ご免侍 九章 届かぬ想い(十二話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。
十二
琴音は、すぐには殺されないと聞いて安心した一馬だが、その子供が殺されると聞くと血がたぎる。
「それを命令しているものは誰だ」
「天照僧正」
「女と聞いたが」
「そうだ、私たちの母親だ」
ぐっと息がつまる。頭が整理できないのか疑念が浮き上がっては消える。
「ならば、孫をイケニエにするということか」
「そうなるな」
大烏元目は、目を伏せる。身内が元凶だった場合にどう動ける。父の藤原左衛門が敵、琴音の母親が敵、理だけで成敗できるのか……
忍者の露命月華が不思議そうな顔で質問する。
「なんで自分の孫をイケニエにするの」
「イケニエを終わらせるために、安徳様を復活させようとしている」
「……それ本気」
「復活できれば、祟りも消える。そう考えているようだ」
海賊の娘、伊藤加代が続けて質問をする。
「なら天照僧正を倒せばいいのか」
「そうなるな」
大烏元目は、少年のように眼をふせる。物言いは大人だが、まだ若く元服前にも見える。一馬はあわてて口をはさんだ。
「加代殿、そうは簡単にはいかぬ」
「なにが悪いの」
「その……城内の勢力の事もある。むやみに殺して解決するわけじゃない」
「そんなもんかね」
「元目殿の父親も殺されている。それはイケニエを良しとする一派がいるからだ」
「めんどくさいね、それよりも加代でいいよ」
「……わかった」
ふいに露命月華が、太ももを拳骨でなぐる。
「痛い」
「痛くないよ」
月華が一馬をにらみながら、ボンボンと叩いている。