ご免侍 二章 月と蝙蝠(三話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
「お帰りなさいませ」
琴音が、一馬が戻ってくると嬉しそうに世話する。もう馴れてしまったが、最初はくすぐったいような感じもあった、今は自然に感じている。
一馬には兄弟はいない。妹をいればこんな感じなのかとも思える。
「なにごとも無かったか」
「庭師さんやおばあさんが来たくらいです」
近所の連中が出入りするのはよくある事で、助けてもらう事が多い。父親がなにかと世話をしたのを恩に感じているようだ。
(出入りが多いとそれだけ監視にもなる)
琴音を襲った連中は、ただの人さらいには感じなかった。武士かそれに準ずる訓練を受けた動きだった。
(まだ諦めていないなら、いつかここを襲う)
そう思うとすぐにでも出立して、城へ連れて行きたいのだが、仕事のしがらみもあるので、ままならない。
(親父が帰ってきてくれれば)
もう数年は戻っていない、生死さえも曖昧だ。いっその事、隠密頭に相談しようと考えた。
(もし捨て置けと言われたら……)
若い一馬は、決断を伸ばしたままずるずると毎日を過ごしていた。
「どうかしましたか」
「いやなんでもない……それより夕刻に少し外にでる」
「わかりました、戸締まりはきちんとします」
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