SS プラス思考【#プロのマイナス】 #爪毛の挑戦状
俺はマイナス、マイナス思考は周囲の人をうんざりさせる。教室で授業が始まるまでただ座る。それだけで負のオーラが漂い人を近づけない。静かで幸せだ。
「おはよ」
「ああ」
彼女はプラス、プラス思考は周囲の人間を元気づける。前向きでくよくよしないで、細かい事は忘れるけど、雑なわけじゃない。隣の席に座るとやたらと話かけてくる。
「それでね、お母さんがね……」
「母親がそんなに好きなのか」
きょとんとする彼女は得意満面の笑顔で親指を立てる。普通なら俺のネガティブな返しでうんざりして黙るが、彼女は平気だ。
「大好きよ、自分がおかあさんになりたいくらい」
「うん、良かったな……」
これが俺だ。相手の喜怒哀楽に同調できない。嬉しかったら一緒になって笑う、悲しかったら一緒になって泣く事すらできない。自分のテンションの低さにドン引きする。
(俺が普通の人間だったら、彼女も嬉しいのかな……)
でも陽キャは、陽キャであるのが自然で自分に好意をもってるわけじゃない。誰に対しても同じ態度だ。そんなもんだ、人のやさしさなんて……
先生が教室に入ってくると、彼女の名前を呼んで廊下に連れ出した。それきり彼女は戻って来ない。放課後になると俺は一人で家路につく、公園の前で彼女を見つけた。
「どうした」
「おかあさん死んじゃった」
事故か、交通事故なのか……
「そうか、お葬式しないとな」
「なにそれ! あんたっていつもそう!」
怒りをぶつける、俺を罵倒して怒鳴りちらして拳で体を叩く。
「人は死ぬよ」
「うっさい! 陰キャの馬鹿!」
そうだ、もっと怒れ。俺にぶつけろ、もっともっと……泣き崩れる彼女を家に送り届けた。
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「この前は、ごめん」
「別になんとも思ってない」
俺はプロのマイナスだ。どんな屈辱も俺は耐えられる。負のすべてを予測しているから、傷はつかない。そして判る、プラスとマイナスは惹かれあうのも運命だ。笑う彼女は本当にかわいく見えた。
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