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48mama
SS 梅雨明け 【ボケ学会】
「梅雨は明けちゃいけねぇ」
「なんでだよ」
熊さんと八さんは安い酒で晩酌している。八さんは梅雨のままでいいらしい。
「梅雨が明けると仕事しなくちゃいけねぇ」
「そらそうだろ、天気なら仕事がある」
「仕事に出たら家で酒が飲めねぇ」
「帰ってから飲めばいいだろ」
「家に戻っても真っ暗で飲めねぇ」
「灯りをつければいい」
「油代が高くて酒が買えねぇ」
「屁理屈ばっかりだな」
「ずっと梅雨でいいよ」
「金はどうすんだ」
「掛け売りだから踏み倒す」
ドンドンドンドン
長屋の戸が叩かれる
「八さん、八さん、酒代を払っておくれ」
取り立てがきた、八さんは部屋の隅で頭を壁につけてじっとしている。まるで蝉だ。熊さんはしょうがないから戸を開けると酒屋が怒鳴る。八さんは壁を向いたままこっちを見ない。
「いつまで払わない気だ」
「梅雨が明けたら払います、雨で稼げねぇ」
「ならいいものをやろう」
「え? いいものですか、それはありがたい」
現金な八さんが両手を差し出すと、取り立てが白い布と荒縄を手に乗せる。
「雨がやむまで、お前を軒下につるしとくよ」