ご免侍 二章 月と蝙蝠(三十話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。謎の坊主に襲われた一馬は、女忍者のお月に助けられた。
「ここがあんたの家かい」
「そうだ、ちょっと狭い」
一馬とお月で武家屋敷の玄関先に入ると、水野琴音が、顔を見せる。
「おかえりなさいませ……」
琴音は、不思議な顔して一馬とお月を交互に見る。
「……琴音、今日から住む事になる、お月だ」
「なに妹さんなの」
「いや、その違う、事情があってあずかっている」
「なら私と一緒か」
お月は、組んでいた一馬の腕を離すと、下駄を脱いでさっさと家の中に入る。まるで前から住んでいるかのような態度だ。
「どなた様ですか……」
「事情があって、父から頼まれた」
「判りました、お食事を用意します」
「……すまない、まるで女中のように働いてもらって」
「父上のお世話をしていました、普通の事です」
琴音は、ついっと立ち上がると無表情で台所に向かう。一人残された一馬は、自分の家なのに居心地が悪く感じる。
「きゃっ」
お月が、声をあげる。あわてて部屋に向かうと一馬の祖父の藤原一龍斎が、お月の尻をなでている。
「お爺々様、父上からおあずかりした客人です。いきなり無体なまねは」
「尻くらいなでても減らん、それにこの娘は、わしに色目を使ったからな」
「じいさんに色目なんて使わない」
まるで親子喧嘩のように騒ぎはじめた、今までの静寂な毎日が嘘のように感じる。
ため息をつきながら廊下にでると陽が落ちて暗くなりはじめた。どこかでキィキィと蝙蝠が鳴いている。
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