ご免侍 九章 届かぬ想い(四話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れ去れた琴音を助けられるのか。
四
隠密頭の天狼が一馬の頭頂部をじっとにらむ。もうそれだけで頭のてっぺんが焼けるような錯覚がある。
(幕府の船が来たなら、もう俺の出番が……)
やや絶望的になりながらも、琴音を助けたいので同行を許して欲しいと頼む事ばかりを考えていた。ふと顔を上げると、天狼の眼から涙の筋が見える。
「一馬、祖父の藤原一龍斎は残念じゃった」
「私が敵をうちます」
「わかっておる、わしが来たのは別の理由じゃ」
「……」
「散華衆は、死者を復活させようとしている」
「どのような意味ですか」
にわかに信じがたい話で一馬は先ほどまでの興奮がおさまり冷静さを取り戻す。散華衆の行動がよくわからないのは、単に神仏にイケニエを捧げるだけならば、人をさらう必要がない。どこかの村から女郎屋に売りに出される娘を引き取れば終わる。
(なぜ、鉄甲船まで作るのか……)
「どうやら禁忌の術を使い、日本を混乱させようとしている。戦国時代に逆戻りじゃな」
「死んだ人間が生き返るのですか」
「大陸からの言い伝えもあるが、反魂の法だ」
「それで生き返らせて何をするのですか」
「王となり支配をしたいのであろう」
一馬は混乱するばかりで、たわけた戯れ言にしか聞こえない。理屈がまったく通用しない話だ。もし死者を生き返らせる事ができるならば、織田信長でも豊臣秀吉でも生き返らせて天下を取れる筈だ。
「たとえ本当に生き返ったとしても、それだけでは何も変えられません」
「彼らが生き返らせたいのは、平家の一族じゃ」
「平家……」
「そうだ、壇ノ浦で死んだ安徳天皇様じゃ」
「馬鹿な……そんな事をして……」
(いやもしかして、大量の子供達を用意したのは……)
体が冷えて動かない。もし散華衆が、死者の軍団を連れて京に上るならば……、すべてが変わる。