SS 占い師マイカの毎日:世界(終)【ワールドザワールド】
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あらすじ
女神の見習いのヒサギが悪魔に取り憑かれた。祠の中にある万魔殿の中には日本の東京の街が広がってる。悪魔に操られている楸はマイカ達を攻撃するが、カードの力で回避できた。【コレクター】はその隙をついて悪魔のカードを手に入れて逃げだそうとしていた。
【コレクター】は無数の世界を渡りながら、強いカードを求めていた。彼は最初から力を試すために私に拾わせた。ヒサギと仲が良い私は見事に罠にはまる。油断もあるし慢心もある。だらけた生活で緊張感が皆無の私は、自分の失態の怒りを【コレクター】に向けた。
私は自前のカードを抜くと、【勇者とドラゴン】を選ぶ。敵は【コレクター】だ、巨大なドラゴンが出現をさせる。私が召喚したドラゴンは【コレクター】に向けて真っ赤な炎を噴き出すと周囲が炎上する、私は自分の攻撃行動を止められない。悪魔の影響が私に残っているの?
【コレクター】が絶叫を上げながら燃え上がる、ワールドザワールドのカードは女神の力並みのパワーを持っていた。灰すら残さずに消える。ドラゴンは周囲の攻撃を始めている。暴走するドラゴンを見つめながら憤怒と憎悪で後ろ向きの感情であふれる。私は今まで何をしてきた?大樹の世界で客が来てカードを引いて答えを与えるだけ。ヒサギが苦しんでいたときも助けもしない。怠惰で卑怯なのは私だ。涙があふれる。
「もう…終わり…」
鞄が動く。能動的に動くタロットカードは偶然世界に影響を与える。どんな世界でもサイコロを振っているのと同じだ。幸福と不幸は対だ。どちらかに転ぶのは偶然でしかない。【世界】のカードが出現する。裸の女性は申し訳程度に布を巻き付けている。若い女性は私に微笑む。彼女は周囲に天使や動物を出現させた。
「世界は完璧です、世界がある事が奇跡なのです、ライオンさん、手伝って」
天使、鷲、牛、獅子が彼女の周囲を取り囲む。彼らは黄金に輝くと世界の理を変異させ始めた。世界が黄金に染まり爆発するようにキラキラした光があふれた。空も人もカード達も金色で美しい。
「THE WORLD」
【世界】はそっとつぶやくとマルチバースの世界に万魔殿を追加する。そこに組み込まれた東京は実在の世界に再構築される。タロットカードから現れた人や動物が消えていく……カードが地面にバラバラと散らばる。どこかでサイレンが聞こえた。みなが破壊されたアパートを呆然と見ている。私はライオンが笑顔で前足を振っているのを確認できた。彼はゆっくりと霧のように消えた……
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「これからどうしよう?」
愛娘は、だらしない格好で畳の上で寝ながらスマホで仕事を探している。東京が現実になると同時に【世界】は、私達をそこの住人になるように書き換えていた。住民票も戸籍もある。後はお金の問題だ。私は以前に自分のカードで作り出した金塊を使いアパートを借りた。私達は元の世界に移動できる手段がない。この世界がマルチバースのどこなのか判らない。
そして私は自分の大樹のカードを失っていた。元の世界に戻れる鍵かもしれないカードはもう無い、今は八方塞がりだ。楸は、今でも普通に学校に通っている。不満は無さそうに見えた。楸は自分の力を使いすぎて、戻るまで時間が必要と教えてくれた。彼女の力が戻れば、義憤の女神として大樹世界と通信が可能になるかもしれない。それを期待している。
タロットカード達は、東京が現実になると同時に普通のカードに戻ったようだ。ライオンたちと別れの挨拶が出来ないのが心残り。ここがマルチバースの世界なら、その世界にある大樹と女神に頼んで他の大樹世界に移動が可能だ。しかし東京にはそれらしい施設も女神も居ない。
今日もアルバイトを探す。蓄えはあるが尽きたら終わりだ。働ける大人は仕事をする事に決めた。狭い部屋で三人暮らすのはきついが仕方が無い。
「ただいま、お惣菜が安かったです。」
楸が学校から帰ってきた。なぜか楽しそうな彼女を見ながら私は夕食の準備をする。
終わり
あとがき
タロットカードで短い話を作ろうと思いつき、登場人物が増える事で混乱するのを身をもって体験を出来ました。いつものノープラン、ノープロットは通用しません。今回は落ちすら見えないで最後まで書けたのがほぼ奇跡でした。