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SS 流転2(終) ケモナーワールド

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私たちは各地を転々としている、どこに逃げても父方の追っ手が来た。
やはり私の技術が貴重なのだろう。
出産後はしばらく動けなかったが貧しい漁村に隠れたので
数年は安心して暮らせた。
息子が生まれたので『ショータ』と名付ける。

「ダルシマさん、変な奴らが来てます」
ネズミ族の漁師が教えにくる、追っ手だろう。
「ここまで来たか、アルナ、今夜中に出発しよう」
すぐに逃げられるように最低限の荷物しか無い。
村人は主人の知見で助けられているので、私たちを逃がしてくれる。

「だっこー」
幼いショータはもうかなり大きい、ダルシマが肩車をした。
「逃げるのは限界かもしれない」
主人は弱音を吐いている
彼は研究者として、都市部で暮らしたいようだ。
しかし農民の土地を根こそぎ奪ってまで、絹糸を生産をしても
供給過多になるのは目に見えている
希少価値があるから高いのに、両親は理解できない

なにか桑畑を増やさないで、絹糸を増産できないだろうか?
『蚕馬(さんば)伝説』を、思い出す
話の内容はこんな感じだ
『父親と娘で蚕を飼っていたが、父親が用事で旅に出ると
 行方不明になる。
 娘は心配をして、大切にしている愛馬に愚痴を言うと
 愛馬は人と会話ができる神の馬だった。
 私の嫁になるなら父を連れて帰ると伝える。
 娘が約束すると、本当に翌日に父親を連れて戻る。
 彼は旅先の山奥で怪我で動けない所を愛馬に助けられた。
 不思議に思い、なぜ馬が助けに来たのか娘に聞くと
 娘は愛馬との約束の件を伝えた。
 動物に嫁にやれるかと彼は
 激怒して愛馬を殺してしまうが
 その愛馬を見て、娘が涙を流して馬にすがりつくと
 金色に光る蚕に変化した。
 その蚕は、今までよりも多くの糸を出すようになる』
伝説だがヒントにはなる、今の時代は、動物と人との
遺伝子融合の技術があるからだ。

夫に頼んで研究室を借りると私はそこで何年も研究に没頭した
追っ手が来ても「今は研究中だから待って」と頼んだ
幸い彼らは暴力で連れ戻さなかった。
ただし夫と息子は、都市へ戻された。
人質だ。

そして私は研究を完成させる、究極の方法だろう
私は私で試してみる。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ダルシマは現地の研究所で異変があると伝えられると
急いで戻る
研究室には誰も居ない、机には俺宛の手紙がある
「これで桑畑を増やす必要はありません。
 定期的に栄養を与えてください」

研究室の真ん中に大きな繭がある、絹糸で作られている
人の大きさの繭から透明なチューブが伸びている
栄養はここから入れる筈だ

アルナだったものは、遺伝子操作で蚕人間として糸を
生成し続けていた。

ショータにどう説明すれば良いのか俺は判らなかった。

おわり



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