ご免侍 九章 届かぬ想い(十六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。大烏元目に会う一馬は、琴音そっくりの城主と対面する。天照僧正を倒すために城へ乗り込む準備が始まる。
十六
「お仙、お前は……」
言葉を飲み込む彼女が隠密頭の天狼の配下ならば、密命として散華衆の内情を探っているかもしれない。うかつに話せば、誰が聞いているのかもわからない。下手をするとお仙が影忍と知られてしまう。
「琴音は、無事なのか」
「平気だよ、あんたを待っている」
「そうなのか……親父に伝えてくれ」
「なにをだい」
「琴音を奪い返す」
ぐっとお仙の手首をつかんでゆっくりと下腹部から離す。お仙は立ち上がると一馬の顔を正面から見る。
「一馬、あんたは勝てない」
「それは判っている」
「力量ばかりじゃない、冷徹さもある。あんたは殺される」
「……散華衆は潰す」
自戒を込めてお仙に真意を伝える、嘘いつわりのない本当の決意。悪が許せないわけじゃない、大事な人が奪われたからじゃない、歪みをもった組織はあってはならない。災いが広がるだけだ。
「戻ってくれ、琴音を頼む」
「ふん、あんたも父親に似ているのかもね」
お仙は、するすると音もなく脱衣所から姿を消した。こんな所にまで散華衆の手が入っているならば、悠長に風呂に入るのは命取りだ。
身支度を調えると二階の部屋に戻る。気配がした、部屋には侍がいる。一馬は自分が無刀なのを自覚した。
(これは……強敵だ……)
部屋には刀があるが、中に入って抜刀するまえに斬り殺される。じわりじわりと嫌な汗がでてくる。一馬は殺気がないことを理由に、障子をあけた。
(露命臥竜……)
部屋にいる長身の男は、月華の兄だった。