SS 猫がおんねん!【#はじめて切なさを覚えた日】#青ブラ文学部参加作品
猫が死んでいた。
「クロ、クロ」
指でつつくが、もう生きていないのは本能で判る。キッチンの床でぐにゃりとした塊を見て、はじめて切なさを覚えた日だ。
ペットが死ぬのは悲しい。母親を探そうと見回すと部屋の隅に女の子が立っている。大きな丸い目の瞳孔が広がって黒々としていた。
「……誰?」
「クロよ」
混乱したが、彼女がクロなのは直感でわかる。
「なんで死んだの」
「毒よ」
「毒なんてないよ」
「あんたのおかあさんが毒いれたの」
母親は猫が嫌いだった。気味悪がっていた。クロは復讐に来たと思う。
「ごめんよ、僕がなんでもしてあげるから」
「ふん、子供に何ができて? まぁいいわ、あんたが成人したら奪ってやるからね!」
ふと気がつくと彼女は消えていた……、ノロノロと母を探す。クロを殺した母を探す。
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「なんでそんな話をするの?」
「いや……なんか似ていて」
クロに似ているなんて言えないけど、彼女は猫に見える。しなやかでやわらかい体は骨を感じさせない柔軟な体で俺を魅了した。
「結婚してくれるわね」
「……ああ」
初めての彼女は初めての相手だった。結婚して母親に会いに行くと叫び声を上げて卒倒した。
「かあさん」
「もう死んでるわよ」
「……クロなのか……」
「そうよ、これは呪い」
クロが俺を抱く、気がつくと視点が低い、床から見上げるとテーブルが頭上高く見える。
「ニャー」
「ニャー」
二匹の猫が人の気配が消えた家から逃げ出した。