SS お狐娘【祈願上手】#毎週ショートショートnoteの応募用(650文字位)
たまにお狐娘の長屋に人が来る。父親が易者だったので頼み事をしたい客だ。
「そうですか、お父上はお亡くなりに……」
「私は占いができませんので」
でっぷりと太った男は眼をうつろにさまよわせる。彼は呪われている。
「なんとか助けていただけないでしょうか」
「祈願祈祷したいと?」
「はい」
「これに名前を書いて」
自分の名前を書かせて、それを小さく折りたたむ。それを、別の紙で作った『やっこさん』の中におさめる。
「これを家に置いて、そのまま旅立ちなさい」
「はぁ……」
半信半疑の男には、金はいらないと追い払った。障子がすっと開くと狐の面をかぶった幼子が顔を出す。
「あんなんで助かりますか?」
「あれは金貸しだ、金を捨てて逃げれば……」
幾日かして同心の八丁堀の旦那が顔を出す。
「これはお前が渡したのか?」
「そうですね」
祈願上手で魔除けをよく作るので、同心はなにかあると私の所にくる。私が同心に惚れていると勘違いをするくらいには、お人好しの男だ。
『やっこさん』の腹はやぶられて血まみれで、顔にあたる部分がちぎれていた。
「この部屋で男が死んでいた、まるで紙をちぎったように体がバラバラだったよ」
「ふむ……、呪う相手が一人じゃなかったと……」
火鉢に『やっこさん』を入れて燃やす。黒く濁ったような煙が薄く立ちのぼる。
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