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ご免侍 八章 海賊の娘(六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。
六
村上主水の屋敷を後にすると汗がにじみ出る。西国に近づいたせいか、やたらとあたたかい。
(いや、この汗はそんなものじゃない……)
村上栄が夫を欲しがっている。村上水軍の長のために島の男達と決闘でもしたのだろうか。
栄は確かに強いが、先ほどの戦いからは殺し合いには感じなかった。藤原一馬は、何回も生死をかけて戦ってきたが、相手の命を断つ覚悟は別格だ。激情であれ無感情であってもどこの部位を狙うか見える。
(こいつは、ここを攻撃して俺を殺すつもりだ……)
腕や腹や頭を狙う。それが見えてくる。
(栄は、激しい攻撃でも命を断つ事に執着していなかった)
色々と考えながら歩いていると、祖父の鬼山貞一が意味ありげに見ている。
「私は……婿になってもかまいません」
「江戸での仕事は、もう嫌か」
「嫌というか、あまり意味が無いように思えて」
「親父が嫌いなのか」
「そうではありませんが……私が仕事を継ぐ意味があるのかなと」
ご免侍が世襲なのかは判らないが、代々受け継がれてきた。だが所詮は、御家人で役目もない。この家を継いでも人を殺して生活を続けるしかない。
(果たして自分の子に、殺しをさせるのか)
悪人は殺さねばならぬ。それならば岡っ引きのドブ板平助も山賊の権三郎も殺す事になる。もっと言えば露命月華も殺さねばならぬ。
(人を殺したからって何が変わるのだろう……)
鬼山貞一が、一馬の肩をポンポンと優しく叩く。
「お前が好きなようにしろ、俺は娘の敵を討ちたい。俺は自分の怒りをおさめるために、お前らを使うだけだ」
「怒り……」
俺は、琴音を害するものに怒りがあるのか、母を害したものに怒りを感じるのか。無いと言えば嘘になる。しかし一馬は違う理屈があるように思える。
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