘が衰弱して瀕死の状態になってしまう。
「この藪医者が! 娘が死んだらどうするつもりだ」
「もうしわけござらん、もういちど糞をいただきたい」
「だめだ、だめだ」
「ひとさじ、ひとさじだけでも」
執拗に食い下がるうんこ鬼に負けて、下痢で汚れた襦袢を持ってこさせた。うんこ鬼は、まっていたとばかりに鼻をつけて匂いを吸い込むと、薬をまた新しく作る。
その薬を飲んだ娘は、たちまちに治り元気になった。
「良かった、娘はもう元気だ」
「少しおまちください、最初の糞はどこからもってきました」
「うん? 侍女がもってきたが」
「なるほど、侍女をここに」
連れて来られた侍女は、うんこ鬼にいろいろと説明をしていたが、最後には『犬の糞を使った』と白状する。
「お嬢様が便秘でずっとお出しにならずに、やむなく私が飼い犬の糞を使いました、もうしわけありません」
犬のための下し薬では、強すぎたのだろうとみなが納得する。うんこ鬼は、褒美として命を救った娘と結婚して嫁の糞を毎日かいで幸せに暮らしたと伝えられる。
めでたし……めでたし……うんこだし