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SS 夜に走る【夜行バスに乗って】豆島圭さん企画参加作品
夜行バスに乗ると疲労気味の運転手がうつむいていた。バスの運転は激務と聞いている。心配だ。
(事故が起きたら……)
薄暗いバスの通路を歩くと座っている客は外国人が多い。田舎の研修場から都内まで逃げるつもりなのか。
その時に眼のすみに奇妙な人間を感じた。夜行バスのトイレの横の席で、フードをかぶった男? が座っている。外人なのかもしれない。
激安の新宿行きのバスだ。どんな奴が乗っているのか判らない。一番後ろの席に座ると眼をつむる。
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「……サービスエリアに到着します」
深夜バスは休憩がある。運転手が休むためだ。サービスエリアでは、自販機などで軽食や飲み物を買える。
安い夜行バスなので体が痛い、バスから降りることにした。外は太陽が出ている。粗末な休憩所と密林が見えた。
「もう到着したのか……」
違う、日本には見えない。ぞろぞろと外国人が降りていく。俺は理解できないまま、バスに戻った。運転手に話を聞こうとしたが、彼は疲れてハンドルに頭をつけている。
(夢かもしれない……)
リアルな夢だ、バスで日本から外国に走れるわけがない。フードをかぶった男は……まだ座っていた。自分は黙って席に戻る。その後は、たびたびサービスエリアに到着する。乗車客は、減り続け最後にフードの男と俺だけが残った。
(みなどこに行くんだ……)
「……○○交通に、ご乗車ありがとうございます、次は三途の川です」
聞き間違いじゃない、バスが止まるとフードをかぶった男が立ち上がった、好奇心から一緒に降りると……灰色の空と広大な川が流れている。
「あんたも降りるのか?」
「いや、休んでるだけだ」
フードを外すと頭が半分潰れていた。彼は俺に手をあげて挨拶すると、川の方に歩いて行く。
(俺も死んだのか……)
何もわからないままバスに戻る。運転手はハンドルに頭をつけている。俺は何も言わずに席に座る。眠気は無い、次のサービスエリアが楽しみだ。
「……○○交通に、ご乗車ありがとうございます、次は天国です」
予想通りだ、俺は喜んで、そこでバスを降りる事にした。
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バスが新宿に到着する。客は誰も降りない、降りる客が居ない。運転手は運転席から立ち上がり、缶コーヒーを買いに降りる。無表情な彼は、少しだけ安らいで見えた。