ご免侍 五章 狸の恩返し(二十話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。岡っ引きのドブ板平助の女房を、蝮和尚が地下の倉に閉じ込める。
二十
藤原一馬が、伊土屋に違和感を持ったのは、女房のお勝から相談を受けた時だった。
裏長屋でお勝に着物を縫ってくれるように頼もうとして、通いで奉公する事を知った一馬は、その足で行き先を探して伊土屋にたどりつく。
何か隠していると直感が働くと、平助の女房のお勝を呼び出して内情を教えてもらう。お勝は子供の服を縫っていた。それも大量の針仕事だ。船問屋が人に頼まないで自分の家で作らせるのはなにか秘密がある。後は人足に化けると伊土屋に入り込んで探る、そこで倉に閉じ込められた子供達を見つけた。
「切り捨てご免」
一馬は鬼おろしを革のさやから抜ききると階下めがけて落下した。鬼おろしの重量は日本刀の六倍の重さがある。まともに受ければ体が裂ける。
血しぶきをあげて雇われた男が一人、また一人でぶった斬られた。
「和尚、なぜこんなことを」
「――それが、わしの仕事だ」
ぶんっと音を立てて一馬めがけて鎖が横殴りに襲いかかるが、鬼おろしではね飛ばす。これが通常の日本刀ならば、折れるか巻き付いて刀を奪われていた。何回か打ちあうと隙を見て逃げ出すと、蝮和尚が階段を昇って出口の格子を落とした。
「平助、大事はないか」
太った平助の頭を抱えて助け起こす。
「一馬様、ここには瘴気があります、長くいると体が……」
「お前は太って背が低いからな、それだけ吸い込んだのか」
一馬は地下を見回すと格子の外に火鉢が置いてある。暖房のためだろうが、炭火を通気の悪いところで使ったせいで、瘴気が発生していた。今でいう一酸化炭素中毒にかもしれない。
一馬は火鉢の炭を灰の中に埋めて火を消す。そのまま格子に近づくと、鬼おろしを叩きつける。腕ほどの太さの格子もたたき割れてしまう。中に居るお勝を助け出すと、まだぼんやりしている平助を立たせた。
「逃げるぞ」
「でも格子が閉まってますよ」
「刀で壊せるだろう」
階段を昇って確かめると鉄であちこちが補強されていた。出口を調べていると、壁から大きな音がして水が吹き勢いよくあふれ出す。溺死させる気だ。